週刊READING LIFE vol.83

文章を書くことは、人生に色を与える《週刊READING LIFE Vol.83 「文章」の魔力》


記事:中野ヤスイチ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
1日1日、気が付いたら終わってしまっている。
そんなことないだろうか。
 
僕はそんな日々をずっと過ごしきた。
社会人になってから、早く仕事ができるようになりたくて、毎日、毎日、土日も関係なく朝から晩まで仕事をしていた。
 
気が付いたら、1日があっという間に過ぎてしまうなんてことが当たり前だった。
それでも、何も違和感がなく、社会人になったら時間が流れるのが早くなっていくんだなって、思うぐらい。
 
年齢的にもいい年になった時に、結婚することにした。
なんとなく、もうここで結婚した方が良いと思ったから。
 
明確な理由は今でも言うことはできないが、直感で彼女と結婚した方が良いと思ったからだ。
 
メールやLINEが流行っていた中で、くれた手紙が嬉しかったのかもしれない。
手紙に書かれた字はその人を表すというが、まさに現れていたからかもしれない。
その手紙に嘘はなかった。
 
その彼女と結婚して、ありがたいことに子供を授かり、無事に男の子が生まれてきてくれた。
その時の瞬間を今も忘れることはない。
 
はじめて我が子を恐る恐る抱いた時の感覚は、微かに身体が覚えている。
でも、どのような感情が沸き起こったのか、もう鮮明には覚えていない。
 
まだ、4年しか経っていないのに……。
 
その瞬間の喜びをそのまま生まれてきた子供に伝えることがない。
もちろん、写真は一杯撮ったけど、写真には言葉がない、観た人に感じてもらうしかない、何か足りない気がしていた……。

 

 

 

息子は1日1日を重ねていくうちに、大きく成長していくのがわかった。
特に、仕事で何日間か会っていなかっただけなのに、できる事が増えていた。
 
その成長している瞬間を観ることができないことに、自分は後悔していた。
一番大事な時期を見逃しているのではないかと……。
 
小さい頃の我が子の姿は、目に入れても痛くないほど可愛い。これは、嘘ではない。
実感してわかった。
 
もちろん、赤ん坊の時もかわいかった。
3歳ぐらいになってからだろうか、息子と一緒に会話ができるようになった時が一番可愛いし嬉しかった。
 
言葉をしゃべるって、こんなにすごい事なんだって、はじめて知った瞬間であり、
同時にもっと一緒に1日でも長く過ごしたいなと思った。
 
息子が言葉をしゃべれるようになった時に、僕はもっと仕事を早く終えることができないかと考えるようになっていた。
 
ある時、FaceBookを観ていたら、突然、天狼院書店のページが現れるようになった
 
これも何かの縁かなと思い、天狼院書店の扉を開けることにした。
その時、僕が文章に書くようになるなんって、考えたこともなかった。
 
その時に受けたゼミは仕事術に関する内容だった。
そのゼミを受け終えて、天狼院書店を後にしようとした時に、「ライティング・ゼミ」について店員さんに教えてもらい、よかったら是非受けてみてください。と言われた。
 
そのチラシをもらって、扉を後にした時に、ここにもう一度くることになるだろうとなんとなく感じている自分がいた。
そして、数日後に妻に説明して「ライティング・ゼミ」を受けることにした。
 
この「ライティング・ゼミ」を受けてから、僕の人生は大きく変わった。
間違いなく、人生が変わったことを実感している。
今も記事を書いているのだから。
 
「ライティング・ゼミ」を受けてから、文章を書くのが好きになってしまった。
自分が感じたことや考えたことを、誰かから何か言われることもなく自由にかけるのは、とても幸せなことだって、この歳になって知った。
 
