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週刊READING LIFE Vol,96

私の知的生産を支えるもの《週刊READING LIFE vol,96 仕事に使える特選ツール》


記事:雨辻ハル(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
「仕事に使える特選ツールかぁ」
 
今週のテーマを伝えられたとき、私はとても悩んだ。仕事に使えるものって一体なんだろう。社会に出てまだ1年と少ししか経っていない私にとって、今回のテーマはかなり難題だった。
 
家で考えていてもいいものは浮かばないのはすぐに分かった。仕事に使えるツールなのだから、職場で実際に使っているものの方がいいと思ったからだ。なので明日職場に行って私にとっての特選ツールを見つけることにした。
 
その難題を抱きながら、その日は眠りについた。
 
次の日、昨日から頭の中を覆い尽くしている難題を抱えながら職場へ向かった。ガラッと扉を開けると、いつも見慣れた光景が飛び込んできた。おはようございますと挨拶をし、何かいいものはないかと周りを見渡した。
 
書類を閉じているファイル、会社から支給されたパソコン、プリンター、座椅子、ホワイトボード。職場にあるたくさんのものが目に飛び込んできたが、どうもしっくりこない。今回のテーマは仕事で使えるツール、しかも特選なのだから、しっくりこないものじゃダメだと思った。自分にとってのスペシャルを見つけなければならないと思っていた。
 
「〜ねばならない」という強迫観念に取り憑かれてしまうところは私の悪い癖で、常にこのことが頭を離れなくなってしまう。今回もそうだった。他人よりもいいものを探さなければならないと常に考えていた。
 
こういう感情になったとき、お目当てのものはあまり見つからないということは理解していたはずだった。探し物というものは、案外何も考えていないときに見つかるものである。見つけようとどれだけ願っていたとしても、そういうときには出てきてくれないのである。そのものだけに集中していると視界に入りづらいのだ。それはまるで無欲の人が宝くじに当たるようなもの、つまり強欲な人はお金を稼げないということである。
 
よく大金持ちになりたいという人を見かける。大金持ちになるという目標はとてもいいことだ、頑張ってほしいと思うが、そういう人に限ってあまりお金を稼げていないように思える。ただ、それでお金を稼いでいる人もいるので、すべての人に当てはまるとはいえないということは先に断っておく。しかし、あまり稼げていない人がいないように思えるのはなぜだろう。
おそらくこの理由が、お金という欲に支配されてしまっているからだというように思う。現在いわゆるお金持ちと言われている人はお金を稼ぐために働いているというよりも、自分がやりたいことをやっていたら、いつの間にかお金持ちになっていた人が多いような気がしている。例えば、連日Twitterでお金配りをしている前澤友作さんは、儲けるというよりも自分な好きなブランドを盛り上げていきたいという思いで会社を成長させていったそうなのだ。お金という目先の欲よりも、ブランドの将来をとった結果、今ああやって配れるくらいのお金を持っているのだ。
 
無欲の勝利という言葉があるが、まさにこの通りだと思う。欲に飲まれてしまう人は次第に余裕がなくなっていく。どうして稼げないんだ、こんなにも頑張っているのに、と焦りが生まれてくる。焦ってやってもいい結果など生まれるわけがない。その焦りがいつの間にか間違った道へと足を進めさせる。失敗してはじめて間違った道を進んでしまったと気づくのだ。
 
「ないないないないない!」
 
見つからない。そう簡単には見つからないと思っていたがこれほど見つからないとは思っていもいなかった。まさにこのときの頭の中は、焦りという感情で埋め尽くされていた。無欲とは程遠かったと思う。下調べや書く時間、そして修正にかけられる時間を考えると探している時間はあまりない。一刻も早く自分の特選ツールを早く見つけなければならなかった。
 
焦る気持ちを抱えたまま、デスクについた。座って一息ついたのがよかったのだろうか、少し私の焦りが薄れたような気がした。あれほど焦りに満ちていた頭の中がスッキリしたような感じがした。始業時間が近づいていたので、頭がツールを探すことから、仕事をするということへと切り替わった。だが、探すことを忘れてはいけないので、付箋に今回のテーマを書き残し、デスクのマットの下に入れておいた。
 
