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週刊READING LIFE vol.79

妻の横で、おっさんレンタルされてみた《週刊READING LIFE Vol.79「自宅でできる〇〇」》


記事:射手座右聴き(天狼院公認ライター)
 
 
「今、時間ありますか。レンタルできますか」
おっさんレンタルのお客さまからLINEが来た。
何度かリアルでお話を聞いた30代前半の女性からだった。
「このご時世ですから、LINEでレンタルできないかなあと思って」
メッセージが続いた。
そうだ。このご時世だ。1時間1000円で自分を借りてもらう、おっさんレンタルも
変化が訪れていた。いままでのように直接会って話すスタイルは難しい。
引越しの手伝いをするような作業系のレンタルも難しい。どうしたものかと思っていた。
「時間ありますよ」
とだけ返す。時間はあるんだけど、なあ。というのが本音だった。
妻が横にいる。我が家は今、ワンルームなのだ。
結婚して11ヶ月になる。
が、私の繁忙期が長すぎて、まだ引っ越しができていなかった。
狭いワンルームのさらに狭いスペースに二人、だ。
そこで人様の恋愛相談に乗る、というのは、どうなのだろう。
やましいことがあるわけではない。でも、何か気がひける。
妻も面白くないかもしれない。
一方で、依頼してきた女性のことも心配だった。何回か話を聴いた彼氏さんはどうなっているだろうか。以前聴いた話であれば、もう一緒に住み始めているはずだった。
何かあったのかもしれない。自分に役立てることなら、聴いてみたいと思った。
 
普段なら、外出で、スイッチの切り替えができる。が、しかし、今は、緊急事態宣言の
真っ最中だ。ここで話を聞かなければならない。
しかも、今から。いままで家でだらっとしていたのに、いきなり、
人様のお話を聴くモードに素直に入れるのだろうか。
友だちならば、よい。でも、レンタルって少し違うのだ。何度かお会いしてるとはいえ、
お客様はお客様だ。1時間1000円とはいえ、お金をいただくのだ。
「これ、支払いはどうしたら、いいですか」
さらに彼女からメッセージがきた。
「話がおわったあとに、LINEPayでお願いします」
答えてしまった。やるしかない。
 
顔も見えない、声も聴けない、その状況でいつもの対応ができるだろうか。
不安はあった。
 
ええい。やってみよう。迷うより。面会のレンタルをいつ、再開できるかわからない。
勇気をだして、妻に言ってみた。
「今から、レンタルの依頼が来たんだけど」
答えはあっさりしていた。
「やれば」
なーんだ。拍子抜けした。依頼者に返信した。
「今から1時間なら大丈夫です」
間髪入れずに、スクリーンショットが送られてきた。
男性との辛辣なやりとりが記されていた。彼氏さんからのダメだしだった。
デートのドタキャンについてだった。準備していたのに、気が変わるのはおかしい、
という話から始まり、いつも気まぐれであること、機嫌のアップダウンが激しいこと、
自分のことを好きならやさしくしてほしい、もう限界だ、という話だった。
それに対して、彼女もかなり厳しく答えていた。そもそも、機嫌のアップダウンが激しいのは、一緒にいてつまらないからだ、とばっさりいっていた。
 
さあ、どう返したものか。スクリーンショットを見て、感想を言えというのだろうか。
迷った。対面だったら、うなずきながら、次の言葉を待ったと思う。でも、こちらのリアクションを伝えるのは、文字しかなかった。
対面だったら、彼女の話し方で、感情が予測できるのになあ。この話が愚痴なのか、不満なのか、あるいは、はっきりダメだししてもらってよかった、ということなのか。
想像がつかなかった。
どう答えようか。もっと詳しく、話を聴きたくて、私はこう返した。
 
「これ、彼氏さんですよね。いつのやりとりですか」
スクリーンショットの内容にはふれず、彼氏かどうかの確認と、いつ、を聴いてみた。
対面ではないので、ニュアンスをがわからなくても、誤解されない話し方をする必要がある。対面なら、「それで?」 などと訊けばいいところだが、なにしろニュアンスが伝わらない。はっきりした言葉で訊くしかなかった。
 
