週刊READING LIFE vol,108

つづきはどうなる?《週刊READING LIFE vol.108「面白いって、何?」》


2020/12/21/公開
記事:みつしまひかる(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
呪われた2020年がようやく終わる。
今年はコロナ一色だった。
何しろ1月にはコロナの話を聞きはじめ、2月には世界を丸ごと覆ってしまった。
年末に差し掛かろうかというこのタイミングでも、東京や大阪では感染者数がどんどん増えている。
 
暗い話ばかりはイヤだ。何か面白いことを知って、心は明るく保ちたい。皆さんそう思っているだろう。

 

 

 

本稿を書いているのは12月12日。
馴染みのレストランにスパゲッティを食べにいったら、僕と同じくらいの大きさのツリーが所狭しと店内にあった。
なんだかんだでもう少しでクリスマスだ。
 
クリスマスのド定番、B’z「いつかのメリークリスマス」が頭の中に浮かぶ。
オルゴールのイントロから引き込まれる。
この曲はタイトル、歌詞、メロディ、サウンドのいずれも素晴らしく、かつそれらの相乗効果が見事で、ファンのみならず人気が高い。
僕と同じく、98年発売のファン投票ベストアルバム『B’z The Best “Treasure”』で知った方も多いだろう。
 
一方で、この歌に続きがあることはあまり知られていない。
(え? 続きがあるの? となってくれたら大変うれしい)
 
実は、「いつかのメリークリスマス」はある1つのストーリーの1シーンとして作られたのだ。
冬の情景をバックに綴られる、主人公「僕」と「君」の恋愛。
コンセプト・ミニアルバム『FRIENDS』全8曲をもって、1本の映画のようにストーリーが進行する。
 
重要なポイントは、「いつかのメリークリスマス」はあくまでその中の1シーンであり、この曲だけではストーリーは完結していない、ということ。
むしろ、この曲からストーリーが始まる。
 
本作は歌詞付き4曲とインストゥルメンタル4曲からなる。
歌詞付き4曲にて描かれるシーンにはそれぞれのテーマがある。
①「いつかのメリークリスマス」 ・・・「回想」
②「僕の罪」 ・・・「再会」
③「恋じゃなくなる日」 ・・・「葛藤」
④「どうしても君を失いたくない」 ・・・「??」  ←各個人の解釈に委ねる
 
ちょっと気になってきただろうか?
 
1つのラブストーリーをアルバム全体で描いた「FRIENDS」は30分程度。
①「いつかのメリークリスマス」 と同じく、他の歌詞付き3曲においても各シーンの情景/心情が鮮やかに描写されている。
また、これら4曲の歌詞は、飛行機での移動中に同時進行で書き進められており、歌詞間には「つながり」がいくつも見られる。
 
たとえば、①で印象的な、「僕」が「君」のために「椅子」を走って買いに行ったシーンを④で思い出していることや、③では例の「椅子」が登場せず、代わりに「ソファー」が出てくる、といった違いに気づくだろう。
実際の歌詞を引用しながら詳しく解説したいものの、JASRACに怒られてしまうので、ここでは控えさせていただく。
その耳、目、心でじっくり味わってほしい。
 
なおサウンド面は全体的にクリアかつ冷涼な雰囲気に仕上がっており、冬の季節感が伝わってくる。
特に③は素晴らしく、個人的には①に勝るとも劣らない。
直前のインストゥルメンタルから続けて聞くと、1000回以上は聞いた今でも、僕は鳥肌が立ってしまう。
 
あったかいココアでも飲みながら、二人の行き先に想いを巡らせて、ぜひ聴いてみていただきたい。

 

 

 

もう一つ、クリスマス関連では、アメリカの短編小説家オー・ヘンリーの「賢者の贈り物」が素晴らしい。
貧しい夫婦のお話だ。
明日はクリスマス、妻デラは愛する夫ジムのために、プレゼントを買ってあげたい。
でも……
1ドル87セント。それで全部。有り金はそれしかない。
デラは途方に暮れるけれど、自分が持っているものを差し出すことで、なんとかお金を工面する方法を見つけ出す。
一方で、ジムもデラのため、大事なものと引き換えにプレゼント代を手に入れる。
でもそれは、決定的なすれ違いを生むのだ。
 
このお話は非常に有名であるものの、ご存じない方のために、あえて結末はここでは伏せておく。
ただ言えるのは、このすれ違いはお互いを大事にする真心あってのものであり、その美しさに、きっとあなたの目には涙が浮かぶだろう。
 
