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メディアグランプリ

家の居間のテーブルにて、白紙の進路希望を前にして


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:中沢真弓(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
博多の冬は案外寒い。
美味い鍋料理があるのも当然かもしれない。
 
そろそろ居間のテーブルを、こたつにしようかと思った朝の事だ。
「まだある……」
学校からのプリントが置きっぱなし。
 
「第3回 進路希望調査」
 
今年、次男は高校受験。
初めて、自分の進路を決める。
彼はまだ悩んでいた。
 
寒い……。
早くこたつにしよう。
元々こたつだから、天板をどかして、こたつ布団をかけるだけ。
 
「俺がやる」
起きた次男が、横から天板を奪い取る。
おかげで、重い天板に手こずる事なく完成した。
「ありがとう、助かった」
せっかく起きたのに、
次男はまた布団へと戻っていった。
「こたつがあったまったら起こして」
何だ、そういう事かよ。
 
こたつ布団のカバーは、
私が昔、リネンに刺繍を入れたものだ。
 
小さい頃から次男を保育園に預け、
よく先生が、次男が描いた絵を帰りに持たせてくれた。
落書きの様な絵が、たくさん集まった。
 
「何かは分からんが、かわいいな……」
 
当時、思いつきでその絵をリネンの布に刺繍した。
刺繍している私の横に次男が寄ってくる。
「こえ(これ)、こびびと(恋人)なの」
舌ったらずの2歳の口から、何て大人びた言葉が!
ハートの中に書いた文字は、
どうやら「こびびと同士」の子の名前。
名前の、最初のひらがなを、ようやく書いたものらしい。
「大人にはこんな絵描けない」
そんな風に思いながら刺繍した。
 
あの頃は、かがんで話をしていた子が、
今は私を見下ろすほどの背丈になった。
そしてもう、高校受験。
 
先日、進路希望調査の紙を前にして、
話し合いを繰り広げた。
 
「やりたいことがある方が普通なんか? 俺にはまだ何もない」
「普通がどうかは関係ない。あんたがどうしたいかが大事なんや」
「だから、それが分からんけん、書けんのや。みんな何のために高校や大学やら行くんや。
何がしたいのか分からん俺が、一体どこの高校を書けばいいって言うんや」
 
こんな風に考える次男はむしろ真面目だ。
自分の偏差値に合わせて、
自動的に行く高校を決める現実に対して、
次男は高校選びを適当にしていない。
 
仰る通り……。
しかし、「提出期限」が迫っている。
どこか高校の名前を書いて、先生に提出しなければならない。
 
「子供の頃から夢があって、それに向かってそれを叶えるなんて、一握りの人間だ」
15歳の口から、現実に疲れた大人の様な言葉が!
「海賊王にオレはなる!」くらい、言ってくれても構わないのに。
 
「だから、やりたいことなんてない。行きたい高校なんて言われても分からない。
どこに行きたいかなんて、なにで決めるんだ? 大学行くなら普通科か?
でも大学に行きたいと、思うかどうかも分からないのに!」
 
困った。
何も言えない。
なぜなら私は、やりたいことが見つからないまま大学まで過ごしたからだ。
就職時には氷河期で、「やりたいこと」なんて無い方がむしろ都合が良かったくらいだ。
 
こんな私が、何を言ってやれるというのだ……?
 
「そうだ、世の中は甘くない。無難な職業を目指せばいいじゃない?」
と言って、いいものなのか?
それとも、
「人間、やりたい事を思い切りやって、幸せになるために生まれたんだ。夢を追わないでどうする?」
と言って、いいものなのか……?
 
共感する事も、叱咤する事も、
何だか彼の人生に手を出してしまう様で出来なかった。
 
しかしもう、提出期限が迫っている。
「とにかく偏差値で決めてしまいなよ、やりたい事は高校で見つかるかもよ」
こう言ってしまって、いいのだろうか?
学校が決めた、提出期限を守るためだけに……。
結局、あれから話し合いは中断したままだ。
 
こたつカバーの刺繍をぼんやり見ていたら、
突然思った。
このままでは、何か大切なものを失うのではないか?
失ってはいけない。
失っていいものではない。
 
「おい! こたつ、あったまったぞ」
布団で丸まる次男を叩き起こす。
「ふあい」
のそのそと、デカくなった体を今度はこたつ布団に沈める次男。
 
「母は待つ! 待つことに決めた!」
「ふえ?」
「学校から何て言われようが、待つ。進路調査は白紙で出せ」
次男はパッチリと目を開けた。
「何なら絵でも描いて出せ。アンタが納得する選択を、母は待つ」
 
情けないが私には、
大人として次男に掛けられる言葉がない。
勇気付ける言葉もない。
あれこれアドバイスできる経験もない。
ここまで生きて、自信を持って言えることが何もない。
すまん、次男。
情けない……これが母の精一杯だ。
 
「お母さん……見てないの?」
「はい?」
「早くサインして、ハンコ押しといてね」
「はい?」
こたつ布団の端で、次男の口元がニヤリと笑う。
目の前の、進路希望調査の紙を手に取った。
 
第一希望 (毎日行きたくなる)高校
 (勉強が楽しくなる)科
 
やりやがったな!
テストの珍回答シリーズかっ?
 
でも、これ以上の正解があるだろうか。
先生は、怒るに怒れないだろう。
これは間違いなく、次男の進路希望なのだから。

 
 
***

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2018-11-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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