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週刊READING LIFE vol.75

私のお股で起きたちょっと恥ずかしい事件《週刊READING LIFE vol.75「人には言えない、ちょっと恥ずかしい話」》


記事:ただくま みほ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「痛ーーーーい!」
その瞬間、私は文字通り飛び上がり、履いていた短パンを一気に引き下ろしたのだった。
 
高校2年生の夏休み、それは起こった。
私は座卓の部屋で勉強をしていた。暑い時期なのでTシャツに短パンスタイルだ。
ずっと正座で勉強しているのも足が痺れるので、ちょっとお行儀は悪いが、両膝を抱えて体育座りをして勉強をしていた。
 
その時、どこからともなく蜂が部屋に入り込んできた。
「蜂だな……」
 
私はその存在には気付いていた。
気付いてはいたんだけれども、特に問題だとは思わなかった。私の実家は田舎で蜂やカメムシやその他の虫たちが部屋の中に入り込んでくるくらいのことは余裕なのだ。
 
昔ながらの土壁で作られた家だ。板張りのその部屋は北向きで夏の暑いさなかでも日が差さず涼しい部屋なのである。土間から上がるその部屋に限らず、家全体の壁と壁との間や建具の間に微妙な隙間があって、虫の一匹や二匹、「どこからでもお入りください」と言っているようなものだ。
 
そんな環境なので、勉強中に少々の虫が来ようがこちらもお構いなしだ。蜂が来た時も「蜂だな」とは思ったけれども、「この部屋、涼しくって居心地いいもんね。わかるわかる。どうぞごゆっくり」というような心持ちでいた。私としては共存は可能、と思っていたわけである。
 
だがこの私の無意識の気の許しようがいけなかったのかもしれない。どうも蜂もすっかりリラックスしたとみえる。
 
私が勉強に集中している間に、蜂がそんなに私に接近していたとは。全く気がつかなかったのである。
 
私が気がついた時には蜂はすでに短パンの縁に止まっていた。短パンはジーンズ素材で張りがある。まるでサクソフォンの口が上に向いているみたいに、受け口として「Welcome」な状態で短パンの口は上空に向かって空いており、今まさに蜂に開かれていた。
 
「え、ちょ、ちょっと、ちょっと!」さすがに私も焦った。蜂と同室なのは構わないけど、こんなに身を寄せ合いたいわけじゃない。でも、蜂はもう私の短パンの縁をウロウロ歩き、間合いをどんどん詰めようかというところだ。
 
「ど、どうしたら……」内心焦りつつ、最悪の事態が一瞬頭をよぎる。いや、でもそんなこと起きないって。そんなコントみたいなこと。そおっと、そおっとしてれば、サッと飛んでいくって。
 
何しろ相手は蜂だ。彼の武器を思うと下手なことはできない。できるだけ穏便にお引き取り願いたいところだ。クマに出会ったら死んだフリ、蜂が短パンに止まったらお地蔵さん。刺激を与えないことが大事だ。
 
そう判断した私は、微動だにしない、という作戦をとることにした。心の中で「飛んでけー、飛んでけー」と叫び、ありったけの念を送った。そうして、「無事に蜂が飛んでいき、なんてことなかった。あー良かった!」という話を面白おかしく友達に披露するところを思い描くことまでした。
 
なのに、である。私の意に反して蜂は一向に飛んでいかない。もはやすでに勉強どころではなくなっていた。どれくらいの時間が流れたのだろう。実質的には1分くらいだったような気もするし、気持ち的には10分くらいあったような気もする。短パンの縁にいて私の太ももと超至近距離にいる蜂の動きに一切の神経を集中して張り詰めていた。
 
その時、奴が動いた。なんと短パンの中に向かって進み出したのだ!
「え!! まさか!」私は超焦った!
 
これ、どうなっちゃうの!? ダメだよ! そんな中に行っちゃったら、サッと飛び立つとか、できなくなっちゃうよ! 出てくるの難しくなっちゃうよ! やめといて! これ、絶対お互いにとって良くない方向だって!!!
 
心の中の絶叫は彼には届かない。ズンズン、ズンズン、奥に向かって進んでいく。
 
あかん! あかん! あかんって! やめてって!
 
どれほど心の中で絶叫しようとも彼の歩みは止まることなく、ついにほぼ行き止まりまで行ってしまった。
 
もう、こちらも心臓が止まりそうなほどドキドキしている。
これ、どうしたらいいの? そこで何やってるの? 今からどうするの?
 
あぁ、言葉で通じ合える相手ならいいのに! 蜂の想いが全くわからない!
 
いつ出てくるんだ? 待ってたらいいの? それって何分?
心の中で問いかけても通じる訳がない。
 
これまた何分たっただろうか。1分も我慢できなかったかもしれない。もう、どうしたらいいかわからない私は、そおっと短パンを脱ぐという作戦に切り替えることにした。
 
体育座りをしたまま、そおっと前のボタンを外してチャックを下ろす。このまま、そおっとそおっと脱げば蜂が短パンの中にいても、いつでもサッと飛び立てる、フリーダムな世界にしてあげられる。解き放ってあげられるはずだ。それがWin Win というものだ。
 
チャックを下ろしたところでハタと気付く。短パンを脱ぐためにはやはり立ち上がらなければならない。
 
立ち上がって……短パンを下ろさないと脱げないよね。そうだよね。そりゃそうだよね。焦りつつ手順を再確認する。
 
どれくらいまで立ち上がる必要があるのかな、中腰じゃ無理なのかな。一刻も早く短パンを脱ぎたいのに!
 