上司と朝の打ち合わせをし、今日やらなければならないことを書き出す。PCにToDoリストを作っている人もいるかと思うが、私はこういうことはアナログ派なので、毎朝ノートに書き込んでいる。ノートに書き込むという作業をすることで、頭の中が整理されるし、実際に書いた文字を見ることで頭に入りやすくなると思っている。頭の中を整理するにはタイピングより書く方がいいと思っている。
 
リストを作っているときにふと思った。
 
「あれ、私の特選ツールってこれじゃない?」
 
右手に握っているボールペン。
 
「これだこれ!」
 
「私にとっての特選ツールはこれしかない!」
 
やはりテーマを考えなくなったとき、アイデアは浮かんできた。無欲が勝利を勝ち取った瞬間だった。
 
私が使っているボールペンは三菱の「ジェットストリーム」の多機能ペンである。使っている人は多いだろう。黒・赤・青・緑の4色に加えて、0.5ミリのシャープペンシルがついている。まさにこれ1本あればいいボールペンである。
 
私は一般的なボールペンのインクが嫌いだった。書き心地もよくはなく、ペン先に玉ができやすく、書いた文字もはっきりしない。だからずっとボールペンで文字を書くことを敬遠していたのだ。
 
もちろん全く使っていなかったかと言われればそうではない。中学生から高校生にかけては「STYLE FIT」というインク交換式のボールペンを使っていた。授業のノートをとる際に、色をたくさん使っていたタイプの生徒だったので、カラーバリエーションの豊富なこのペンはぴったりだった。しかし、それを使うのは重要な語句を強調するときだけだった。他の文字はシャーペンで書いていた。
 
私がシャーペンを使わなくなったのは受験生のときだった。Twitterでノートテイキングはボールペンでしたほうがいいというツイートを目にしたことがきっかけだった。シャーペンは書くときに力がいるので、長い間文字を書くと疲れてしまう。一方、ボールペンは力を使わなくてもスラスラとかけるので、シャーペンほど手の疲れを感じないという話だった。すでに私は受験勉強で多くの文字を書いていた。特に数学は計算式を書かなければならないので、毎回手が疲れていたのだった。何か疲れない方法はないのかと考えていたときに出会ったのがこのツイートだったのだ。
 
このツイートを見た私はすぐボールペンを買いに走った。
 
荷物をとにかく減らしたかった私は、筆箱を持ち歩かず、書き心地のいいボールペンを1本だけ持ち歩こうと思っていた。なので多色で、シャーペンが付いているものを探すことにした。さっそく足を運んだ文具コーナーに私が求めていたボールペンがあった。それがジェットストリームの4+1だったのだ。黒と赤に加え、青と緑の4色。そして0.5ミリのシャーペンが付いている。これだ。これしかない。私の理想とするボールペンを見つけたような気がした。
書き心地はどうなんだろう。パッケージの裏面を見てみると、低粘度油性インクというインクを使っているということだった。
 
「低粘度油性インク?」
 
聴き慣れない単語だった。油性や水性などは聞いたことはあるが、低粘度とはどういう意味なのだろう。さっそくネットで調べてみることにした。uniの公式サイトにはジェットストリームの特徴として以下の4つがあげられていた。
 
低い筆記抵抗で、なめらかに書ける
くっきりと濃い描線
優れた速乾性
新機構でインクの直流&逆流を防止
 
要するに、ジェットストリームはなめらかで濃い、すぐ乾くインクを使っており、そのインクがペン先から漏れ出したり、ペン先に逆らってインクが流れることを防ぐ技術を搭載しているということだった。
 
説明を読んだだけでは理解できていなかったが、なめらかという単語に目が止まった。既存のボールペンと比べて、ジェットストリームは筆記抵抗が低いそうなのだ。その筆記抵抗の低さによってクセになる、なめらかさを実現したというのだ。これにはとても興味をひかれた。どうやらこいつは今までのボールペンとは書き心地が違うらしい。さっそく書いてみて確かめることにした。
 
実際に書いてみるとスラーッと紙の上をペン先が走っていく。濃くはっきりとした黒の跡がペン先の後に続く。直線、曲線、止め、ハネなど、文字に必要な要素はすべて試した。曲げても止めてもハネても、全く問題はない。ここまでなめらかにかけるボールペンが今までにあっただろうか。私の中のボールペンの概念をひっくり返されたような感覚を覚えた。それだけではなくインクも滲まない。滲まないので手が汚れることもなくなる。書いていてこれまでストレスがないボールペンははじめてだった。
 
