週刊READING LIFE vol.68

ドローンは中国の工作員!?《週刊READING LIFE Vol.68 大人のための「自由研究」》


記事:大矢亮一(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

大人は毎日忙しい。
そんな忙しい大人が、仕事と趣味を兼ね、自由研究と称してドローンについて研究した話を読んで欲しい。
その自由研究の結果、日本は大変な危機的状況にあることがわかってきた。
 
既にドローンという言葉を聞いたことがないという人は少ないと思う。
テレビのニュースや新聞で、連日このキーワードを聞かない日も珍しくなった。
このドローンとは何か。
あの、ラジコンヘリコプターのことだろうとだけ思った方は、まだドローンについてその一端しかご理解されていない。
ドローンの原型は、1935年にイギリス空軍で開発された射撃訓練用の自動運転航空機『DH.82B Queen Bee』(通称:クイーン・ビー)だ。
この機体は、イギリスの軍艦艦上から無線により遠隔操作を受け飛行し、他の艦の対空火器によって撃ち落とす訓練の際のターゲットとして利用されていた無人航空機だ。
この訓練が活発に行われるようになり、第二次世界大戦中、アメリカでも訓練で撃ち落とすための無人航空機を量産した。その無人航空機のことを『ターゲット・ドローン』(標的となるドローン )と呼んだ。ドローンとは雄蜂、正確には雄蜂の羽音を表現する音のことを言い、無人航空機のプロペラの音が雄蜂の羽音に似ていることと、初代の機体が『Queen Bee』(女王蜂)であるという二つのことをかけて名付けられた。
このターゲット・ドローンを使った対空火器訓練は、現在でも行われており、加えて空対空の訓練として無人航空機を有人航空機が打ち落としたり、無人航空機同士の撃墜訓練も実施されている。
そのある種の伝統的な意味合いも込めて、現在では複数枚の羽を持つマルチコプタータイプの小型無人航空機のことを総称して『ドローン』と呼ぶようになった。
日本では1980年代に、ラジコンヘリコプターを使った農薬散布が実用化されており、2000年代に入ってから流行の兆しをみせるドローンとは違った形でその産業利用が発展してきた。
その名残もあり、現在、ドローンを遠隔操作する際には『プロポ』と呼ばれる操縦端末を使って無人航空機を操作するが、そのプロボとは、二本のスティックを上下左右に動かし、その組み合わせで無人航空機の機体をコントロールする。主に二つのモードが一般的とされ、その一つが機体の上昇と下降を右のスティックで行い、機体の前後左右や旋回を左のスティックで行うモード1と、上昇と下降及び旋回を左のスティックで行い、前後左右への動きを右のスティックで行うモード2が存在する。このうち、日本ではモード1が多く使われ、海外ではモード2が使われることが多いと言われているが、日本で使うモード1はラジコンヘリコプターの操作時に利用されるスティックの組み合わせを意識したもので、この点においては現在国際標準化が難しいという伝統の問題がある。
世界的に2010年ごろからフランスのパロット社がホビー用のドローンを販売するようになり、コンシューマ向けにドローンが流通するようになった。更に2012年からは、中国のDJI社もドローン事業に参入し、その機体制御精度の高さからあっという間に業界ナンバーワンの座に躍り出た。
同じ頃、日本では、ラジコンヘリコプターの産業利用が安定していたため、このドローンをめぐる技術の革新性をその延長程度にしか捉えられず、ドローンの持つポテンシャルが正しく理解されなかったため、開発競争のムーブメントに乗り遅れた。
日本がそれに気づくのは、2015年4月22日、千代田区永田町にある首相官邸の屋上に一機の無人航空機が墜落してからである。このニュースは日本の安全保障面で大きな衝撃を与えると同時に、幸か不幸かは別として『ドローン』という名称を一躍国民に印象付ける出来事となった。この時、初めてドローンという言葉を耳にされた方もいるであろう。
