週刊READING LIFE Vol.32

人生には旅がつきもの《週刊READING LIFE Vol.32「人生の計画を立てる」》


記事:飯田峰空(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

先日、スペインに旅行に行った。
スペインを旅しようと決めた時、私には行ってみたい都市が7つあった。7都市も行きたいところがあるのなら、スペイン全体をくまなく網羅するツアーに参加するのが、リサーチや予約の手間もなくて便利で、コストパフォーマンスも高いのだろう。でも、ツアー旅行は選ばなかった。
私は、フィゲラスという片田舎の街に行きたかった。フィゲラスには、死ぬまでにどうしても行きたいダリ美術館がある。ダリ美術館に行くからスペインに行く、といっても差支えがないくらい私にとっては最優先事項だった。その反面、首都であるマドリードには全く興味がなく、マドリードに時間とお金を割くのは無駄とさえ思っていた。
 
首都マドリードに行かず、片田舎フィゲラスに行く。そんな偏ったツアーはどこにもなかった。
だから、私はその7都市を全部回りきれるように個人で旅程を組んだ。国内線の飛行機、特急電車、高速バス、タクシーなど、ありとあらゆる交通手段を使い、そのすべてを一つ一つ選び、全部個人で予約をした。
ホテルも同じように手配した。行き先々でホテルに泊まるものだから、合計で5つのホテルに宿泊した。そのホテル選びも妥協はしない。予算や立地の条件を入れて検索をすると、ゆうに100軒を超えるホテルが出てくる。それを1軒ずつ全部見ていく。
いいなと思ってキープしているホテルが次見た時には満室になっていたり、土地勘がわからないから地図とホテルを見比べながら、四苦八苦しながらそれでも検索サイトをくまなく見た。
たかがホテル、されどホテル。予算も潤沢でないから、そもそも十分なおもてなしを期待できるようなホテルは候補にあがってこない。それでも、おそらく一生に一度の滞在になる。だから一泊を出来うる範囲で最高のものにしたい、その一心だった。
 
結局、それぞれの都市の宿泊先や移動手段、美術館の予約などをなんとか済ませ、スペインへと旅立った。
正直、とてつもない労力はかかるし、旅行中も予約がうまくいっているかヒヤヒヤする場面もある。でも、自分の興味のあるところを好きな濃度で楽しめる、ツアー旅行にはない醍醐味を十分に満喫する旅になった。
 
私は、旅行に行くのが好きだ。
正確に言うと、旅行に行く計画を立てるのが好きだ。
 
同じ1万円でも、直航便に使うのか、現地の滞在時間を長くするために使うのか、ホテルのグレードアップに使うのか、その状況と気分によって違う。お金、時間、快適さ。それぞれに優先順位をつけて、取捨選択の作業をするたびに、自分の価値観が問われて露わになっていく気がする。
旅行先で何をするかと考える時、自分が何を大切にしてるかがさらに顕著になる。お金を、食事に使うのか、買い物に使うのか、現地での体験に使うのか。限られた時間で、やりたいことを詰め込むのか、一点集中にするのか、ゆっくり羽を伸ばすことに使うのか。
この無数の選択を続けて自分なりの旅行を作り上げていく時、同時に自分というものが浮き彫りになるような気がする。
面倒くさくもあるし、準備をしている時間を考えるときっと効率は悪い行動だ。でも私は、自分の優先順位や価値観を実感できるこの旅行の準備そのものが、好きなのだ。
 
この旅行計画記を周りにすると、たいてい面倒さがられる。そのことで、私は人よりだいぶ計画好きなのだと自覚した。
もちろん、自分の人生についても計画を立てるのが好きだ。仕事をコントロールするため、毎日をより充実して過ごすため、自分を成長させて目標を達成するために、手帳も日記も書いている。「自分会議」と称して、今日の計画や今後の計画を練る時間もとっている。
でも、人生のことになると、どうもうまくいかない。旅行の時には湧いてくる、計画性と実行力が、日常生活では発揮できないのだ。
 
例えば、今日は企画書を書こうと予定していたとする。でもそこに、急な用事が入ったとか、他の仕事が気になってしまって、別のことに手をつけてしまう。それはまだ建設的な方で、ひどい時には、「今日はその気分ではない」と言い訳をして、ネットサーフォンとか無駄に動画を見たりとか非生産的なことで時間をすり替えてしまう。明日できることは明日やろう主義になってしまうのだ。結局、締め切りに間に合うように作業はするのだけど、締め切りギリギリまでは許容範囲にして、どんどん先延ばしにしてしまう。
その結果、もともとの予定通りにことが進まなかったり、早く終わればもっとプラスアルファのことができたはずなのに、最低限の及第点に終わってしまうことが多い。無計画でそうなってしまうならともかく、計画するにもかかわらずそれができないから余計に落ち込む、という悪循環に陥って悩んでいた。
 
ある時、ふと私は思った。あの旅行の計画で生まれる、優先順位を決めて実行できる自分。そのエッセンスを毎日に生かすことはできないだろうか。
 
そして思いついた。
むしろ、毎日を旅行のように生きればいいのではないかと。
 
「今日という日は一度きりで、二度と戻ってこない」とよく聞く。でもそれを心に刻んで毎日を過ごすことは難しい。
日常生活でそれができないのは、明日が今日の延長という意識があるからだ。生活に必要なものは周りに揃っているし、それは次の日に消滅してしまうものでもない。一度寝ても、目が覚めた時には、必要なものは周りに揃った状態で明日になり、また一日が始まっていく。
だから今日やれなかったことは明日できればいい。むしろ、明日やるなら今日やらなくていい、という考えになってしまう。
でもそれが異国の地であれば、今日という日は一度きりだと十分に実感できる。その場所に居られるのが一日しかないと思えば、今日やれることは今日しかできない。明日には別の土地に行ってしまいもうチャンスがないと思えば、気分がどうこうなんて言わないし、いたずらにスマホで時間を使ったりしないし、やりたいことだけにフォーカスして集中できる。
だから、旅のように毎日の人生を生きる!という計画を立てて、手帳に大きく書いた。あとは実行するのみだ。
ま、計画を実行するのが一番難しいんだけどね。
 
 
 

❏ライタープロフィール
飯田峰空(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

神奈川県生まれ、東京都在住。
大学卒業後、出版社・スポーツメーカーに勤務。その後、26年続けている書道で独立。書道家として、商品ロゴ、広告・テレビの番組タイトルなどを手がけている。文字に命とストーリーを吹き込んで届けるのがテーマ。魅力的な文章を書きたくて、天狼院書店ライティング・ゼミに参加。2020年東京オリンピックに、書道家・作家として関わるのが目標。
 


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2019-05-13 | Posted in 週刊READING LIFE Vol.32

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