これにしよう。4色プラス1というカラーバリエーションもクセになる書き心地も、ジェットストリームの全てが私の理想だった。
 
ジェットストリームの他にも、ZEBRAのSARASAや三菱のuniball、PIROTの消せるボールペンなど、数多くのボールペンを試したが、ジェットストリームの書き心地よりいいものはなかった。
 
その日からジェットストリームで字を書く生活がはじまった。
 
どんな紙に書いてみてもペンが滑ってくれているような感じがする。書いているというより滑っているという感覚に近かった。やはりどれだけ書いてもいいと思えてしまう。ジェットストリームにして正解だと思った。クセになる、なめらかな書き心地に取り憑かれてしまった。
 
文字をスラスラ書くことができるので、書いているうちにリズムが出てきて、書くこと自体が楽しくなってくるのがわかった。シャーペンで書いているときには思うことのなかった感情が芽生えいたのだ。書くことが楽しいと勉強も楽しくなってくる。今までこんなことを思ったこともなかった。
 
またあまり筆圧をかけないで文字をかけるのもいいと思った。私は筆圧が強いので、シャーペンを使っているときはかなりの力をかけて書いていた。なのですぐ手が疲れてしまうことが悩みだった。この悩みもジェットストリームを使うことによって解消された。先にも触れたように、ジェットストリームのインクは筆記抵抗が他のボールペンよりも低いので、力を入れて書く必要がない。少しの力をかけてやるだけでなめらかに書けるのがいい。長い時間文字を書いていることが多くなってきた私にとってこの悩みが解消されたことはとても嬉しかった。今まで1時間半も書き続けていれば手が痛くなってきていたが、3時間くらい書いてようやく手が痛くなってきたなと思うくらいになっていた。
 
そしてもうひとつ、ジェットストリームを使うようになって変わった点は、消しゴムを使うことがなくなったということだ。シャーペンを使っていたときは当たり前だが、間違えたときは消しゴムを使っていた。この消しゴムを使うことが意外と勉強中はストレスになるのだ。間違えたとき、いちいち消しゴムに持ち替え、間違えたとところを消し、また書き始める。今までリズムよく書いていたときに消しゴムに持ち替えることでそのリズムが途切れる。そこで一瞬集中が途切れてしまう。消しゴムで消すという行為が勉強のペースを崩すのだ。
しかし、ジェットストリームを使い始めたことで、消しゴムで消すという行為が、二重線で消すという行為へと変わったのだ。二重線にしたことで持ち替えることがなくなったことで、集中力が切れることもなくなり、最小限のタイムロスで勉強を続けることができるようになった。
 
大学の4年間、そして社会人になった今でもジェットストリームのなめらかな書き心地に取り憑かれている。財布やスマホと同じように出かけるときは常に持ち歩いている。浮かんだアイデアをメモをするとき、手帳に日記を書くとき、本の大事なところに線を引くときなど、私の生産活動においてこのペンが必要不可欠なのだ。これがなければ仕事ができない。なので仕事用に1本、自宅用に1本、そして持ち歩く用に1本の計3本持っている。どこに行っても同じものを使うようにしているためだ。
 
やはり書き心地がよいものを使っていると考えがまとまりやすい。考えていることをすぐに紙の上に書き起こすことができるので、頭の中をすぐ整理することができる。書いているうちにまた新たなアイデアが出てくることもある。書くことは思考の整理にもつながると私は思っている。
 
私の生産活動、そして仕事を支えてくれる縁の下の力持ち的な存在、そして財布やスマホのように常に持ち歩いていないと気が済まない存在なのが、このジェットストリームなのである。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
雨辻ハル(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

愛知県知多半島出身。
学生時代からローカルや移住に興味を持ち、地元のために何かやりたいと考えていた。天狼院書店のライティング・ゼミを受講したことがきっかけで、20年以上住んでいる知多半島の魅力を記事にして発信したいと思うようになり、現在は「知多半島の魅力を知多半島民に伝える」をテーマにしたブログを執筆している。信仰、宗教、民俗学の視点から知多半島を切り取った記事も書いていきたいと考えている。

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2020-09-22 | Posted in 週刊READING LIFE Vol,96

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