この日から、急遽国会内でもドローンの取り扱いに関する有識者会議が行われ、今まで動向を見守っていた各産業界からのアドバイスを考慮し、ドローンの法律上における取り扱いが厳格化されることとなった。
たかがおもちゃのヘリコプターだと思われていたドローンは、テロの攻撃兵器になりうる重大な脅威であることが認識され、1954年(昭和29年)から運用されてきた航空法の大規模な改正のきっかけを作った。
首相官邸屋上へのドローン墜落からわずか数ヶ月後の2015年7月に航空法の改正が閣議決定され、同年9月の参議院で可決された改正航空法は、年末の12月10日施行されるという異例の急ピッチで進められた。
以降、ドローンは以下に挙げる関連法律の規制を受け、それ以前よりも自由に飛行させることが難しくなってしまった。
・航空法
・小型無人機等飛行禁止法
・道路交通法
・民法
・個人情報保護法
・電波法
・外為法
・産廃法
・刑法
・その他各自治体などによる条例
一見、何の関係もなさそうな法律に見えるものであっても、ドローンを購入したり開発したり、また飛行させたりするためには十分に理解していなければならず、各々の法律によってその罪状の重さは異なるものの、おおよそ五十万円以下の罰金か1年以下の懲役がつくと思ってもらえればよい。
つまり、知らなかったでは済まされないルールがあるのだ。
この規制について厳しい、という意見や、産業への促進を阻害するといったような意見も多く聞かれる。実際に、この規制は非常に大きな問題を生んだ。
ここからが本研究の最大のテーマ、ドローンは中国の工作員である、というお話だ。
先ほど2010年ごろから始まったドローンの世界におけるムーブメントの中で、中国のDJI社という企業が世界シェアを伸ばしてきたお話をしたことを覚えておいでだろうか。
2020年現在DJI社のドローンは、業界での世界シェアナンバーワン。
世界中で飛行するドローンの8割は、DJI社のドローンである。これはなかなかに強烈な数字だ。
ドローンはその飛行時に、飛行データを本体のセンサーによって感知し、記録する立派な情報端末である。どのような情報を記録できるかといえば、飛行に関するありとあらゆるデータを記録できる。例えば、現在最も普及しているそのDJI社のドローンを購入すると、どのようなことになるかを以下に記す。
DJI社のドローンを飛行させるには、まずはじめに購入後すぐ同社の配布するスマホ用アプリケーションや同社のウェブサイトから機体のシリアルナンバーを登録することになる。
機体のシリアルナンバーを登録すると、ネット上にある同社のデータベースへ機体が登録される。
飛行を開始すると、専用アプリの画面を通じて、様々な飛行情報がフライトコントローラと呼ばれるプロポ(操縦端末)の画面に表示される。例えば高度や距離、風速や気温、そして緯度経度を使ったGPSからのロケーション情報などである。
これらの情報は安全に飛行を行うため、ドローンのオペレーターには欠かせない情報であるが、その情報は機体内のメモリに細かく蓄積され、飛行後、クラウドにあるDJI社のデータベースと同期することで、何時何分に、どこで、どんな条件で飛行させたのかという飛行に関するあらゆる情報がデータベースに収集される。
アプリ上では、自分が行った過去の飛行履歴をもとに、どのような飛行を行ったのか再現が可能で、米グーグル社(正しくはアルファベット社)や米マイクロソフト社が提供する地図データとリンクさせれば、マップ上をどのように飛行させたのか軌跡を描き出すこともできる。
この軌跡データは緯度経度の情報を持ち、更に、飛行中に機体に内蔵されたカメラを使い、写真や動画を撮影した場合、その撮影データにも飛行の軌跡データに応じた位置情報が付与される。
この位置情報を持つ連続した写真データ(映像データもこれに含まれる)を解析ソフトにかけると、あっという間に地形情報を3Dのコンピュータグラフィックとして描きすことが可能となる。
お分かりだろうか、世界中でDJI社のドローンが一択なら、ほぼ全てのドローンが収集した世界中の飛行情報が中国のサーバに蓄積され、そのデータからあらゆる地域の地形情報を3Dのコンピュータグラフィックとして再現可能なのだ。
