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週刊READING LIFE Vol,97

ジロリアンという人種にうんざりした僕《週刊READING LIFE vol,97「また、お前か!」》


記事:篁五郎(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
今から十年くらい前だったと思う。確か、あの時はお正月の三が日明けで当時勤務していたコールセンターの初出勤の後だったのを覚えている。
 
「篁(たかむら)さん、今日仕事終わったらヒマ?」
 
同僚に声をかけられた僕はコクリと頷いてヒマだと伝えた。すると、同僚、仮に真下さんとしておこう。その真下さんが嬉しそうに付き合って欲しいところがあると言ってきた。正直言うと正月から外で何かするのも億劫ではあったが、新日本プロレスの東京ドーム大会に行けなかったせいか寂しさを紛らわすのにいいかと思い付き合うことにした。
 
コールセンターは神泉駅と新宿駅の中間当たりにあって真下さんと歩いていくことになった。
 
「俺に付き合って欲しいところってどこですか?」
「篁さんラーメン好きって言っていたでしょ? 美味いラーメン屋が今年初めて開くから初ラーメンをそこで決めたいんだよね、それで一緒に行こうと思って」
「はあ、そうなんですね」
 
有り難いやら面倒臭いやらと思ったが、確かに美味いラーメンを食えるのは悪くない。今年初ラーメンが当たりならきっといい年になるだろうと根拠なく決め込んで後に付いていくことにした。

新宿駅から都営新宿線に乗って神保町駅から三田線に乗り換えて三田駅で降りる。当時港区なんてほとんど来たことない僕にとってはちょっとした小旅行だ。土地勘のない場所だからはぐれたらまずいと思って必死になって真下さんの後をついて行く。
 
「ここの角を曲がると行列が見えてくるよ」
 
行列? そこまで食べたいほど美味いラーメンってなんなのだろう? 疑問符が浮かんだが、黙って角を曲がる。すると真下さんの言うとおり十人以上の長い行列ができていた。
 
「こんなに並ぶなんてどこのラーメン屋ですか?」
 
思いついた疑問をそのまま口にしてみる。
 
「あれ? 篁さん、ラーメン二郎知らないの」
 
何? 二郎だと。知っている。もの凄く量が多くて麺の上には野菜(モヤシとキャベツ)と「ぶた」とよばれるチャーシューが載せられると評判のラーメン屋だ。
今でも受け継がれているのが独特のコールというやつ。
 
「マシマシで」
 
とか
 
「固めマシマシ多め」
 
なんて暗号みたいに自分の好みにラーメンをカスタマイズする店。当時から量は話題で味については特に美味いみたいな話を聞いたことがなかった。
 
「真下さん、二郎って美味いんですか?」
 
また思ったことを聞いてみると予想以上の返事が返ってきた。
 
「美味いからこれだけ並ぶんだよ。二郎はさ、ニンニクが利いていて味付けも濃いけどコクがあって醤油の滑らかさが溜まらないんだよね。全国にも支店がいっぱいあってさ……」
 
などと二郎の美味しさを熱く語り出した。
 
ヤバい。真下さんはジロリアンだったのか。ところでジロリアンってなんだがご存じですか? 知らない方のために簡単に説明しておこう。一言で言うと
 
《ラーメン店「ラーメン二郎」の愛好家を指す呼び名。熱狂的なラーメン二郎ファン。》
 
を指す。ラーメン二郎は三田にある本店の他に修行してのれん分けしてもらった店が何十店もあるらしい。チェーン店みたいにフランチャイズ制ではないので店によって味が違っているそうだ。その違いを楽しみに各地にある店に通い詰めている人もたくさんいるらしい。
 
真下さんは「自分はまだまだ」と言いながらジロリアンの間で有名と言われる店舗は全制覇しており、地方へと向かう予定も組んでいるそうだ。
 
二郎バージンの僕からしたら有名な支店全部行っただけでも凄いと思うが、上には上がいるらしい。世の中ってのは広いもんだと思いながら黙って頷いていた。
 
ということは並んでいる人みんなジロリアンか。怖い。
 
真下さんからのレクチャーによると三田本店は残すのは厳禁だから食べられる量だけにしないと店主が機嫌を損ねるらしい。知ったことかと口に出すのを我慢しながらラーメン二郎のルールとやらを聞いていた。すると実にめんどくさい。
 