中腰で中途半端に脱ごうとして、引っかかって蜂を刺激してもいけない。やはり完全に立ち上がったところで短パンを下ろすことにして、いよいよ立ち上がることにした。
 
蜂は相変わらず短パンのほぼ行き止まりにいて、モゾモゾしている。
彼も怖い思いはしたくないだろう。私だって刺されるのは嫌だ。「ね、頼むよ。わかってね。これが一番いい方法なんだと思うから」心の中で祈りながら、ソロソロと立ち上がろうとした。
 
両足を開き、片手をついて中腰になりかけた時だ。奴はイキナリ刺してきた!
 
「痛――――い!」
私は飛び上がることとなり、一気に短パンを引き下ろした。
 
蜂はサッと飛び立って視界からいなくなった。いやもう、蜂の存在なんてどうでもいい。とにかく痛い!! お股がやられた! お股が痛い! こんなこと初めての経験だ!
 
どこを刺されたんだ!? 短パンのまさに行き止まりのところだ! おパンツのギリギリだ! こんなところを刺されるなんて! 痛くて痛くてたまらない! こんなところ刺されて大丈夫なのか、私は!?
 
小学生のころ聞いた恐ろしい話を思い出した。小学生のある女の子が野外で用を足そうとしてマムシにアソコを噛まれてしまい、恥ずかしくてなかなか親に言えず、結局病院に行っても間に合わず亡くなったという、まことしやかな噂だ。
 
これはいけない。親にはまず絶対言ったほうがいいと思い、痛くてたまらないお股を引きずるようにして母屋にいる母親のところへ行った。
 
気が動転している私はマムシの話もしたが、「まあ、蜂は蜂でマムシじゃないし。いつもの虫刺されの薬でいいでしょ」と家にあった薬を塗っただけで良しとされた。
 
問題だったのは次の日からだ。間が悪いことに次の日から、所属しているバスケットボール部の合宿が始まるのだった。高校2年生の夏の合宿ということは、3年生が抜けて、部内では最上級生になって初めての合宿だ。みんなも先生の気合いも半端なかった。もちろん私だって気合十分で全力で頑張るつもりでいた。なのにこのタイミングで蜂なんかに刺されてしまって、足も引きずるような体たらくだ。明日もこの調子だったら……お股を蜂に刺されて動けなくなった先輩なんて、下級生に対して格好悪すぎるではないか。
 
「こんなに痛くて明日大丈夫なのかあ…… どうか痛みが引いていますように」祈りながら眠った私の願い虚しく、次の日になっても痛みは引いていなかった。
 
「でも、なんとか練習が始まったら走れるかもしれない。試合とかでもアドレナリンが出て? 痛くなくできることもあるし」合宿に行くまでも僅かな希望は抱き続けていた。同級生の友達には練習が始まる前にこそっと事情を伝え「まあ、やるだけやってみて、いつも通り練習できればいいし……」というように話していたが、結論から言うと結局、私はダメだった。
 
練習のアップの段階ですでに痛すぎて動けなくて、恐る恐る先生に申し出ることになった。
 
先生は呆れて、「なんやそれ! そんな所刺された奴なんて初めてや! 」と笑って練習を見学とすることを許してくれた。
 
下級生の反応は……恥ずかしすぎてもう、見ないことにした。
 
いやしかし、今から振り返っても、あの時どうすれば良かったのだろう。
部屋に入ってきた時点で抹殺すれば良かったのか。でも彼があんなに近づいてこなければ、あんなところまで入り込んでこなければ、特に問題はなかったのだ。
 
私が気を許しすぎていたのがダメだったのか?
短パンに止まられた時点で、デコピン作戦で間合いを取れば良かったのか?いやでもそれをした後が怖いではないか。
 
彼が短パンの中に進み始めた時?
いや、どうやって止められたというのだ。
 
もっといい脱ぎ方があったのかな?
いやー、精一杯そおっと脱いだけどなぁ。
 
今となってはもうよくわからない。
ただ、こんな私にもお伝えできることがある。
 
実は蜂に刺された跡がちょっとシコリとして残ってしまっているのだ。妊娠した時、マムシの女の子の噂じゃないが、万が一これが出産に何か差し障りがあってはいけないと思い、恥ずかしいけどとにかく産婦人科の医者に申し出ることにした。
 
産婦人科の妊婦の検診台というとご存知だろうか? 椅子に座ると自動で背もたれや足を載せている部分も傾いていき、お股が開かれるようになっていて、先生にお股を見てもらえるようになるものだ。
 
検診時、お股をおっぴろげたその状態で過去に蜂に刺されてシコリが残っていることを告げた。恥ずかしくてたまらないが、もしもこれが出産に関わり、赤ちゃんの命に関係するような事態になっては大問題だ。よっぽど大丈夫だろうと思ったが、疑問点や不安があるならば解消しておいた方がいい。
 
先生に聞くと、先生はシコリを指でコリコリしながら「はははー、これですか! まあ問題ないですよ!」と笑い飛ばしてくれた。シコリをコリコリは恥の上塗り的に恥ずかしかったが、「問題ない」と聞けたならもうそんなことはどうでもよかった。
そしておかげさまで無事に出産もできた。
 
これだけは言えること。
それはお股を蜂に刺されて、シコリが残っちゃっても、出産には問題なさそうですよ、ってこと。
 
ま、蜂にお股を刺されちゃったらちょっとしたネタにもなりますよってことですね。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
ただくま みほ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

岐阜県生まれ、岐阜県在住。
ファイナンシャルプランナー、方眼ノートトレーナー、アロマテラピーインストラクター。
2019年12月からライティングゼミを受講中。2019年3月からライターズ倶楽部

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。 http://tenro-in.com/zemi/103447


2020-04-13 | Posted in 週刊READING LIFE vol.75

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