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週刊READING LIFE vol.83

変わりたいなら文を書こう《週刊READING LIFE Vol.83 「文章」の魔力》


記事:深谷百合子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
私は昔から語学ができるようになりたかった。ペラペラと流暢に話せたらカッコイイのに。それなりに色々な勉強に手を出したものの、どれも実にならない。
 
「やっぱり留学とか、現地に駐在とかした経験が無いと、無理なんだろうな」
 
そんな風に思っていた。
 
だから、中国で仕事だと言われた時、「これは中国語をマスターするチャンスだ」と思った。それまで全く勉強したことはなかったけれど、現地に1年も居れば、かなりできるようになるだろうと思っていた。
 
中国に渡ると、早速現地の中国語教室に申込み、勉強を始めた。全く知らなかった言語を覚えるのは楽しいことだった。覚えたての単語を使って通じると素直に嬉しいし、できなかったことが少しでもできると達成感がある。
 
でも、半年も過ぎると、そんな楽しさも段々と消えてきた。発音や文法の理解があやふやなままで、身についている実感がなかった。それに、大学の留学生向けに書かれたテキストの内容や練習問題は、普段私が考えたり、関心を持つような内容とは随分違っていた。
 
例えば、「昨日あなたは、帰宅が随分遅かったですね。王さんの家で何をして遊んでいたのですか?」という問いに対して、先生と会話を続けていかなければならない。
 
「何をして遊ぶ? うーん、テレビゲームで遊びました」
「どんなテレビゲームですか?」
「えっ! どんな? えーっと、うーん、対戦型のゲーム……」
「他には何をして遊びましたか?」
「他には? うーん、何だろう?」
 
何も思いつかない。
しばらく沈黙が続いた後、先生がしびれを切らす。
 
「マージャンとか、トランプとか、あるでしょう?」
「そ、そうですね……」
 
でも、普段そんな生活していないから、なかなか思いつかない。日本語で聞かれても、多分すぐには答えられないだろう。
 
そんなやりとりが続くうち、すっかり中国語の勉強をするのが嫌になった。私の中国語力が足りないのは勿論なのだが、授業の中で自分が話したいと思う話題が無いのだ。
 
もう勉強するのをやめようか……。
どうせあと半年で中国の仕事も終わるんだし。
 
そんなことを思い始めた時、転機が訪れた。
あと1年、現地の会社に出向することになったのだ。
 
それなら、やっぱりもう少し中国語ができるようになりたい。
でもどうしたらいいんだろう?
 
そう思って色々な勉強法を調べてみた。そこで見つけたのが「作文」だった。
「自分の言いたいことを作文する」という勉強法に私はものすごく心をひかれた。
 
「そうだよ。自分の言いたいことを言いたい」
 
そして、たった数行、100字程度の作文を書くと、中国人の先生に添削をしてもらった。テキストの勉強もいいけど、作文を毎週書くから、それを添削して欲しいとお願いし、毎週中国語で作文を書いては添削をしてもらった。
 
自分の言いたいことを書くとなると、「あれ? この単語は中国語で何て言うんだろう?」と自発的に調べる。それに、自分で言いたいことだから、覚えやすい。
 
そうやって作文を続ける内に、書ける量は200字、300字と増えていった。知らず知らずのうちに、語彙力や文法に対する理解力も増していた。
 
テキストの内容を受身で勉強する姿勢から、自分から調べて書くという姿勢に変わったのだ。
 
その後、中国企業に転職し、中国国内で引越しをした先でも、家庭教師の先生について中国語を勉強した。ラッキーだったのは、その先生は作文指導がとても上手だったことだ。
 
「中国人は先に結論を知りたいです。だから、文章を書くときにも、まず自分はどういう立場で、どんな結論なのかを先に書いて下さい。それから、その理由や詳細な内容を順序立てて書きます。そして、最後にまた結論とまとめを書きます」
 
「へぇ、中国人ってロジカルなんだな」と思いながら、そういう構成を意識して文章を書いた。自分のこと、仕事のこと、日本のこと、中国のこと……。慣れてくると、思考が整理しやすく、自分が何を言いたいのかが分かりやすい。
 
それに、周りの中国人が仕事で報告している様子を観察すると、同じような構成で話をしているのが分かる。そう意識しながら耳をこらして聞くと、今まで単なる雑音にしか聞こえなかった中国語が、意味を持った塊として段々と聞こえてくるようになった。
 
結局、私にとって「作文」は中国語上達の大きな役割を果たし、今の自分の仕事に繋がっている。と同時に、文章を書くという習慣が出来上がった。
 
それまで私は文章を書く習慣が無かった。
日記は小学校の絵日記以外は書いたことがないし、読書感想文や作文は、コンクールに入賞したこともない。
 
そもそも自分の感じたこと、考えたことを文章にすること自体が、好きではなかったのだ。多分、自分が思っていることを表に出すのが怖かったのだ。自分の本音を出したら、人からどう思われるのか? そんなことが気になって、自分をさらすことができなかったのだ。
 
嫌なこともあったし、辛いこともあったけれど、いつもその気持ちには蓋をして、ぐっとこらえてきた。
 
けれども、中国語で自分の言いたいことを書いている内に、自分の気持ちを吐き出すことに抵抗がなくなっていた。
 
自分の事を書いてみたい。自分の中で蓋をして抑え込んでいた気持ちを吐き出してみたい。
 
けれど、「自分」を素材に文章を書くのは、思っていたよりも難しい。自分の思いをただ吐き出すだけなら、それは日記だ。でも、私が書きたいのは日記じゃない。誰か同じような思いをしている人に届けたい。
 
そう思うと、自分のことを書いているのに、自分のことじゃないような気がしてくる。もう一人の冷静な自分が居て、問いかけてくる。「なぜ、あの時そう思ったの?」、「なぜ、あの時その選択をしたの?」と。
 
今、私にとって、文章を書くことは、自問自答することだ。自分の中で抑え込んで、決着がついていなかったことを、掘り起こす。そして、そこから自分なりの結論を導き出す。そうすることで、心の奥底に澱のように溜まっていたものを溶かしていく。
 
中国語の勉強から始まった書く習慣。それが今に繋がっている。
どんな言語であっても、「書く」ということは人生になにがしかの影響を与えるものなのだ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
深谷百合子(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

愛知県出身。
6年前から中国で工場建設の仕事に携わる。中国での仕事を終えたあと、自分は何をしたいのか? そんな自分探しの中、2019年8月開講のライティング・ゼミ日曜コースに参加。
もともと発信することは好きではなかったが、ライティング・ゼミ受講をきっかけに、記事を書いて発信することにハマる。今までは自分の書きたいことを書いてきたが、今後は、テーマに沿って自分の切り口で書くことで、ライターズ・アイを養いたいと考えている。

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2020-06-08 | Posted in 週刊READING LIFE vol.83

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