・券売機で食券を買うタイミングに注意を払え
・店員に食券を見せるときはしっかり見せろ
・「かため」「少なめ」は店員に手間をかけさせるからやめろ
・食券の提示時にトッピングをオーダーするな(ド素人丸出し)
・どんなに席が空いてても店員の指示があるまで立ってろ
・席に座ってからケータイをいじるな(怒)
・水を1~2口飲んで胃袋の調子を把握しろ
・マシマシができない店でマシマシをオーダーするな(恥)
・トッピングを聞かれたら0.5秒以内に即答しろ
・友だちやカップルでも席でいっさい会話するな
・ラーメンがくるまで店員の働きを見て感謝しろ
・野菜にスープをたっぷりかけてから食べろ(そのまま食べるのはアマチュア)
・野菜を半分食べたら天地返ししろ(ミスったら自分のスキルのなさを恨め)
・ニンニクはスープと混ぜるな! 放置して自然に混ざるのが最良
・他の客の食べるペースを観察して自分が遅かったらペースを上げろ
・本来なら先に麺を全部食べてから野菜を食べるのがプロの流儀
・スープと醤油をコップに入れて飲む「二郎エナジードリンク」はシャキッとなる
・丼に麺だけ残して醤油をかけて食べるとツウに思われる
・最初にひとくち食べて美味しかったら店員に「今日も美味しいです」と言うのが礼儀
・友だちが食べてる最中でも自分が食べ終えたらすぐに退場しろ
・友だちが食べてる最中だからって水とかスープを飲んで時間稼ぎするな
・ティッシュは持参していけ
・店内のティッシュは食べる時間のロスになるから使うな
・他の客の迷惑だからどんなに大盛りでも5分で食べきれ(女子も同様だ)
・時間のロスになって他の客の迷惑になるからトイレは使うな
・テーブルを布巾で拭いただけで善人ヅラするな! その行為は脂を引き伸ばしただけだからティッシュで油分を拭き取れ
・ カウンターの上に丼を返すとき「78点」と言って味の評価を伝えるのがプロ
・ 友だちを二郎に連れてって「凄いだろ」とかドヤ顔するな。凄いのは二郎であって貴様ではない
・ 店員は神様だ。店内ではどんな行為をされても従え
 
こんなに独自ルールがあるラーメン屋に好き好んでいく人の気持ちがわからない。僕は頭の中で大沢誉志幸の『僕は途方に暮れる』を流しながら真下さんからのレクチャーを受けつつ行列に並んでいた。30分も経つと頃には最後尾だった僕たち二人の後ろには10人以上の行列ができ、どいつもこいつもブヒブヒ、失礼。二郎のラーメンを楽しみにしながら弾んだ表情を見せていた。
 
それから数十分かけて店内に入ると例のコールが聞こえる。初体験の僕にはちょっとしたカルチャーショックだった。何せ何を頼んでいるのかまったくわからない。イヤ、レクチャーを受けていたのだが大沢誉志幸の後には鈴木雅之の『違うそうじゃない』が流れていたせいで頭の中にまったく記憶されなかったのだ。
 
よくわからぬまま「マシマシで」と答える。
 
すると店員が怪訝な顔をする。
 
「お客さん食べられます?」
 
僕はきょとんした顔をして
 
「食べられますよ。だから注文したんじゃないですか」
 
と返事をする。店員は疑いの眼差しを向けながら
 
「残さないでくださいよ」
 
吐き捨てるように言った。

 

 

 

カチン

 

 

 

よっしゃ全部食ってやろう。そう思って二郎のマシマシが来るのを待った。さっきの店員が無愛想な顔をしてもってきたのはキャベツともやしがてんこ盛りという表現がぴったりなほど丼に盛ったラーメンだった。というか麺が見えない。スープは醤油ラーメンだから濃い茶色をしているけど、ところどころ白い斑点みたい豚の背脂が乗っている。
 
