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メディアグランプリ

さみしさを分かち合った愛犬はサンタクロースだった


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:ゆきもと みちこ(ライティング・ゼミ平日コース)

それは臆病な性格でした。
アマノジャクでした。
プライドがありました。
私が小学4年生から大学4年生の13年間、同じ屋根の下でいっしょに育った、一匹の犬の話です。

息が白く凍る1月。我が家にシェットランド・シープドックという、コリーの中型犬種のオスがやってきました。生後40日の赤ちゃんで、ブリーダーの大人の両手にすっぽりおさまっています。体はまるまるとして表情は動かなくて、お人形さんのようでした。でも確実に生きていて、体中をぶるぶる震わせていました。
ブリーダーさんがあやすように話しかけます。
「寒いからかな、知らない場所が怖いからかな。ついさっきまでお母さんと一緒にいたもんね」
「準備した毛布に寝かせてあげようよ」
犬を飼いたい、と一番強く言っていたお姉ちゃんは目を輝かせています。
我が家に来たのが真冬だったので、おおいぬ座の星座「シリウス」と名付けられました。

この小さな存在に、4人兄弟の末っ子だった私は戸惑いを隠せませんでした。自分より小さくて弱いものは初めてです。それは、町で見かけるベビーカーの赤ちゃんよりずっとリアルに、リビングのソファーにちょこんと座っているのです。私ははじめ彼とどう接したらいいのか分かりませんでした。

そんな私の気持ちはよそに、シリウスはすくすくと成長しました。だんだん手足が伸びて、1年もたつと立派な成犬になりました。胸の毛並みは真っ白に光り、背中には茶と黒色を優雅にまとっていました。耳がぴんと立ってキツネのようだったけど、目鼻がくっきりしていてハンサムな犬でした。

しかし肝心な中身がくせ者に育っていきました。
とにかく臆病で、すべての人、あらゆる音に吠えました。オスなのにかん高い女の子のような鳴き声で、家中に響きました。例えば救急車の音が遠くからすると、私は「シリウスが吠える!」と身構えて耳を塞いだものです。

その臆病さがとてつもなく可愛いときもありました。救急車に吠える声がだんだん遠吠えに変わっていくのです。
「ワオーーーーーン、ワオン、ワオワオワフ……ぶえくしゅん!」
家族はその不器用さに歓喜します。
「シリウス! 遠吠えヘタねー! くしゃみかわいいー!」
シリウスをワシャワシャと撫でようとします。でもシリウスはアマノジャク。犬のくせして撫でられるのが好きではありません。しかも、自分がからかわれていると分かるものだから、へそを曲げてそっぽを向いてしまいます。

それでいて、撫でるのを止めると「なんでやめるの?」とそっとすり寄ってくるのです。独りはそれでまたさびしいようです。家族の誰かがつぶやきました。

「シリウスは家族そっくりだ……」

犬は飼い主に似て育つと言います。その言葉から、自分がどう映っているのかを知り、神妙な気持ちになったのを覚えています。
家族それぞれの性格を受け取って、シリウスはますます家族の一員になりました。私はやがて、シリウスを親でも兄弟でも友達でもない「ペット」という存在として受け入れるようになり、毎日いっしょに育ちました。

やがて子供たちそれぞれに思春期がやってきました。
部活に行きたくない、塾に行っても成績が上がらなくてイライラ、ゲームばかりしてストレス発散。当然、日常生活の些細なことでぶつかり合いも起こります。
そうしたぶつかり合いの根っこには、「私を見て。さみしい。もっと認めて欲しい」という気持ちがあったように思います。家族から溢れるその感情は私にとって洪水のように激しくて、眩暈がしていました。

言い合いが始まるとシリウスは、めいっぱい吠えるのです。結局「シリウスうるさい!」と家族から怒られるのですが、シリウスはやっぱり吠え続けるのです。私には、シリウスが「やめて、やめて!」と言っているように聞こえていました。

シリウスが5、6歳になると、みんなやり場のない思いをシリウスで癒すようになりました。誰かが何か文句を言うと、「ねーシリウス。あんなこと言うんだよー!」とシリウスを話の間に入れました。私も言葉に詰まると、そっとシリウスの近くに座りました。
シリウスは、家族の潤滑油でした。
シリウスは、いざこざを会話に変えてくれました。

やがてシリウスは家族中の想いをまとうようになり、強い感情に反応する私はシリウスに近づけなくなりました。私が高校生の頃だったと思います。シリウスがしっぽをちぎれんばかりに振って「おかえり!」と歓迎してくれるのをスルーして、食事に向かいました。朝の「おはよう!」の儀式はひと撫でで終えました。

だんだん、シリウスは私に近づかなくなりました。シリウスの足腰が少しずつ弱っていくのに私は気づいていたのに、大学生活に忙しくしていました。

そして13歳のとき病気で死んでしまいました。ある土曜日の午前中でした。犬は死に時を選ぶと言います。シリウスは土曜午前という、家族全員が集まって翌日に葬式をしやすい、一番迷惑がかからない時に静かに息をひきとりました。

私が愛犬にしてあげられたことは、山ほどあったはずでした。今までに感じたことのない、とてつもない「さみしい」という気持ちに胸をぎゅっと掴まれました。

なんと実は、シリウスはそれからもたまに、私の元を訪れてくれたのです。シリウスのことがなんとなく心に浮かんだり、夢に出てきたりするのです。それは決まって、私が社会人になってひとり暮らしを始めて、仕事の壁にぶつかったり、友達との関係に悩んだりしたときでした。

やがてシリウスは現れなくなりました。それは明らかに、自分ひとりでは消化しきれなかった気持ちをひとりで消化できるようになった時期でした。

愛犬はサンタクロースでした。小さい頃を共に過ごしたシリウスは、自分の幼さの化身でした。サンタクロースは、成長に一生懸命で心がまだ弱い限り、プレゼントを持ってきてくれるのです。そして、私はいつしかサンタクロースからのプレゼントを待ち望まなくても大丈夫になっていたのです。それは一般的に「自立」と呼ばれるものかもしれません。

誰でも自分の幼さを分かち合った存在が心の中にいると思います。恋人かもしれない。放課後に遊んだ公園かもしれない。それはサンタクロースのように、大人になって振りかえると、甘酸っぱくて優しい気持ちになる思い出です。
愛犬は、自分の心が弱って幼く戻ったら、きっとまた出てきてくれます。

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この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2018-11-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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