自分が過ごしている1日1日がより濃くなるのを感じるようになった。
おそらく、自然と書くネタを探すようになっているからかもしれない。
 
さらに、書けるネタを作るように行動してしまっている自分もいる。
最近では、自分の人生で起きていることすべてがネタになるのではないかと思ってしまうほど。
 
今までの人生が白黒だったとしたら、今の人生はカラフルになったと感じている。
 
文字をつなげた文章を記事やブログに残すことによって、息子に自分の父親はこんな事で悩み、こんな事で喜んでいたんだって、伝えることができる。
 
息子が生まれてきてた瞬間に、僕は産婦人科の待合室で、ノートPCで仕事に必要な書類を作成していた。その姿を見た看護師さんが妻に、「あなたの旦那さん、こんな大事な時に、PCで仕事されてましたよ」と言ったらしい。その時、妻が返した言葉が「うちの主人、いつもそうなんで」と妻が笑いながら言っていた。この話をきっと、息子はいつか笑い話として妻から聞くことになると思う。
 
でも、僕の感情はどこに書かれていない。
 
僕はなぜ、ノートPCで仕事をしていたのか、子供が生まれたらより忙しくなる、だから、今のうちに仕事を終えておこうと思ったのが一つ、もう一つは何かしていなと落ち着くことができなかったから。
 
その事を言葉で伝えるのは難しいし、男として僕から伝えるのはもっと恥ずかしい。
だから、このように文章として残しておきたいと思う。
 
これを息子が読んだ時に、どのような父親だったのか、少しでも伝わってくれたら嬉しい。

 

 

 

時間を忘れるくらい、一生懸命に生きていると、気が付いた時には何も残っていないかった、という経験をした事はないだろうか。
 
僕にはその経験が一杯ある。大学時代に一生懸命打ち込んだ部活、大学院の時に朝も夜も忘れて研究に励んだ日々、早く仕事を覚えたくて、土日も仕事に打ち込んだ日々などがある。
 
その1日1日を振り返る事はそう簡単ではなかった。あまりに一生懸命になりすぎて、ただただ時間だけが過ぎていて、常に自分を追い込んでいる状態が続いて、気が付いたら過ぎてしまっていたから。
 
そんな人生を過ごしてしまっていたからこそ、ライティングについて、学んだ事で僕の人生は大きく変わった。
 
ライティングを学び、人生の中で起きた1場面、1場面を文章に残し、息子や妻に伝えることができるようになった。さらに、改めて自分が書いた文章を読んだ時に、また新たしい自分に気づくことができるようにもなった。
 
自分って、こんなに成長しているんだって。ここは変わってないなって。
 
ある日、4歳になった息子と自分が持っている大切な宝物は何という話になった。
息子は、「自分が大切にしているおもちゃだよ」と僕に教えくれた。
その後に、「お父さんの宝物は何? 教えてよ」と聞いてきた。
 
そこで、僕は「お父さんの一番の宝物は、生まれて来てくれた君だよ」と抱きしめながら伝えた。
 
すると、さっきまで笑顔で話をしていた息子の目から涙が流れるのが見えた。
 
その涙を手で拭って隠すように、「そうかあ、お父さんの宝物……、僕、ずっとお父さんと一緒にいるから、お父さんと暮らす家を建てないといけないね、その家で犬を飼うんだ、猫アレルギーがあるかもしれないからね」と最後は笑顔になって話をしてくれた。
 
この書いた文章を息子が大きくなった時、どう感じてくれるのか、わからない。
でも、お父さんとこんな会話があったんだという事を残せただけでも幸せである。
 
文章には、人を幸せにする「魔力」があるのかもしれない。
その「魔法」に一度かかってしまったら、もう書くことから逃れられない。
 
試しに、一度、日々の1場面を文章にして、残してみてはいかがだろうか。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
中野ヤスイチ(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

島根県生まれ、東京都在住、会社員、妻と子供の3人暮らし、奈良先端科学技術大学院大学卒業、バイオサイエンス修士。現在は、理想の働き方と生活を実現すべく、コーアクティブ・コーチングを実践しながら、ライティングを勉強中。ライティングを始めたきっかけは、天狼院書店の「フルスロットル仕事術」を受講した事。書くことの楽しみを知り、今に至る。

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2020-06-08 | Posted in 週刊READING LIFE vol.83

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