そして山盛りの野菜に立てかけるように置いてある焼き豚の分厚いこと分厚いこと。人間の食べ物か? と思ってしまったがもう遅い。食べるしかない。
 
箸を手に取って「いただきます」とつぶやく。ラーメンとの一本勝負がスタート。

 

 

 

結果から言うと僕の勝利。スープも残さずに完食した。味はまったくもって覚えていない。あの店員の「残すなよ」という一言しか覚えてなかった。
 
それ以来、ラーメン二郎に行くことはなかった。しかしながら二郎に関する情報はイヤでも目に入ってくる。初めて行く場所でどんなラーメンがあるのか検索をすると必ずと言っていいくらい出てくるのが「ラーメン二郎」だった。
 
「また、お前か!」
 
ジロリアンからのコメントも目に入ってくる。所謂2ちゃんねるなどの匿名掲示板にあるラーメン情報にはジロリアンが何人も生息していて二郎の美味さを布教のごとく書き込んでいる。それがイヤでジロリアンを揶揄するような投稿もあるが、それを見るのもイヤ。
 
しかもすっかり定番になったのか二郎系と呼ばれる二郎で修行していない人が二郎みたいにマシマシのラーメンを出す店まで増殖している。
 
「マシマシ」
 
なんて聞くと、三田本店でのことを思い出してイヤになるから二郎系の店には行かないようにしていた。大体二郎なんて身体に悪いラーメンの中でも特に身体に悪いに決まっている。背脂多いし、ニンニク効き過ぎてるし、麺は固いだけだし。
 
確か、康太(やすた)という人がいてラーメン二郎を食べ過ぎて身体壊して死んだらしい。調べてみる噂のようだが身体を壊したのは本当だったみたい。
 
良かった。そんな人にならなくて。あれは中毒と同じだわ。食べる度に死へのカウントダウンをしているようにしかみえない。ジロリアンなんてゾンビみたいなもん。それくらいラーメン二郎のことを毛嫌いしていた。
 
だって、ジロリアンの中にはマナーが悪いのがいてお店近隣の住民に迷惑かけたりしているのもいるんだとさ。しかも「ロット」とか「二郎のラーメンが特別に美味しいわけではないが、食べずにいられない」「二郎はラーメンではなく二郎という食べ物である」なんて言いやがるの。二郎って食べ物ってなんだよ、と。ラーメンはラーメンじゃねえか。意味分からない。
 
それに店員の評判も悪いお店があったりする。僕が三田本店で受けたのも同様だけど別の店舗ではこんな事もあったとさ。それは都内のある店舗でのこと。
 
標準盛りのラーメンを頼んだお客さんが3分の2くらい食べたところで、「食べられないんだったら残してください。次のお客さん待ってるんですから」と冷や水を浴びせるような言葉を投げかけ、店から追い出されたという。
 
他のラーメン屋ではせいぜい私語禁止とか食べるときにスマホ見るなくらいしかないよ。食べている途中で追い出すってどういうこと? 何様なのよなんて思ってしまうわけ。
 
しかし、そんな僕でも10年経って二郎アレルギーというのが薄くなってきた。どうしてか? 市民権を得てしまい普段から目にするようになったからだ。毎日のように目にすれば慣れてきてしまうのか時間が経ったからイヤな接客も記憶が薄れるようになった。
 
そして、遂に自らラーメン二郎へと足を踏み入れてしまった。どうしてそうなったのか? それは日清食品のせいだ。日清が二郎をモチーフにした豚ラーメンなんてインスタントラーメンを出したからだ。確かコロナで自粛期間中にたまたまコンビニで目に入ってカゴの中に入れてしまったのが運の尽き。気付いたらもやしと豚の角煮、味付け卵まで入れてレジで精算していた。
 
