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週刊READING LIFE Vol,93

「命の使い方」《週刊READING LIFE Vol,93 ドラマチック!》


記事:山口畝誉(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「ポリープがありますね……」
 
それは5年前。2015年の1月だった。
毎年受ける健康診断。検査に引っかかり再検査。大腸内視鏡検査を受けることになった。
 
麻酔で先生の声が遠のいていく。
 
「……一つは6ミリぐらい。後の二つは2ミリと3ミリぐらい。切除しておきますね……」
 
検査後。ポリープを3つ取ったと聞かされた。
今は医学がとても進歩している。内視鏡検査でポリープが見つかればその場で即座に切除できるのだ。
それから約二週間後。言われた通り予約して細胞検査結果を聞きに行った。
 
「二つは問題なかったんですが……6ミリぐらいの一番大きいの。ちょっといびつな格好をしていたヤツです。悪性……つまりガンでした」
 
「ん? ガン??」
 
「はい。粘膜下層まで行っていました。きれいに取っておきましたから……。これから5 年間は半年おきに大腸内視鏡検査と血液検査を受けてください」
 
それは驚くほどあっけないガン宣告だった。
ガン宣告といえば、家族を呼び出して本人に告知するかどうか伺いを立てる……なんっていうのは昔のドラマの話し。ガンはもはや不治の病ではない。
私はラッキーなことに初期段階だった。
ガンと告知されてからポリープを切除したのではない。ポリープが見つかって切除したらガンだった。つまり、何よりラッキーなことは自分がガンだという自覚をせずにすんだことだ。
 
「ガン??……大丈夫だろうか?」そんな不安や恐れを抱かずにすんだ。
「もしも内視鏡検査をするのがもっと遅れていたとしたら……」と考えると、ただただありがたく感謝の気持ちでいっぱいになる。
 
とはいえただ一つ確かなこと。既往歴には「大腸ガン」という文字を書かなければならなくなったことだ。たとえ本人の自覚が無いとしても。
あれから5年。今のところ再発はない。
晴れて「ガン克服者」となった。
心から神様に感謝をする毎日だ。
 
この経験は「いつか本当に死ぬかもしれない……」ということを少なからず自覚させてくれるきっかけになった。
この人生で与えられた時間は有限であるということだ。
そして、神様に生かされている時間であるということだ。
 
そんな私には、もう一つ神様に生かされた貴重な体験がある。30年前のことだ。
1990年11月の終わり。奥鬼怒での遭難未遂。
遊歩道の帰り道、「もう暗いから遊歩道を引き返すのは危険だ!」
そう言って間違った道を奥へ奥へと入って行ってしまったのだ。月明かりだけを頼りに。
どんなに歩いても人影は愚か民家もない。さすがにマズイと来た道を引き返すことにした。
気温は1度。時計の針は23時をまわり、すでに13時間以上歩き続けていた。
寒さと疲れで座り込んで休んでいたその時、車のヘッドライトが光った。
私は全身で手を振って助けを求めた。
ヘッドライトは偶然通りかかったマタギだった。
 
「なんでこんなところに??……あなたたちの背後に熊の目が光っていたんですよ!」
 
「まさか?!」
熊が私たちの背後にいたのなら、熊に襲われていたかもしれない。
だが、あの時の不思議な感覚を忘れることはできない。
「あぁ〜 やっと来てくれましたね! 待っていました! 神様ありがとうございます!」と心の中で叫んでいたのだ。
「助けに来てくれる」ことをなぜか予知していたのだ。直感なのか無意識なのか……。
熊に襲われる恐れなんて微塵も感じなかった。
なんとも不思議な感覚だった。
 
こんなことを言うとなんだか胡散臭く聞こえるかもしれない。
だが、心理学の世界では「集合的無意識」と言う考え方がある。
表層部にあるのは「意識」。その下にあるのは広大な「無意識」。この「無意識」を「個人的無意識」と呼ぶなら、さらにその深層に「集合的無意識」があり、人はこの「集合的無意識」でつながっていると言う。
この「集合的無意識」と言うのは個人を超越したもの。全ての生きるものの意識はつながっていて、全ての人類に共通する普遍的な大きな意識のことを指す。
 
