fbpx
週刊READING LIFE vol.125

「あなたを看取る自分が見える」は、究極のプロポーズではないかと思った《週刊READING LIFE vol.125「本当にあった仰天エピソード」》


2021/04/26/公開
記事:伊藤あさき(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
私の叔母、ゆきちゃんはとても霊感が強い。
どれくらい強いかと言うと、亡くなった人と会話ができたり、人に会ったときにその人に関する何かが見えたり、本屋に行くとある本が光っていて「読みなさい」と訴えてくるといった感じ。
 
そんなゆきちゃんは、叔父と出会ってからあれよあれよという間に結婚した。たしか、会って数回でプロポーズをして結婚が決まったはずだ。二人が遠方に住んでいたということも関係しているとは思うが、そんなにすぐ結婚を決意できるものなのかと不思議に思って尋ねたことがある。
 
「相手のことをまだあまり知らないのに、どうして結婚しようと思ったの?」
 
すると、ゆきちゃんは、
「この人を看取っている自分の姿が見えたから」と言った。
 
ある人を看取っている自分の姿が見えた。だからその人と結婚するのだということがわかった。
 
言っていることは理解できる。でも、そんなことってある??! いや、実際にあったのだということに衝撃を受けた。

 

 

 

私には今、結婚したいと思っている彼がいる。
けれども、そこに至るまでの過程にはいろいろあったし、「この人しかいない」「でもほんとにいいのかな」という葛藤が幾度となく繰り返されての決意だった。だから、迷う気持ちが出てくる度にゆきちゃんの言葉を思い出し、私にもそんな風にわかりやすいシグナル? のようなものがあったらいいのになと思っていた。

 

 

 

「こんばんは。一つ嬉しいニュースを。年下の男性社員(ちなみに独身)と話す機会があったんだけど、彼にとって社内で一番魅力的に思う女性はあさきさんなんだってさ。おめでとう」
 
ちょうど一年前、突然会社の先輩からメッセージが送られてきた。
 
「そんなこと言ってるの誰だろう?」
 
これが私の率直な思いだった。というのも、私は入社してもう十年以上経つので後輩がたくさんいるし、私が面識がある年下の男性社員はほとんど結婚しているからだ。
 
誰なんだろう?? と思いつつも、誰なのか見当がつかなかった私はそれほど気に留めることもなくまた日々を過ごし始めた。だって、会社では全然自分をさらけ出せていないし、会社での自分は自分自身でもあまり好きではないから、そんな私をいいなと思ってくれる人がいたとしても、それは本当の私を知って言ってくれているわけではない。結局は、私が見せたいと思って見せているいわば借り物の私に魅力を感じているだけ。そんな風に思っていた。
 
そして、コロナ禍という状況も相まってそのまま時が過ぎた。
 
「ねー、ねー! 前に伊藤さんのこと気になってる人がいるって話があったよねー! 一度みんなでごはんに行ってみない?」
今度は同期から誘われた。
 
「別にそんなに深く考えず、楽しも♪ って感じでいいんじゃないー? あと、単純に自分のどこがいいって思ってくれたのか知りたくない??」
 
たしかにと思った。
 
借り物の私であっても、どこがいいと思ったのかがとても知りたくなった。

 

 

 

 

判明したのは、好意をもってくれている後輩は10歳年下だという事実。
そして、「カフェで読書をしていそうな清楚な感じ」が私をいいなと思ってくれた理由であった。
 
このとき、私は正直ないなと思った。
わがままで、気が強い私には絶対に年上の人が合っていると思っていた。私のことをうまいこと手のひらの上で転がしてくれるような、転がされているとも気づかせない大人な人。
10歳下といったら、私の一番下の弟より3つも若いではないか。結婚したら長女の私の旦那さんだから、ずいぶん若い「お義兄さん」になる。ぜったい変だ。
 
しかも、カフェで読書なんてめったにしないし、清楚では絶対にない。会社では物分かりのいい感じを装っているけど、本当は超頑固だし、自分中心にものごとを考えてしまうところもある。そこをぐっとこらえて会社ではいい人ぶっている。
 
私の何を知っているというのだ。一体私の何を見て好きだと言っている! よく知りもしないでよくもそんなことを。だんだん怒りに似た感情すら出てきた。
 
好意をもってくれたということは嬉しかったが、私自身が認識している「本当の自分」を見て言ってくれているわけではないというところがひっかかって、彼の気持ちを素直に受け入れられなかった。実はこのひっかかりこそ、自分があまり人には見せたくない、自分自身あまり好きではない「自分」も含めて好きだと言ってほしいという欲求であり、怒りだったのだとあとになってわかった。私は初対面の彼に、「自分のすべてを知った上で好きになってほしい」という欲求を自分でも気づかないうちに抱いていたのだ。
 
 
不思議なことに、「ないな」と思った一方で彼と話していると妙な安心感を覚える自分がいた。それは、人を疑うことを知らない子供のような純粋さと、誠実で優しい彼の人柄からくるものだったのだと思う。その食事の場ですでに私はだんだん彼に惹かれていた。
 
そして後日、彼からメッセージが来た。
「伊藤さんが優しい雰囲気の中にも、熱い思いを持って仕事に取り組まれてるところを知れて嬉しかったです!」
 
あの夜で清楚な印象はきっと崩れ去ったに違いない。でもその代わり、自然と会話が弾む中で、脇目も振らず時には周囲が少しひくほど働いてきたこと、それを支える負けん気の強さとか頑固者とかいう私の軸が少しは伝わったのではないかなと思うと、そんな一面を知った上で言ってくれている言葉だということが嬉しかった。
 
