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週刊READING LIFE vol.70

「それ、クラウドソーシングでいいじゃん」との戦い《週刊READING LIFE Vol.70 「新世代」》


記事:射手座右聴き (天狼院公認ライター)
※企業のプロフィール等、設定の一部は、フィクションです
 
 

「キャッチコピーって、クラウドソーシングで頼んだら、安くできますよね」
クライアントさんにこう言われた。20代後半の男性だった。
ある企業のキャッチコピーを書いて欲しい、という依頼だった。
私は広告コピーを書いたり、広告の企画をしたりするのを仕事にしている。
広告会社を辞めて、独立してもう7年になる。
今回の仕事は、知人の紹介で回ってきた不動産会社の仕事だ。
しかし、なかなかキャッチコピーが決まらない。
1回目は50案ほど持って行った。大変反応はよかった。
みんな喜んでくれて、すぐに経営陣に提案をした。
「方向はいいんだけど、もっと見たい」
これが答えだった。
2回目は絞って10案ほど持って行った。
また今回も担当者には、好評だった。すぐに経営陣に再提案してもらった。
「いいんだけれど」
思わぬ答えが返ってきた。
「キャッチコピーにこんなにお金はだせない」
というものだった。
「もっとほかの人の書いたものも、見てみたい」
わからないでもない。けれど、言われたくない一言だった。
 
「何回か、ご提案いただきましたけれど、クラウドソーシングだったら、
1日2日で数百案集まりますし」
たしかにそうだ。
「それって、失礼じゃないですか。ここまでやってもらって」
仕事を紹介してくれた方が少し怒ったような声で言った。それはそうだろう。
紹介者の顔がまるつぶれだ。
しかし、私は言った。
「いいんじゃないですか。案はたくさんあった方がいいと思います」
「ありがとうございます」
クライアントの方はホッとしたような表情で言った。
「そのかわり、私は、これ以上、作業はしません」
そう言って帰ってきた。
 
クラウドソーシングをご存知だろうか。WEB上で仕事を公開し、アイデアを募る。
採用したものにだけお金を払う、という形式のものだ。プロだろうが、アマだろうが
関係ない。採用されるものが正義だ。Webで簡単にできる公募のスタイルである。
イラスト、デザイン、ロゴ、ネーミング、キャッチコピーなどで活用されることが多い。
従来のプロを悩ませる、新しい世代のツールと言えるだろう。
 
たしかに、便利なシステムだけれども、元々生業にしていた私たちにとっては、
脅威だ。いままでのギャラの5分の1から10分の1の価格で、コンペが行われるのだ。
降って湧いた新世代との戦い。あまりいい気持ちはしないけれど、これからを
生き抜くためには避けられないものだ。
 
だが、私は追加の案をだすことはしなかった。クライアントがクラウドソーシングを
使いたいならやってみればいい、と思ったのだ。自分の価値が試されることには
なるけれど、仕方ないと思った。
 
実は、広告の世界は、毎日が新世代との戦いなのだ。
 
写真撮影となれば、
「それって、pixtaで拾えないですか」
風景動画だったら
「それって、getty imgaesにありそうですよね」とか。
 
チラシのデザインにはテンプレートがあり、検索すればロゴを自動生成するメーカーはたくさんある。
音楽は、フリーダウンロードのサイトが山のようにあるし、
効果音だって、無料のものが選び放題だ。
 