買ってすぐに作って食べて見たさ。そしたら10年くらい前のときに覚えてなかった味をじっくりと味わえたのさ。
 
濃い醤油とニンニクがマッチしていてそんなに重く感じなかったのさ。美味かった。
 
もちろん完食。ならば日清食品の味とラーメン二郎の店の味、どちらが美味いのか比べて見たくなるのが人情というもの。緊急事態宣言解除後に自宅から三田本店に行くのは面倒なので自宅から一番近いラーメン二郎に乗り込むことにした。
 
場所は「ラーメン二郎相模大野店」
 
ジロリアン曰く「二郎の中でもマナーにうるさく怖い店」とのこと。一瞬びびってたじろいだが、行くしかないだろう。二郎の味が日清の豚ラーメン以上なのかを確かめに。
 
家からチャリンコに乗って普段とは逆方向へ向かい、相模大野駅に向かう。ラーメン二郎相模大野店は駅の少し先にある。店の前に到着。自転車を止める場所がないか探していると店に貼り紙を見つけた。
 
それは地元住民からの苦情が書いてあるメールをプリントしたものだった。
 
また、ジロリアンか。
 
奴らは10年経っても変わらない。いつまでも経ってもブヒブヒ、失礼。二郎を愛するあまり周りが見えなくなっているようだ。目の前に駐輪場がないので押しながら歩いていると商店街に止める場所あったので鍵をかけて止めておく。店へと戻るが緊急事態宣言が解除されたばかりで行列もなくスムーズに入店できた。
 
中に入ると目に飛び込むのは店からのルール。
 
《こちらから大きな声でお伺い致します。
大きな声ではっきりとお願いします。
 
・「そのまま」とはっきりいっていただければニンニクは入りません。
・「ニンニク」と言っていただければニンニクをお入れします。
・「ヤサイ」と言っていただければ野菜の量を増やします。
・「アブラ」と言っていただければ背脂の量を増やします。
・「カラメ」と言っていただければ醤油をお足し致します。》
 
他には初めての人向けのルールも貼ってあり、僕は「三田本店と同じか」と気分が沈んだ。ルールに従って注文をすると特に何か言われることもなく厨房で店主はもくもくと調理をしている。
 
なんだ、別に気にすることもなかったか。
 
あの時みたいに怒りを覚えたままラーメンを食べずに済んだせいで味もしっかりと記憶に残っている。
 
量を減らせばありだよね。さすがに日清の豚ラーメンより美味い。
 
当たり前と言えば当たり前の感想なのだが、何せラーメン二郎拒否症だった僕からすると少し感動を覚えるほどだった。だって、普通にラーメンとして美味しいのだもの。確かネットの掲示板だったと思うが、二郎系のラーメンを「豚の餌」と称していたのがいた。量の多さと盛り付けの豪快さを小馬鹿にされた格好だが、正直ピッタリだなと思うほど二郎系は食べてこなかったから余計にだった。
 
ジロリアンの存在も正直言って好きではない。二郎が好きなのはいいのだが他人にまでマイルールを押しつけてくるのがイヤだったし、二郎系を馬鹿にされると掲示板を荒らすのもいてイヤだった。
 
しかし、思い返してみればラーメンの味とは関係ない部分でラーメン二郎から足が遠のいていただけだった。ラーメン二郎の常連や通を気取った連中に振り回されていた自分が恥ずかしい。これから第一選択ではないにせよ、ラーメン二郎に足を運ぶことになるかもしれない。
 
「またお前か!」と思わない限りはね。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
篁五郎(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

初代タイガーマスクをテレビで見て以来プロレスにはまって35年。新日本プロレスを中心に現地観戦も多数。アントニオ猪木や長州力、前田日明の引退試合も現地で目撃。普段もプロレス会場で買ったTシャツを身にまとって都内に仕事で通うほどのファンで愛読書は鈴木みのるの「ギラギラ幸福論」。現在は、天狼院書店のライダーズ俱楽部でライティング学びつつフリーライターとして日々を過ごす。

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2020-09-28 | Posted in 週刊READING LIFE Vol,97

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