「昨日です。なんか、いつも彼氏にはきつくあたっちゃうんですよ。私」
と返ってきた。
彼女は、彼に文句があるのではなく、きつくあたる自身に対して、だったのだ。
いきなり判断しなくてよかった。
仮に私が
「彼氏にひどいこと言われたんですね」
と返していたとしよう。
そしたら、彼女は
「そうじゃなくて」
と思ってしまうだろう。話をちゃんと聴いてもらえるだろうか、と不安を与えてしまう。
 
まずは、スタートでつまずかなくてよかった。
もっと聴いてみることにした。文字だけの会話はさらに進んだ。
「あたっちゃう、というのは、何か、彼氏さんにいらっとくる感じなんですか」
あたる、と言ってもいろいろな感情はあるだろう。
「なんか、未熟なんですよね、彼」
「未熟?」
「元彼と比べてしまう」
「元彼はどんな方だったんですか」
「元彼といると安心できたんです」
「安心?」
「私が不機嫌になっても、よしよし、という感じで。そこに反応しないんです」
「今彼さんは、あれですか。不機嫌になると、自分も不機嫌になっちゃう感じですか」
「そうなんです。そういうのが、子どもっぽいなと」
「子どもっぽい、ですか」
段々とメッセージにリズムがでてきた。ほっとした。これなら、文字だけでもできそうだ。
「そう。いちいち反応するんですよ。そういうところが一緒に暮らせるか、不安です」
なるほど。そういえば心当たりがあった。
「私も20代で結婚したときは、相手が不機嫌になると、自分も不機嫌になっちゃいました。考えてみれば、相手が不機嫌な理由を、もっと理解するように努力すべきだったかなと思います。不安に寄り添えませんでした」
ちょっとした自己開示をしてみた。
「そんな時代があったんですね。不機嫌になるイメージないです」
「ま、今はもう大人なんで。元彼さんは、かなり年上でしたよね?」
話を戻してみた。
「元彼は安定してたから、楽だったんですけどね。彼氏はそうでもなくて」
「なるほど。そういえば、一緒に住もうとしてましたよね」
「それが、今はちょっと無理だなって。だって、このご時世に転職するって言うんです」
「転職ですか」
「そうなんです。一緒に住むにも、不安なんですよ」
「どんな不安ですか」
「だって、今、面接ってリスクあるじゃないですか。しかも、決まらなかったら、
無職の男性と住むことになります」
「たしかに、不安ですよね」
「でも、彼は、言うんです。自分のことを好きなら、就活を支えてくれるはずだ、って」
「彼氏さんも、不安なのかもしれないですね」
「え?」
「彼氏さんも不安を抱えているから、そんな風に言うんじゃないですかね」
「そうか。そうですね」
「不安なときに、デートをドタキャンされたから、きついメッセージを送ってきたのでは」
「彼、私に不満だと思ってたけど、でも、不安だったのか」
「お互いが不安だから、ぶつかってるのかもしれません。とするとですよ」
「とすると?」
「彼氏さんも今頃、不安でぶつかってしまったことを後悔してるかもしれませんね」
「なんか、もやもやが少しわかってきました」
彼女は、自分の気持ちの整理を始めたようだ。
「もやもや、ですか」
「そうなんです。彼にイライラしてあたっちゃうんですけど、それが余計に彼を不安にさせてるのかもしれません」
「元彼さんとは違いますからね。彼氏さんは、不安かも。でも、」
「でも?」
あ、そうか、文章を完結させるのじゃなくて、次の文章の始まりでやめると、
気になるかもな。まるでテレビ番組のCM前みたいだけど。
「でも、彼氏さんにもいいところはあるんですよね」
「はい。真面目で努力家なので、尊敬しています」
「真面目だから、一緒に住んでもいい、って思ったんですよね」
「そうです」
「そこは、元彼はどうですか」
「元彼は私を受け入れてくれるけど、適当なところもあります」
「とすると、元彼より、彼氏さんがいい、というところも、あるわけですよね」
「そうなんです。なんだか、悪いところばかり見てたみたい」
「悪いところばかり見えると、お互い辛くなりますよね」
「そうです。就活の途中で彼が感染したら、どうしようって考えたりして」
「心配してるんですね」
「もちろんです」
「心配は、相手を思うことだけど、不安は、自分を強くだすことかもしれませんね」
「なんか、若干うまいこと言われた気がするけど、そうかもしれません」
なんとか対面のペースを取り戻していた。最初こそ、手探りだったが、
文字だけでも、テンポよく話を聴けていた。
 
