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週刊READING LIFE vol.79

小さな言葉を紡ぐ《週刊READING LIFE Vol.79「自宅でできる〇〇」》


記事:関口 早穂(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
感染者数なのか、実効再生産数なのか。それによって意味合いや受け取り方は全く異なる。報道は、世間を不安に陥れ、煽っているようにも見受けられる。情報の海の中。本当に欲しい情報は、自分で取りにいかないとないのか、とさえ思わされる日々である。
 
職場の状況も刻一刻と変わり、首相、文科省、全国に先駆けて動く小池都知事の動向に右往左往する日々である。この日々に慣れて来た感じもする。だがやっぱり今日もよく眠れない。
 
そんなある夜。
数年に1回ほどしか動かない部活のOBOGのグループラインに、一通のメッセージが入った。
 
22:07
 
「みんな、コロナで苦労していると思うけど、負けるなよ」
 
毎日毎日、川に出て艇(ふね)を漕いだ。
思い出深い、ボート部での日々。誰もが真っ黒に日焼けしているイメージしかない。そのコーチからであった。
 
きらきら光る水面。息を合わせてオールを入れ、艇を動かす。楽しい思い出に美化されてはいるが、精神的にも体力的にも厳しい日々を過ごしたことは間違いない。
 
ふと、川辺のちょっと磯臭いとも何とも言えない匂いすらしてくるかのように意識が旅をする。
そのひとことのメッセージが、なんとも夜更けの心に染みたのだった。
 
私は現在、小学校で働いている。
この状況で、学校再開ができないでいる。
どうしても集団生活を学ぶ場である学校を今まで通りに開くのは、本当に難しい。
 
ただ、4月ということもあり、しかるべき配付物は出さなければならない。子どもたちの学力や、これまで培ってきた学習の習慣をどうにか継続してもらいたい思いで課題も用意をする。
学校だよりや、課題は登校日を設けて配布したり回収したりした。
苦渋の判断、苦渋の取り組みが続いている。
 
先日、健康観察や様々な相談の意味も兼ねて各家庭に電話連絡をした。
回線が少ない学校では、ずっと担任の誰かしらが話をしている声がする。
 
「もしもし、○○さん? ひさしぶり」
「元気にしてる? きょうはなんじごろに起きたの?」
「うんどうはできてる?」
 
子どもたちはそれぞれ色んな声を聞かせてくれた。
 
「元気だよ。家の前で兄ちゃんとなわとびしてる」
「宿題やったあと、めっちゃゲームしてる!」
「7時ごろおきて、夜は9時ぐらいにねてる」
「かだいの、理科プリントがよく分からなかった」
 
恥ずかしそうに話す子。
話が止まらない子。
ちょっと元気のない子。
 
それでも、子どもたちの声が聞けてほっとした。嬉しくなった。
まだ1回か2回しか会ったことのない新しいクラス。新しい子どもたち。私はこの子たちに本当に何もしてあげられていない。心苦しい。
 
保護者の方々ともお話をする。
エネルギーの有り余るお子さんたちを、家で過ごさせるのは、本当に苦労の絶えないことであろう。給食もないのでお昼の用意もある。出勤されているにしろ、在宅にしろ、本当に子育てとはすごい仕事である。お話を聞き、共感し労うことしかできない。
 
「みなさんが、元気に過ごされているならよかったです」
「何か困ったことがあれば、一緒に考えます。ご連絡ください」
 
そんな言葉を伝えて、電話を切る。
それをクラスの人数分行う。
 
先の見えない不安や学校に対する不満も、それはもう沢山あるだろう。
子どもたちの教育課程はどうなるのか。
 
それなのに
 
「お電話いただけて、嬉しいです」
「わたしも励みになりました」
 
そんなことを口にしてくださる家庭もあった。
私は、何とも言えず、温かい気持ちに包まれた。
 
オンライン化の波の中ではあるが、逆説的に今こそ、血の通った人の温かさに注目するようになった。
 
実家から笹団子が届いた。新潟のこの時期といえば、笹団子である。
笹団子とは、笹のにあんこ入りの草餅が包まれた、県民の大好きな食べ物である。
帰省するのは諦めていたので、少し故郷の香りが感じられることに小さな幸せを感じる。
 
この時期、配送業者の方は大忙しだという。
我が家によく来てくれる小柄なおじいさんの配達員さんは「2倍速ぐらいで動いてるよ」とのことだ。外出自粛をしている人々は、通販サイトを利用する。その配送でということだ。
今日来てくれたのは、別の配達員さんだった。
 
「こんなにお忙しい中なのに、ありがとうございます」
 
自分ができるのはこのくらいしかないが、言葉をかけずにはいられない。
 
「ありがとうございます。でも、再配達がほぼゼロだから嬉しいです」
 
にこやかにトラックへ戻って行かれた。
 
ちなみに笹団子は、ご近所におすそ分けすると、まぐろの煮つけになって戻ってきた。白ご飯が何杯もいけそうである。
 
核家族化が進み、機械化が進み、人々の心の距離は離れたかに見えた。しかし今回のコロナウイルス騒動で、大事なものは案外残っていくような気がしている。
この状況が落ち着く、というのは数年かかるとも言われている。
それでも地域や人と人との心のつながりは今後も大切にしていきたいと願う。
 
世間を見ると、いろんな人が何とか楽しもう、乗り越えようと工夫や催しをしている。
 
1講2講は無料にする通信講座
ライブ音源をYouTubeに無料で流すミュージシャン
おうち時間でできることを紹介する野球選手
生配信を始め、距離が近くなるアーティスト
 
ライブ会場でしか会えないと思っていたアーティストは、私服で、そしてお家で私たちのために話をしてくれたり、思い付きの即興でギターを弾いてくれたりする。
その、言葉一つ一つに励まされたり、くすっと笑えたりする。
 
ネットも自由に使える私たちは、なんとかこのなかでも楽しみを見つけ、精神的にも肉体的にも安全に過ごせるよう工夫をすることができる。
過剰な報道も、ミュートして過ごすことができるようにもなってきた。
 
自分を整えておくことが社会貢献になる。
今はそんな思いでいる。
 
そして、そんな自分が何か言葉を紡ぐなら……
 
誰かのことを想って言葉を紡ぐとき、分からないけど、力がみなぎる気がする。
 
外出自粛も長引き、感染そのものも、精神的にも参っている人々が多いと感じる。子どもやお年寄りたちも含めると水面下では、どのくらいの人が鬱々とした日々を送っているのだろう。
 
会えなくても、励ますことができる。
テレビ通話や、オンラインの会議や飲み会。そうしたところでも繋がりは保つことができる。新しい取り組みも大歓迎だ。だが、それだけではない。
 
最新の媒体がなくたって。
言葉だけだって。
 
今こそ、あなたからのメッセージに励まされる人がいるのかもしれない。
ふと出るつぶやきだったとしても。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
関口 早穂(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

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2020-05-11 | Posted in 週刊READING LIFE vol.79

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