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週刊READING LIFE vol.85

付箋式、足跡のススメ《週刊 READING LIFE Vol.85 ちょっと変わった読書の作法》


記事:石崎彩(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
山積みになった本を1冊ずつ手に取り、付箋が貼られた箇所を開く。
付箋を剥がすための作業なのに、いちいちそのページの文を目で追ってしまう。
 
「なるほどねぇ」、「……恥ずかしい」、「これは、重要だわ」
 
重くてかさばる本は、荷物整理の最難関ポイント。
持っていく本は厳選して、後は売却しようと考えていた。
古本屋で少しでも高く買ってもらうためには、できる限り綺麗な状態にしなければならない。付箋剥がしはそのための作業だった。
 
選別にはそれほど時間はかからなかったのに、まさか付箋剥がしでこんなに時間を取られるとは……。
引越しのための本整理だったけれど、本だけでもう2週間以上かかっている。
付箋を剥がすだけなのに、そのページを読んでしまうから全然進まない。
挙句、持っていく候補にあげるか、売却するか、再び長い検討が始まってしまう始末だった。
 
付箋が貼られた箇所は、基本的には自分が重要だと思った部分だ。
重要な部分に対して、あらためて感心することもあれば、重要だと思った「過去の自分に対しての反省」までもが始まってしまうのがまずい。
時たま、恥ずかしさで爆発してしまいそうになる。
けれど、止めることができない。
 
なんだかんだ、昔の自分が「読書に求めていたこと」=「人生に対しての姿勢」が愛しくなってしまうのだ。
 
引越し日ギリギリまで本の荷造りは続いた。
 
新居では、これまでのように1人ではない。
一緒に生活を共にする彼と私、それぞれ1部屋ずつ確保できる間取り。
引越しは私の方が遅れて到着したため、彼はすでにほとんどの自身の荷ほどきを終えていた。
 
床から天井まである本棚には、マーケティング、マネジメント、経営戦略など、いかつい文字が背表紙に並ぶ。外人が著者名のものも多い。
本棚は、その人の人となりがわかるとよく言われるけど、彼の家で初めてこの本棚を見たとき、まったく彼のことがわからなかった。
まったくわからなかったから、この人がいいなと思ったのを覚えている。単純に読書体力がありそうだということに安心感を覚えたような気もする。
 
とにかく、私にとって難しいことを学べる姿勢に感心した。
 
なので、実は自分の持ってきた本を本棚に並べるのが少し恥ずかしかった。
私の部屋には、床から天井までの半分ほどの高さの本棚。ダンボールを開けて、1冊ずつ本を入れていく。小説、ビジネス書、料理本、図録……それぞれ、種類別に収めていったが、なんとなく、そこであっているのか自信がなかった。
私がここまで連れてきた本たち。きっとこの先も一緒に生きていくだろう本たち。
 
この本たちが私の人となりを形成してくれているのだと思うと、特別な思いが湧いてくる。
けれど同時に、私そのもの、「自身の弱さ」を表しているようにも感じたのだ。人に本棚を見られるのが嫌だという人もいると聞いたことがあるけれど、なるほど、こんな感じなのかもしれない。
 
荷物整理がだいたい終わりかけ、彼が私の部屋に入ってきたとき、ぐるりと見まわしてすぐ本棚へ近づいてきた。
 
「ふーん、こういうの読むんだね。あ、この同じ本持ってる」
 
とっさに、同じ本の話題に持っていき、彼の本棚に話題を変えた。
 
「そうなんだ! 勉強になる本だよね。そっちの本棚に〇〇ってあったよね、ずっと読みたかった本だから今度読ませてくれない?」
 
私の本棚に、弱さに踏み込まれたようで、緊張した。これ以上私の目の前で私の本棚を物色しないで欲しかったのに、彼は1冊の本を手に取りパラパラとめくった。
 
「なんでこんなに付箋が貼ってあるの? これじゃどこが重要なのかわからなくない?」
 
そんなつもりはなかったと思うけど、私には彼が嘲笑しているように見えて、自分が恥ずかしくなった。
事実、重要だから貼っている。きっと彼にとっての本は、ツールなのだろう。自分にない知識や情報を得て、仕事に生かすためのツール。
付箋をたくさん貼るのは、歴史の教科書の隅々までマーカーを引いて勉強したつもりになっているのと一緒だと思われたのかもしれない。
顔が熱くなるのを感じた。
 
違うんだ。そうじゃないんだ。
私の本には、心が揺れた瞬間の過去の私が住んでいる。知識や情報と一緒に私がいるのだ。
学生の頃、今はもう会えない大切な人からもらった本。
社会人になって学生から抜け出せず、働くことへの姿勢に苦しんでいた時に励みとなった本。
後輩ができて、人へ教えることを学ばせてくれた本。
自分の人生を使って何を成したいのかを考えさせてくれた本。
 
人生で立ち止まった瞬間に、いつも本があった。
問題を解決するために手に取った本もあれば、意図せずそれまでの考え方を変えさせてくれた本もあった。
ページをめくれば、その時の自分が活字とともに浮かんでくる。
 
「全部、重要なの。私にとって、付箋が貼ってあるところは、全部大切」
 
彼に通じたかはわからないけど、付箋のページにいる「私」が、今ここに私を連れてきてくれた。これまでの人生の岐路で立ち止まった「私」が、再び道を見つけて歩き出す「私」へ変わっていく、足跡。
あなたのところへたどり着いた私の道のりも、あなたが私にたどり着くまでの道のりも、どんなものだったか私たちはまだ全部を知らない。これから知ればいい、知ってもらえばいい。
恥ずかしさは、もうなかった。
 
彼が自分の部屋に戻ると、私は再び本棚の整理に取り掛かる。
 
透明のフィルム状の付箋がびっしりと貼られた本。開くと、1ページごとに、自分でも呆れるくらい貼ってある。
中には貼る箇所が多すぎて、途中で諦めた本もある。
そいつは永久保存版として、特別な付箋を1枚だけ最初のページに貼った。
 
実は読み返して、なんでこんなところに付箋が貼られているのかさっぱりわからない箇所もある。
このとき、なぜこの一文が自分に刺さったのか?
またそれを考えるのも楽しい。
 
心が動いた瞬間の印を残すように、今も私は付箋を貼り続けている。
動いた感情が、今の自分や未来の自分を、知らずのうちに構成している部分があるのならば、この付箋は私の人生の足跡だ。
そう思うと、付箋を剥がすことはもうできない。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
石崎彩(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

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2020-06-29 | Posted in 週刊READING LIFE vol.85

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