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メディアグランプリ

授乳は、格闘技ね


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:中沢真弓(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
第1ラウンドは唐突に始まった。
 
15時間の長い陣痛の末、出産。
ベッドでぐったりしていたところに、容赦なくゴングが鳴る。
「初乳は大事!」
看護師さん、いや、赤ん坊は待ってくれない。
すでにおっぱいは膨らんで、
授乳モードにチェンジしていた。
すごい! 私の貧乳がGカップに!
喜びも束の間、まさかこの後、戦いの場が待っていようとは……。
 
新米ママと生まれたての赤ん坊が集まり、
一斉に「授乳 実践編」が始まった。
ママも初めてだが、
赤ちゃんも初めてなのだと、ここで気がつく。
まだ目が見えていないので、
赤ちゃんは匂いや触感でおっぱいを探すらしい。
看護師さんの指導を聞き、
みんな一斉に乳を出して赤ん坊を抱える。
「赤ちゃんは、おっぱいを飲めて当たり前」
誰もがそう思っていたが、
やってみるとそうではなかった。
難なく乳首をくわえ、最初からゴクゴクとよく飲む子。
乳首の位置が分からず、首を左右にフリフリしてさまよう子。
初めから、母の乳首を拒否する子。
こんな人生のはじめから、できるできないに分かれるなんて!
「いや、そこは、個性というものよ」と明るく看護師さんは言う。
「なかなか上手くいかない母子」に、看護師さんの指導が入る。
おっぱいは、乳首を吸うというより、乳首の周りごと噛んで出すものらしい。
「もっと深くくわえるのよ! 深く!」
赤ちゃんに言ってるのだとしたら、まだ分からないと思うけど、
リングサイドのセコンドよろしく熱い指導が入る。
「赤ちゃんを抱く手を、こう回して、赤ちゃんの口を乳首の真向かいに持ってこさせる」
「口を開けたらすかさず乳首を押し付けて、深くくわえさせる、いいわね!」
カーン! 明らかに頭の中でゴングが鳴った。
「そうそう、いいわよ! だいぶ手元が慣れてきたわよ」
隣の子は、何が気に入らないのか全力でおっぱいから顔を背ける。
「はい! 今よ!」
「はい! 今! あ、惜しい!」
もうこの頃には、あのボクシング映画のテーマが脳内再生されていた。
必死に乳首を探す赤子! 乳首を差し出す母!
離してはくわえさせ、失敗し、また離してはくわえさせ……。
生まれたて、2キロ台の赤ん坊を使って、トレーニングしている集団に見える。
「よーし、こちらのママ達は少し残ってね」
なんだって?
私と、隣の母子は居残りのようだ。
「おっぱい減らなかったでしょ、溜まっちゃうから絞ってね」
えっ? 絞る?
哺乳瓶を受け取り、搾乳の仕方を教わる。
搾乳……自分のおっぱいを自分で絞って、哺乳瓶に貯める。
「まるで牛だね……」
「そうね、牛……」
「おっぱい飲むの、下手な赤ん坊がいるとはね」
「それが自分の子だと、遺伝? とか考えちゃうね」
このママとは仲良くなり、
搾乳しながら「ホルスタインまちこ」「ジャージーまゆみ」と呼び合う仲になる。
 
さあ、第2ラウンドの鐘がなる。
いや、看護師さんの呼び出しが、廊下に響く。
この産院は母子別室なので、母親が呼ばれるのだ。
 
「ホルスタインまちこ」の赤ちゃんは、相変わらず乳から顔を背ける。
片手に赤ん坊、もう片手に自分のおっぱい。
赤ん坊が顔を背けた方向に、また、さっと乳を差し出す
また顔を背ける、まちこの赤ちゃん。
まちこはもう汗だくだ。
「もう搾乳して、哺乳瓶であげようか?」
看護師さんのタイムが入り、まちこは搾乳して乳を哺乳瓶に貯める。
哺乳瓶の、ゴムの乳首を赤ん坊に差し出す。
すると、くわえたのだ! ゴクゴク飲み始めたのだ!
「え? 気に入らないのは私の乳首なの?」
「私の乳首の何が気に入らないの?」
まちこが吠える。
まあまあ、赤ちゃんはお母さんのこと、嫌いだなんてあり得ないから、と看護師さんのフォローが入る。
 
さて、もう一方の上手くいかない我が子だが、
乳首は探せるものの、おっぱいのくわえかたが甘い。
口を大きく開けないのだ。
「でもねえ……せっかくおっぱい出てるから飲ませたいよね」
看護師さんも、方針としては、おっぱい推奨派。
赤ん坊も空腹だろうから、そろそろなんとかしなくては。
まちこと同様、哺乳瓶に搾乳して与えようかと思ったが、
もう少しだけ頑張ってみることにした。
片手でおっぱいを下から伸ばし、先が細長くなるようにしてみたのだ。
看護師さんも手伝っての新しい技。
「よし、今だ!」
息子の開いた口めがけ、ロケット型のおっぱいを突き出す。
息子がくわえる!
「おおーーーー!」
勢いよく飲みだした!
やった!
よほどお腹が空いていたのか、今度は一度食いついたらなかなか離れない!
そのままでいいと指導が入り、そのまま食いつかせる。
「じゃあ、次はゲップね、肩に抱っこして背中をトントンしてあげて」
ああ、やっとゲップのトントンだ。
やりました! 「ジャージーまゆみ」はやりましたよ! エイドリアーン!
「ザバーー!」
生温い感触が首筋に広がる……。
「あらあら、吐いちゃった」
そして、隣で汗だくの「ホルスタインまちこ」が言ったのだ。
「授乳は、格闘技ね」

 
 
***

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2018-12-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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