メディアグランプリ

鼻血を出している子供二人を抱えて外科に駆け込んだ日


 
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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髙山彩子(ライティングゼミ日曜コース)
 
人生で一番、やっちまったなぁっていう日、誰にでもあるんじゃないだろうか。
私にとっては、まさにこの日だった。
 
私には2人の子供がいる。2人目ができた時、1年だけ家にいて専業主婦をした。息子2歳、娘0歳。どうしても動き回る息子に目が行き、口が出、手が出る日々。毎日何度も大声をあげる親子3人で、近所の方から「お母さんが一番やかましい」と苦言を呈されるほどだった。息子が泣く、かんしゃくを起こして娘にあたる、娘が泣く、私が怒るの堂々巡りが朝から晩まで繰り返されていたように思う。おかげさまで、娘は全く昼寝の習慣がつかず、私はへとへとだった。ゆったり家事だけしているイメージだったけど、申し訳ないが働いた方が私には向いている、と何度も思ったものだ。外に出て働く夫がうらやましくてならなかった。
 
ゆったり子育てしているつもりだけど、何をどうしたらいいかさっぱり分からなかった。とにかく息子を走り回らせようと外に連れていき、倒れるほど遊ばせた。児童センターもあったが、そこでは元気すぎる息子を野放しにするのは危険極まりなかったのだ。本人は何の悪気もないから、大人が見張っているしかない。結果、ひたすら謝り続けながら、息子を見張る時間になってしまう。気も体も使いすぎて帰ってくると、自分でも表情が消えているのが分かるくらいくたくたになっていた。そこから買い物をしてご飯を作り、洗濯を取り込んでたたむのだ。もう考えただけでぐったりである。
 
そんなある日、雨で外に出れないけれど、児童センターに連れて行くのも億劫だった私は家で子供たちを遊ばせようと思った。娘が寝てくれたので、スイングラックに乗せてそっと部屋を出た。ほんの一瞬の出来事だった。ぎゃー! という娘の泣き声が響いてきた。何事かと部屋に入ると、娘の姿がない。娘をのせたはずのスイングラックから姿が消えていて、代わりに息子がそこに乗っているのだ。訳が分からないまま、ふとしたを見ると、娘はスイングラックの下に転がっていた。床はフローリングだったため、頭を打ったに違いない。しゃくりを上げて泣く娘を抱き上げ、息子を見ると、息子は平然とスイングラックに揺られていた。この時かなり頭に来ていたが、娘に異常がないかを確かめるほうが私の中では優先されていた。
 
家族に話すと「やきもちよ」という。その割には息子は私にべったりというわけでもなかったので、いまいちピンとこず、同じことが起きないようにするにはと策を練ることに気持ちが傾いていた。
 
別の日、また娘がギャー! と泣くので駆け付けると、今度は息子が娘に馬乗りになり、娘の頭を床にたたきつけているところだった。なぜそんなことになったのか分からない。息子も小さかったから、今聞いたところで真実は分からないだろう。とにかくそれを見た瞬間、一瞬で頭に血が上る。あんなこと、後にも先にもない。思うより先に体が動いていた。息子をべりっと娘から引きはがした。娘が死んでしまうと思ったのだ。勢い余って息子は壁にぶつかった。その瞬間、私はやっと我に返ったのだ。
「なんてことを!」
子どもたちを危険な目に合わせてしまったと、泣きながら子供たちを車に乗せて、すぐに外科に連れて行った。あまりの様子に、看護師さんが言った一言は
「お母さん、まず落ち着いて」
だった。
 
待合室で待ちながら、どんどん冷静になってきた。娘は泣き止んでいるし、反応もある。後頭部にこぶはあるが、吐いたりはしていない。息子も鼻血が出ているが、もともとものすごく出やすいたちなのだ。私の剣幕に驚いて泣いているだけだった。診療の結果、何も異常はなかったのだが、打ちどころが悪ければといまだに後悔している。
 
あの時の私に会えるなら、会って抱きしめてあげたい。もっとみんなを頼っていいんだよ。何もかも自分一人で何とかしなきゃって思わなくていいよ。あなたはあなたでいいんだよ。
 
何年かして職場では同じように苦しむママたちを何人も見てきた。渦中にいると余計に自分のことは見えないものだ。そのたびにこの日のことを思い出す。私も同じだったのだと。
 
意味のないことは起こらないもので、今、私はお母さんたちの心に向き合う仕事をしている。教育コーチとなった今、あの日の私と同じ苦しみの中でもがいている人を抱きしめたいと思う。話を聞くよ、つらい気持ちを受け取るよ、頑張っているね、あなたは素敵だよって伝えていきたい。子育て中のお母さんたちは、世間が思っているよりずっとずっとまじめだ。真面目がゆえに空回りしてしまうのだ。
 
これを読んでいる人で、まさに今子育てに苦しさを感じている人に届けたい。
「大丈夫、あなたはあなたのままでいい」
 
 
 
 
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2019-04-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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