勿論、それら個人の飛行で取得した情報をDJI社が自社の品質管理以外で利用することはないとアナウンスされているが、かの国のやることである。そこはどこまでを信用してよいのか不安は残る。
法律上、国の重要施設(政治、軍事施設や原子力発電施設等)や不慮の事故を未然に防ぐため飛行場などでの飛行は禁止されているが、これは利用目的次第で申請により飛行が許可されることもあり、絶対的に安全とは言えない。
今ここに、重大な国家の安全保障に関わる問題が生じていると言える。
どうしてこのような状況になったのだろうか。
それは先にも記した通り、日本ではドローンを当初おもちゃのヘリコプターの延長としてしか認識しておらず、新しい技術革新の要素として研究開発へ予算をかけてこなかった。
更に、厳しい規制でユーザーや企業の積極的な利用を封じ込める形になってしまっていた。
その間、フランスや中国、アメリカは軍事や産業への技術革新の一端と位置づけ、多くの予算をかけてドローンの技術開発を進めた。
中でも、ドローンの技術革新に最も寄与するのは、近年バズワードの一つでもあるビッグデータである。中国では、ドローンの飛行に関する規制が厳しくないため、軍事や産業面での活用に向けたドローンの研究が盛んだ。更に、広大な飛行域と、世界最大級の人口を誇り、ドローンを飛行させることで集まるビッグデータは桁違いだ。
ドローンの開発には多額の資金が必要であり、また、その品質を高めるためには大量の飛行情報が必要である。つまり、大量の飛行情報を集められ、それをビッグデータとして解析し、プロダクトへとフィードバックを行い、品質を高められる企業に資金が集まり、その企業は更に品質の高いドローンを開発できる。そして、そのドローンは更に市場を席巻し、また企業には大量の飛行情報が集まってくるという好循環が起こる。
DJI社はこの好循環のスパイラルの中にいる。
一方で、日本には世界に通用するメジャーな国産ドローンメーカーが存在しない。
研究開発用のドローンを各々の企業や研究機関が独自に運用し、集めたデータはわずかながらで、DJI社からは日々百歩も千歩も溝が大きくあけられるばかりだ。
これは一重に、その理解の低さから場当たり的に法律で規制を設け、産業へ活用しようとする前向きな力の働きに待ったをかけてしまった反動であると言えよう。
ただ強めるだけの規制では、企業として投資するメリットも少なく、また開発する資金も不足がちになり、どんどん開発は先細りするという負のスパイラルが生じていく。
DJI社とは真逆の現象が生じてしまっている。
では、この状況を変えるためにはどのような試みが必要か。
まずは日本政府がこの現状を正しく理解し、民間や学術機関と連携し、直ちに国産ドローンメーカーの育成に力を入れるべきであると考える。
日本にはこの手の開発に長けたものづくりの遺伝子がまだまだ多く眠っている。その活用にも一役かうはずである。
ドローンのオペレーターの育成も急務である。正しい知識と、良識ある態度でドローンの運用を行える人材は国の宝となるはずである。
これら開発環境の充実を図ることで、ドローンを活用した産業への技術移転も期待でき、経済の活性にも期待できる。
少し大雑把ではあるが、このようにドローンへの理解はまだまだ一般的に知られておらず、また、その産業面でのポテンシャルや、災害救助支援の革新的な技術利用という点でも大いに可能性が期待されている。
私はドローンを更なる研究対象とし、大人の自由研究として今後も継続し、少しでも日本におけるドローンの産業利用等に役立てられる情報を発信していきたいと考えている。

 
 
 
 

◽︎大矢亮一(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
東京在住。今もまだ何者でもない。

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2020-02-10 | Posted in 週刊READING LIFE vol.68

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