オー・ヘンリーは意外な結末を用意する短編の名手として世界的に知られている。
未読の方はもちろん、ご存じの方でも今一度、是非とも結末を確かめていただきたい。
 
ご興味を惹くものと期待して、まずはクリスマス関連のお話を紹介した。
現物はお渡しできないけれど、ささやかながらこの「紹介」をクリスマスプレゼントとして受け取ってもらえればうれしい。

 

 

 

今年は僕を含め多くの人にとって苦難の年だった。
皆さんの気持ちが明るくなるような、面白いことをご紹介したいと考えて本稿を書きだした。
そこでぶち当たったのが、じゃあ面白いとはなんぞや?という疑問である。
いろいろ考えたところ、他にもあるのだけれど、3つに絞るとすると以下の要素が大事なように思う。
 
①Q&A(疑問とその答え)
②ストーリー(ビフォー・アフター)
③知的好奇心(メカニズム、ルール)
 
これら3つの要素は単独ではなく、複数が絡まりあって面白さを成していることが多い。
 
例えば、「いつかのメリークリスマス」には続きがある、と聞いたとき、皆さんには驚きとともに、「どういう話なんだろう?」(②)と、きっと疑問(①;Q)が生まれたはず。
これから皆さんが「FRIENDS」を聴くと、目と耳と心でその疑問が解消されるはず(①;A)。ああ、こういうことが起こるのだと。
 
「友情、努力、勝利」で有名な少年ジャンプ掲載作品も同様に①②が強力だ。
今年超絶ブームとなった「鬼滅の刃」を例にとろう。
 
第一話、自身の不在中に突然家族を殺され、唯一その惨状から生き残った妹は鬼になっており、殺されかける主人公。
助けに現れた剣士に妹が殺されかけ、妹を殺さないでと懇願するとその剣士には厳しく叱責される。
第1巻の表紙は厳しい表情の主人公と、かみつきそうなそぶりを見せる鬼と化した妹。
そのタイトルは「残酷」だ。
悲惨も悲惨で始まるこのマンガ。
しかし、先日発売された最終巻の表紙では、二人とも晴れ晴れとした笑顔である。
どん底から主人公、妹および仲間の死に物狂いの戦いの果てに、やっと幸せが訪れるのだ(②)。
 
また、その途中には鬼がどのように生まれるのか、大ボスは誰でその目的は何なのか、といった謎が現れ、それらが徐々に明らかとなっていく(①)。元は人間だった大ボスが鬼へと転化した理由は「青い彼岸花」にある、と中盤で示され、大ボスは1000年以上その花を探し求めていた。ついに大ボスはその花を見つけられなかったのだが、その理由は最終話にて明かされる。ここで①はいわゆる「伏線」として用いられている。

 

 

 

さて③知的好奇心(メカニズム、ルール)の例はまずはフィクションではなく、現実世界で大注目のコロナワクチンについて挙げてみよう。
アメリカでは今年12月上旬に、コロナワクチンが接種開始となった。
本来ワクチン開発には10年はかかるとされている。これをなんと1年足らずで成し遂げたことになる。
 
ではどうやって?
ざっくりいうと、技術革新によって成し遂げられた。科学の成果である。
その科学の原動力は、現象、メカニズムに対する人間の知的好奇心と言えるだろう。
 
ではもう少し細かく見てみよう。
 
まずは人間の体を含め、生物がどのように作られているか、という話をしたい。
生命の設計図と呼ばれるDNAが遺伝情報を記録しており、いわばその大図鑑から、必要な箇所をメッセンジャーRNA(mRNAと表記)としてコピーし、mRNAから生物の体を構成したり、体内の代謝活動を行ったりするタンパク質が作られる。したがって、適切な条件のもと、目的のタンパク質についてのmRNAを体の中に投与すると、そのタンパク質が作られるのだ。
 
次に、ワクチンについての説明をしたい。
ワクチンとは、ウイルスや細菌などの病原体による感染症の予防(治療の場合もある)に用いられる医薬品だ。
人間や動物の体には免疫と呼ばれる防御機能が備わっており、外から入ってくる病原体と闘う。
ただしこの免疫がうまく働かない場合は感染症にかかってしまう。
 
であれば、この免疫を強化して予防しよう、というのがワクチンの基本コンセプトだ。
具体的には、病原性を弱めたり、無毒化したりした病原体を体に投与することで、その病原体を敵だと体に覚えさせ、しっかり戦えるように準備をしておく。
これで弱められても無毒化されてもいない病原体が攻め込んでくる場合にも対応できるようになる。
 
