READING LIFE

『AKB48の戦略!秋元康の仕事術』秋元康✕田原総一朗《READING LIFE》


正直いってしまえば、僕はAKB48を少しも評価しておりません。

もっといってしまえば、なぜ、あれほどにファンがついているのか、一向にわからない。

 

ところが、この本を読めば、その秘密を垣間見ることができます。

そう、すべてを知ることができる、のではなく、あくまで「垣間見える」だけ。

おそらく、秋元康さんは「カルピスの原液」のレシピまでは、公表するはずはないからです。

けれども、聞き手が田原総一朗さんだったということもあって、今回は結構、深いところまで秋元さんは話しています。

 

それが、とても、深い。実にシンプルな表現で、実にシンプルな思考航路を経ているのでしょうけれども、深いのです。

 

僕は、最初から「秋葉原だからAKB48だ」と思っていた。秋葉原という土地の「地場の力」を強く信じていましたね。秋葉原がホームタウンの劇場を作って、拠点とするグループの名前をAKBと決めたとき、札幌だったらSPRか、博多だったらHKTかと、何となくイメージしていました。野球のホームグラウンドのように、それぞれのチームが地元ファンに熱狂的に応援してもらうように広がっていきたいな、と。漠然とですが、そう思っていた。

 

また、秋元さんはこうも言います。

 

AKBの成功には、秋葉原という地場の力が大きく作用している、と思います。

 

なるほど、とこれには納得させられました、唸りました。よく考えているなと思いました。しかも、思考で引き合いに出しているのが、野球のホームグラウンドというのが、実にイメージしやすい。これが、秋元さんの思考の大きな特徴なのだろうとおもいます。シンプルながら、本質をついている。

 

また、田原総一朗さんは、ジャーナリストらしく、秋元さんにこんな質問をします。

 

AKB48劇場のオープンは、2005年12月8日。やっぱりこれは太平洋戦争の開戦日を選んだんですか?

 

これに対する秋元さんの答えが、明快で面白い。

 

いやいや、違いますって(笑)。12月1日オープンの予定が1週間ずれたんです。間に合わなったんですよ、ダンスレッスンが。ヒットするコンテンツって、何につけても深読みされ、その深読みがどんどん加速していくんですね。

 

逆を言ってしまえば、深読みが彷徨うくらいになると、ヒットしてきたと見てもいい。深読みされ、それが口コミで広がっていくのは、興味を持たれている証拠だからです。

 

また、これもちょっと耳がいたいくらいに切れ味がいい。

 

企画の原点は、やっぱり「根拠のない自信」だと思うんです。根拠を求めようとするから、みんな同じところへ行ってしまう。みんなが本命だけを追いかけてしまう。

 

とかく、商売をしていると、売れる根拠を求めてしまいがちです。売れる本には、こういう法則がある、とか。こうやって、根拠を求めていけば、たしかに、皆、同じような結論に落ち着くだろうと思います。その結果として、何匹目のどじょうかわからないくらいの類似品が売り場を占めるようになる。

 

あと、これもすごく本質をついていると思います。

 

当時、西麻布の交差点にアイスクリームの『ホブソンズ』が開店してすごい行列ができた。僕らも「バカだねえ。アイスで並ぶなんて」と言いながら並び、前後の客も「クソ忙しいのに」と同じことをブツブツ言っている。「意味はないけど行列してみる」という共犯意識ですね。共犯意識がドミノ倒しのようにパタパタパタパタって広がらないと、ものはヒットしない。

 

そんなこと、考えてもみませんでした。「共犯意識」。たしかに、そういうものがあるような気がします。

 

こういった、秘伝のレシピ的な成功のためのコツが、この本にはたくさん詰まっています。けれども、やはり、秋元さんは、一部しか教えてくれていないと思うのです。本当にさらに使える思考法やコツは、きっと誰にも教えないでしょう。だから、秋元さんはひとりであれほどの成功を、しかも、何度も手にしているのだろうと思います。

 

*ぜひ、お近くの書店でお買い求めください。


2013-03-01 | Posted in READING LIFE

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