そして、ほどなくして交際を申し込まれたとき、私はとても嬉しかった。
けれども、年齢差は気になった。せめてあと5年早く生まれてくれていれば。私が5年遅く生まれていたらな……とそんなどうしようもないことを考えていた。
 
「年の差なんて関係ない」
 
それは絶対にそうだと思う。年上だって年下だって、尊敬できる人はたくさんいるし、実際にこれまで出会った人は同年齢以外の人も結構多い。けれども、恋愛や結婚となると、しかもそれが自分のこととなると、気づかないうちに自分の中にも存在していた「ふつうこうだよね」という決めつけがムクムクと起き上がる。
 
彼が生まれたとき私は10歳。私が大学を卒業して今の会社に入ったとき彼はまだ中学生なのだ。私の最初の携帯はガラケーで、着うたやメールの絵文字が動くようになるというガラケーの進化を肌で感じてきた世代。一方で彼の初めての携帯はiPhoneで、ハリー・ポッターは電子書籍で読んだという。
 
彼と話していると衝撃を受けることばかりだ。
 
私にとっての青春時代の曲は彼にとってテレビ番組で少し聞いたことあるかもという感じで、大学での専攻を決めるきっかけにもなった大好きなドラマは、彼にとってはタイトルは聞いたことがあるけど見たことがないものだった。
 
でも、そんな違いすら楽しいと思える自分がいたことが不思議だった。年齢差はことあるごとに実感しつつも、一緒にいるとほっとする彼の空気感がとても好きだった。彼はとてもマイペースで、温厚で人に対して怒ることがない。どこまでもあったかい。だから、初めこそ見せたい自分を見せたくなってしまうときがあったし、こんなこと言ったら嫌われるかもとか考えることもあったけれど、自然と素の自分が出るようになっていった。受け入れてもらえないかも……という不安は過ごす時間の長さに比例してなくなっていった。
 
こんな風に書くと、年齢差があっても意外や意外、いいことばかりだったのだろうと思われるかもしれないが、決してそんなことはない。
 
例えば彼がキャンプ道具に20万円を使ったとき。
お金の価値観が合わないと大変とよく聞くが、これがまさにそうなのか?! と思った。こんな感じで大金を注ぎ込まれたらたまったものではないと思った。でも、10年前の自分を思い出してみると、働いて稼いだお金は自分で自由に使っていた。自分が通ってきた道を彼が今歩んでいるというだけのことなのに、なぜかそれが受け入れられなかった。そして自分のときはよかったのに、彼に対してはNOと言う自分が嫌な人間に思えた。
 
曲を知ってる、知らないなんてかわいいジェネレーションギャップだ。けれども、お金に対する考え方や仕事に向き合う姿勢、何を大切にしていきたいかみたいな生き方に関わるものは、だんだんと育まれていくものだから、そこに10年という歳月のギャップがあることに私はとたんに不安になった。
 
悩みながら、苦しみながら一歩一歩前進してきて今の私がある。けれど、目の前にいる彼には私にはあった10年がないのだ。もちろんこれから様々なことを経験して、吸収して私とはまた違う10年になるのだろうとは思う。でも、まだ来てもいない未来に、起こってもない出来事に恐れを抱く私がいた。二人の間にある時間という永遠に埋まらない溝のようなものは、価値観の違いという形でいつか私たちに襲いかかってくるのではないかと。
 
そんな不安な日々を過ごしていたとき、ふと昔のことを思い出した。そういえば、私はいつも先のことを考えては不安になっていたなと。「もしかしたら」「いつか」そんなことを考えたらきりがない。私たちにできることは「今どうするか」を決断することだけだ。その決断の連続によって未来ができていく。であるならば、常に「今」に全力を捧げて後悔のない決断をすること。それがすべてのような気がした。そしてきっと私は誰と付き合っても、結婚を考えても、不安に思うことは不安に思うし、取り越し苦労なほどいろいろなことを考えてしまうのだと思う。そう思うと、今自分が感じている思いを、意思を大切にすること以上に大事なものはないと思った。
 
「一緒にいると安心する。自分が自分でいられる」
それを大切にすればいいのだと思えた。

 

 

 

彼が彼のおじいさんが亡くなったときのことを話してくれたときのことだ。
「おじいちゃんが死んだとき、初めておばあちゃんが泣いている姿を見たんだ。とても悲しそうで忘れられない」と。
そして私に向かって言ったのだ。
「長生きしてね。でもあとに残される方は辛いから俺のほうが長生きしたいなぁ。ちゃんと俺がお見送りして、いっぱいいっぱい悲しんでからいくね」
 
何気ない会話の中でのことだったが、私は胸がいっぱいになった。
彼にはそんなつもりはなかったと思うが、これは究極のプロポースなのではなかったかと今になって思う。
彼の私に対する愛情の深さを知った瞬間だった。
 
叔母に、叔父を看取る自分の未来が見えたように、彼には私との未来がしっかり見えている。それは霊感とはちがうし、不確かなものかもしれない。周りの人は心配だというかもしれない。でも、私は「年齢」という人がどれだけ生きてきたかを示す指標のようなものではなくて、どんな風に生きてきて今のその人があるのかや、人となりに目を向けてもらえたら嬉しいと思う。
 
そんな彼と、私は6月に入籍する。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
伊藤あさき(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

三重県生まれ。父の転勤で中学時代をオーストラリアで過ごす。慶應義塾大学法学部卒。
天狼院書店主催の【ライティング・ゼミ】を通して書くことに興味を持ち始め、ライティング力を磨きつつ発信したいことを模索中。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325


■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」

〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984


2021-04-26 | Posted in 週刊READING LIFE vol.125

関連記事