ワクチンには複数のタイプがあり、ウイルスそのものである生ワクチンから、その一部のタンパク質の構成成分、またはその遺伝情報を用いたものがある。
 
今回のコロナウイルスに対し“あり得ない”速度で開発されたワクチンは、先に述べた遺伝情報であるmRNAを用いたタイプであり、今回このタイプは初めて認可された。超速開発の主な理由としては、mRNAについての基礎技術がちょうど出来上がってきていたところであったこと、および、コロナウイルスの脅威を重く見て各国が巨額投資をしたことが挙げられる。
 
今年11月にはmRNAワクチンを開発している会社が相次いでヒトを対象とした臨床試験の結果を一部開示し、有効性が確認されたことを発表した。
 
ただし、mRNAワクチンは今回が初のケースであることから、効果の持続期間はわからないし、安全性の観点でも今のところ重篤な副作用は見られていないとされている。
過度な期待は控えたいが、少なからず希望はあると考えていいだろう。

 

 

 

音楽、小説、マンガときて、いきなり現実世界のコロナワクチンの話がでてきてびっくりさせたかもしれないが、フィクションとは違いつつも、③知的好奇心(メカニズム、ルール)に当たるこの話についても面白いと感じていただけたのではないだろうか?
 
キリスト教の聖書に、ヒトは知恵の実を食べた存在として描かれているくらい、本質的に人間は「なぜ?」に惹きつけられ、この謎の答えを探求し解消したいという欲求がある生き物だ。
③についても①Q&Aと②ストーリーとの結びつきが強いことには同意いただけるように思う。
 
では最後に③についてもマンガの面白さに見出せるという話をしよう。
メカニズムまたはルール。すなわち、なぜそうなるか、ということだ。
「鬼滅の刃」と同じく少年ジャンプの作品である「HUNTERxHUNTER」を例にとろう。
「HUNTERxHUNTER」では「オーラ(ドラゴンボールでいうところの気)」を用いて戦うのだが、ただエネルギーそのものとして使用されるだけでなく、特殊能力(念能力と呼ばれる)を発動させるためにも用いられる。
単純な電気と、それを用いた家電をイメージするといいだろう。
冷凍庫なら冷やし凍らせる、IHなら加熱するなどだ。
 
主人公ゴンはエネルギーそのもので戦うタイプであり、ドラゴンボールの世界観に近いのだが、親友キルアはオーラを電気に変換して使用する。カミナリのように使うだけではない。
人間や動物の人体の仕組みとして、動く際には脳や脊髄から電気信号として命令を送り、筋肉を動かしているが、キルアはオーラを電気に変換し、自身の体の反応速度を増すのだ。
 
よくできているのは念能力にはタイプが6種類あり、ゴンのようなタイプは強化系(オーラにより身体能力をアップ)、キルアのようにオーラを変換するタイプは変化系となっている。他にも操作系(オーラを用いて対象を操る)、具現化系(オーラを物質化する)、放出系(オーラを飛ばす)、特質系(その他特殊能力)となっている。
各キャラクターはそれぞれのタイプを生かし、知恵を絞って戦う。
すなわち作品ならではのメカニズムやルールがあり、それに沿ってストーリーが進んでいき、読者も頭を使い納得しながら読み進めることができるのだ。
「NARUTO」や「呪術廻戦」でもそれぞれのメカニズムやルールによりストーリーが展開されていくが、「Dr. STONE」ではサイエンスをふんだんに盛り込んでおり、①②③が強固に詰め込まれている。
少し前にはなるが「DEATH NOTE」は②③特化型といえるだろう。
いずれも同じく少年ジャンプの漫画で、オススメだ。
 
さて①Q&A、②ストーリー、③知的好奇心と3つに分けて「面白いとは何か」について考えてみた。
まとめてヒトコトで言ってしまうなら、『「つづきはどうなるんだろう?」とワクワクドキドキさせるもの』と言えそうだ。

 

 

 

さて2021年はどうなるだろうか?
2020年は年中通してイヤというほどストーリー上のタメ(苦境)が作られた。
でもここにきて、驚異的なスピードで開発されてきたコロナワクチンがいよいよ接種開始となった。よもやよもやだ。
人類の反撃の兆しとなるか。
つづきが楽しみである。
 
願わくば、皆さんが「FRIENDS」と「賢者の贈り物」で今年をあったかい気分で締め、新年をすがすがしい気持ちで迎えられることを。そして幸多からんことを。もちろん僕自身にも。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
みつしまひかる(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

大阪府出身、在住。大阪大学卒、大阪大学大学院卒(生物系修士)。
2020年7月開講の天狼院書店のライティング・ゼミ受講。2020年12月よりREADING LIFE編集部ライターズ倶楽部参加。
ちょっとだけでも読んだ人の心が満たされるようなものを、そして書いた自分も大好きになれるようなものを書きたいと願っています。

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2020-12-21 | Posted in 週刊READING LIFE vol,108

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