「それはオカルト的な話しじゃないの?」
と思われるかもしれない。
だが、「虫の知らせ」や「シンクロニシティ」や「以心伝心」は誰もが一度は耳にしたことがあるのではないだろうか? これらは集合的無意識の一例なのだ。
 
あの奥鬼怒で遭難しかかった時、あたかも偶然のようにマタギが現れて救助された。
「シンクロニシティ」として潜在意識からのメッセージがマタギに届いたのかもしれない。
いずれにしても、科学では解明されないドラマチックなことが人生では起こる。
 
あれから30年。様々な経験をして今日まで生きてきた。神様に生かされながら。
 
アップル創業者のスティーブ・ジョブス氏の有名なメッセージがある。2005年スタンフォード大学での講演の内容だ。
 
「もし今日が人生最後の日だったら、私は今日しようとしていることをしたいと思うだろうか? 答えがNOの日が、何日も続くようなら、何かを変える必要がある」
「自分はいつか死ぬのだと考えることは、人生において大きな選択をするときに自分を助けてくれる、今までに出会った最高のツールだ……自分の心に従わない理由はない。
時間には限りがある。だから他人の人生を生きて時間を無駄にしないように……。他人の意見の雑音に、自分の内なる声を邪魔させないように……Stay hungry, stay foolish.」
 
表層部にある個人の「意識」の領域はほんの3%。広大な「無意識」の領域は97%とも言われている。
理性は時々勘違いをする。ほんの3%に過ぎない意識の領域で折り合いをつけようとするからだ。理性はとかく周りからの期待や世間の常識に照らし合わせたものである可能性が高い。事実、私も含めて多くの人たちはこの意識領域で折り合いをつけようとする。
ひょっとしたら本当の自分を生きていないのかもしれない。
 
直感のサインはほんの一瞬だ。その一瞬のサインを逃すと理性が発動する。だから理性が直感とは違う選択をしてしまうことが起こる。心から満たされた人生を送るためにも直感や無意識にいかに気付くかが重要だ。
 
直感や無意識は羅針盤だ。自分が心から望んでいないことにNOを突きつける。いくら理性がYESと言っても無意識が許さない。そんな時、不思議なことにNOとなるような出来事を無意識が引き寄せる。だからこそ意識と無意識とを繋げる必要があるのだ。
さらに集合的無意識を味方にできたら鬼に金棒だ。
 
心理学博士のウエイン・W・ダイアーによると、40代、50代になる頃に、人は人生のバランスが失われると感じると指摘する。これまで自分の未開拓の部分が発見されることを要求してくると言うのだ。それは、無意識にしまいこんだ満たされない心の叫びかもしれない。また、60代、70代、80代の最大の恐怖とは、自分の人生に意味がなかったのではないか、精一杯生きて来なかった、十分にチャンスをものにしていなかった、十分に自分の強みを生かしてこなかったのではないか?という恐れだと言う。
 
日本人男性の平均寿命は81.41歳。女性は87.45歳。
今、あなたは人生のどこにいるだろうか?
 
もし、あなたの余命が3日しか無いとしたらあなたはどうするだろうか?
あるいは一週間だとしたら……?
余命が3年だとしたら、あなたはあなたの命をどのように使うだろうか?
 
人生はドラマチックな創造だ。
神様は私たちに人生を「経験」させることを意図している。
自分と言うかけがえのないリソースをどのように役に立てるか?自分のために。世の中のために。
それを模索し続けることが人生の目的なのかもしれない。
自分の行き先はわからなくてもいい。自分の道さえ歩いていれば。内なる声に従って。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
山口畝誉(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

東京都出身。新卒で外資系に入社。国際ロータリー財団の奨学金で米国に渡りMBA取得。
アップル、マイクロソフトを含む外資系IT業界7社。転職回数8回。従業員数18,000人の純日本企業で唯一の女性役員で自己不一致。国家資格キャリアコンサルタント。ライフ・キャリアコーチ。生涯現役を目指して芸能界入り。郷ひろみファン歴48年。

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2020-08-24 | Posted in 週刊READING LIFE Vol,93

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