定番のセリフがある。
「動画の見積もり、高くないですか? iPhoneでもいい絵が撮影できますよね」
 
誰かがやっていた仕事が、ここ10年でどんどん無料になっていく。
まず、インフラが新世代なのだ。
そして今日、漠然と思っていたことが自分の身にも降りかかってきた。
 
あまりすっきりしない気持ちで数日間を過ごした。Web上の公募でどのくらいいい案が集まるのだろうか。ダジャレの人、うまいこと言う言葉を考える人、気楽な気持ちで
いろいろな人が応募してくるだろう。その中にいいものがあるかもしれない。
情けないことに少し心配になった。さらには、こんな考えも浮かんできた。
今後、こういう仕事が増えたら、しんどいな。毎回毎回が戦いなのか。
いや、逆にコンペで鍛えられるのかな。しかし、そのコンペで、自分のいいと思うものが選ばれるのか。宝くじみたいなものになるんじゃないか。
ぐるぐると考えは回った。数日後、こんな風に思った。
もう、忘れて、目の前にある仕事に専念しよう。今ある仕事で信頼を得ることが大切だと思った。クラウドソーシングにすぐに勝てない優位性、それはお客さんとの関係性ではないか、と思ったのだ。お客さんの生の声はクラウドソーシングでは聞けない。対応力は、公募ではわからない。勝負はその辺ではないかと思ったのだ。
 
数日後、例のクライアントさんから連絡がきた。
「すみません。書いていただいたコピーで決定しました」
「どういうことですか」
「募った案を見てみたのですが、採用にいたるものがありませんでした」
「そうなのですね」
少し驚いた。
「うちの会社の理念は、公募の人に理解してもらうのは、難しいようです」
そうかもしれない。自分も何度も経営陣の声をネット検索して読んだりしたが
なかなか理解するまでに時間がかかった。
クラウドソーシングの募集説明で理解できるまで、書ききれるものでは
ないかもしれなかった。応募者の方々には悩ましい課題だったのかもしれない。
ダジャレや気の利いたフレーズだけでは採用されにくいものだろう。
ラッキーパンチみたいなものが発生しにくい状況と言えた。
 
「理念を理解していただいてると思ったので、今後一緒に作っていければ嬉しいです」
と言っていただいた。
 
ありがたい話だ。先日はもやもやしたが、とても嬉しい話だ。
私は電話ごしで、深々と頭を下げた。
ほっとした。
ひとまず、新世代のツールとの戦いで、淘汰されずにすんだ。
 
無料、スピードがある、たくさん集められる。そんな新世代ツールがあふれる
世界でどうやって生き残るか。
叶わないと思う、圧倒的なツールに淘汰されないためにどうするか。
 
自分にしかできないことは何か。
自分の価値を上げるにはどうするか。
人のつながりだけでない、仕事での実績をどう見せていくのか。
 
それだけではなく、逆に、使いこなす方法はないだろうか。
自分でクラウドソーシングを使ってみることも大切だ。
私は、自分の別の事業のキャッチフレーズを募集してみることにした。
 
ここまで考えて、ハッと気づいた。
新世代のツールと戦うんじゃない、自分が新世代に変わるのだ。
年齢はともかく、変わらないといけないのだ。
 
あなたの業界では、どんな新世代がいますか。
いっそ、自分が新世代になりませんか。
 
 
 
 

◽︎射手座右聴き (天狼院公認ライター)
東京生まれ静岡育ち。新婚。会社経営。40代半ばで、フリーの広告クリエイティブディレクターに。 大手クライアントのTVCM企画制作、コピーライティングから商品パッケージのデザインまで幅広く仕事をする。広告代理店を退職する時のキャリア相談をきっかけに、中高年男性の人生転換期に大きな関心を持つ。本業の合間に、1時間1000円で自分を貸し出す「おっさんレンタル」に登録。5年で300人ほどの相談や依頼を受ける。同じ時期に、某有名WEBライターのイベントでのDJをきっかけにWEBライティングに興味を持つ。天狼院書店ライティングゼミの門を叩く。「普通のおっさんが、世間から疎まれずに生きていくにはどうするか」 をメインテーマに楽しく元気の出るライティングを志す。
天狼院公認ライター。
メディア出演:スマステーション(2015年),スーパーJチャンネル, BBCラジオ(2016年)におっさんレンタルメンバーとして出演

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2020-03-09 | Posted in 週刊READING LIFE vol.70

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