ふと横を見ると、妻がこちらを見ていた。
「すごいスピードでLINEしてるね」
「え?」
「なんの話をしてるの」
妻に聞かれた。
「恋愛相談」
「へー。仕事みたいなスピードで打ってる」
いや、仕事みたいなもんだし。というか、依頼者である彼女のメッセージのスピードが
とにかく早いのだ。
 
返信が遅れた。えーと、どこだっけ?
と、彼女からメッセージが入った。
「あ、ごめんなさい」
「え?」
「今、返事が遅かったので、失礼なこと言っちゃったかなって思いました。すみません」
「全然、そんなことないですよ」
 
そうか。急にテンポが遅くなると、相手に不安を感じさせてしまうのか。
 
「よかったです。彼も不安かもしれない、というのを頭において、もう一度話してみようと思います。ありがとうございます」
 
こうして、文字だけの恋愛相談は、終了した。
表情が見えない、声が聴こえない、相手の感情が見えにくい中での相談は
なかなか難しかったけど、言葉を選ぶことの楽しさもあった。
 
今回、やってみて、わかったことがいくつかある。
1:テンポよく返すこと。会話と同じで、相手が早くメッセージしてきたら、同じスピードで返すこと。
2:相手の気持ちを聞いてから、話を進めること。情報が少ない分、相手がどんな表情でメッセージを打っていたのか、わかりづらいからだ。自分で判断せずに、詳しく話を聴きながら、相手が気持ちを書きやすくなるようなリアクションをとっていこう。
3:相手の話したいことを8割聴く。でも、それだけだと一方的なので、ほんのちょっと、自分を開示することで、話しやすくする。
4:文末を、でも、しかし、など接続詞でおわると、相手は気になるので、
話が続きやすい。
5:どこか、キャッチーな言い方や記憶に残るパンチラインでまとめると、
スッキリ感がある。それは、新聞の人生相談の名言のような感じだ。
 
メッセージでのやりとりは、書き言葉のようで、話し言葉のリズムがあり、
話し言葉のようで、書き言葉のロジックがある。
 
まだまだ自信はないけれど、対面が難しい時代でも相談で人の役に立ちたい。
1分おきのメッセージラリーをやりきって、テンションがあがった。
ピコン。
LINEpayでお金がメッセージで届くと、達成感は最高潮に達した。
自宅にいても、人の役に立てた!
シュッシュッシュッ。
なんだか、スマホをスワイプする手がとまらなくなった。
 
「おわったなら、そろそろ、お風呂の掃除をしてくれないかな」
妻がさらっと生活に戻してくれた。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
射手座右聴き (天狼院公認ライター)

東京生まれ静岡育ち。新婚。会社経営。40代半ばで、フリーの広告クリエイティブディレクターに。 大手クライアントのTVCM企画制作、コピーライティングから商品パッケージのデザインまで幅広く仕事をする。広告代理店を退職する時のキャリア相談をきっかけに、中高年男性の人生転換期に大きな関心を持つ。本業の合間に、1時間1000円で自分を貸し出す「おっさんレンタル」に登録。5年で300人ほどの相談や依頼を受ける。同じ時期に、某有名WEBライターのイベントでのDJをきっかけにWEBライティングに興味を持つ。天狼院書店ライティングゼミの門を叩く。「普通のおっさんが、世間から疎まれずに生きていくにはどうするか」 をメインテーマに楽しく元気の出るライティングを志す。
天狼院公認ライター。
メディア出演:スマステーション(2015年),スーパーJチャンネル, BBCラジオ(2016年)におっさんレンタルメンバーとして出演

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
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2020-05-11 | Posted in 週刊READING LIFE vol.79

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