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READING LIFE

本を読むだけならただの消費だよ。その一言が、その一冊が、わたしの運命を変えた。《リーディング・ハイ》


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記事:木村 保絵(リーディング&ライティング講座)

 

JR阿佐ヶ谷駅の目の前にあるカフェで、わたしは呆然としていた。

外では、ようやく桜の蕾が膨らみ始たというのに。

焦点の定まらない目で周囲を見渡すと、若い店員のお兄さんと何度も目があった。

――あのお客さん、要注意。

そう思われていたかもしれない。

明らかに、わたしは挙動不審だった。

仕方がない。仕方がないじゃないか。

30年余りのわたしの人生が、突然崩れ去ったのだ。

衝撃を超えて、気を失った方が楽なんじゃないかと思うほど、ショックだった。

思わず涙を堪えて下唇が出そうになる。

――どうせ、どうせわたしは……

いや、そうじゃない。だったら、どうする。だったら、どうするんだ?

 

***

 

今年の3月。

地元の北海道ではまだ少し雪が残っていた。

東京でもようやく桜の蕾が膨らみ始めたその頃。

わたしは一冊の本に出会った。

賑やかすぎず、静かすぎず、ちょうど良い街を探し歩いていたその日、

阿佐ヶ谷のカフェの中で、買ったまま読まずにいた一冊を取り出した。

それが、すべてを変えた。

 

運命を変える一冊。

人生を変える一冊。

 

今年一番! の一冊は、人生の一番! とさえも言いたくなる一冊だった。

 

30歳になれば、もう大人になれると思っていた。

仕事も自分にしかできない何かを見つけ、結婚して、母親になっているだろうとも思っていた。

でも、結局、何も手に入れていなかった。

全部が中途半端で、自分がどんな40歳に向かっていくのか、まったく見えなかった。

完全に迷子。

なんとなく、それなりに生きることはできる。

だけど。

納得もいっていないし、満足もいっていない。

なのに。

何をしたいのかが、わからない。何をするべきかがわからない。

 

そんな時に偶然手にした一冊が、わたしの目を覚ましてくれた。

「バカヤロー!」って言って、頭を殴られるくらいの衝撃を受けて、ようやくわたしは目を覚ました。

 

「お金で買うものだったら、それは趣味じゃなくて、ただのサービスだよ。本当の趣味は自分で作り出すものだ」

「本が好きです」と自己紹介をした著者が、「だったらあなたも書いているの?」と聞かれ、衝撃を受けたというエピソード。

誰かが作ったものをお金で買って楽しむのは、ただの消費で、趣味じゃない。

本を読むのは、誰かのサービスの消費、読んで書いて生み出して、初めて趣味と呼べる。

本には、そう書かれていた。

 

その言葉は、わたしのこれまでのすべてを崩してしまう程、衝撃的だった。

本が好き。映画が好き。テレビも好き。舞台も好き。ライブに行くのも楽しい。

わたしの「好き」は、全部誰かが作り出すサービスを消費しているだけだった。

楽しむためにはお金が必要で、お金が無くなると、好きなことができなくなった。

だから、いつまでたっても、何かが足りず、満たされない。

わたしは大切なお金も、そのお金には変えられない時間も、すべて消費するために注ぎ込んでいた。

自分では何も生み出さず、ただ誰かの努力と夢の美味しいところだけを吸い取っているだけだった。

 

そんなの、いやだ!

この本を読んで、初めて気がついた。

ずっと、誰かの何かを消費して生き続けるなんて、いやだ。

ずっと消費し続けて、足りない満たされない気持ちに追いかけ続けられるなんていやだ。

 

だけど、わたしが何かを生み出すなんて、どうせ無理。

仕事を作り出すなんて、絶対にできない。

そう、思いたかった。

 

だけど、この本は許してくれなかった。

そんな甘えた考えに逃げられないくらい、わかりやすく進むべき道を教えてくれた。

 

「どうせ無理」が世界を滅ぼし、「だったらこうしたら?」が夢を叶え、世界を救うと、何度も繰り返し書かれている。

「どうせ無理」「努力したって無駄」

そんな風に考え、自分の可能性を諦めてきた人達が、他人の夢や頑張りを奪うようになる。

「どうせ無理だよ」「そんなことしたって無駄だよ」

自分が手に入れられないから、他人からも奪うことしかできなくなる。

「どうせ無理」が人の夢や希望を奪い、押さえつけ、憎しみを生み出し、やがて暴力や戦争へも繋がる。

 

それじゃ、だめなんだ。

何かに向かって頑張っている人がいたら、進みたいのに進めなくて困っている人がいたら

「だったらこうしたら?」を教えてあげる。

「こうしてみたら?」その正解をすべて知っていなくてもいい。

「あの本を読んでみたら?」「あの人に聞いてみたら?」次に進む道を伝えればいい。

「だったらこうしたら?」を繋いでいけば、道ができる。

「だったらこうしたら?」を実行して前に進んでいけば、やがて、夢に手が届く。

 

だったら。

だったら、まずは本を読んでみたら?

会いたい人に会ってみたら?

気になることを、手当たり次第やってみたら?

 

あまりにもわかりやすく、そうせざるを得ないと言うほどシンプルに、進むべき道を照らしてくれた。

 

『空想教室~好奇心を“転職”に変える』

 

この本は、わたしにとっての「だったらこうしたら?」を教えてくれる存在だ。

どうしようもなく生まれてくる「どうせ無理」をやさしく明るい方向に引っ張ってくれる。

 

せっかく生きているんだ。

せっかく、わたしとして生きているんだ。

 

消費し続けるだけではなく、奪い続けるのではなく、何かを生み出し、楽しめる人になりたい。

今はダメでも、足りなくてもいい。

ダメなところがあるから、誰かが助けてくれる。

他人を助けたことは、誰かの自信になる。

だとしたら、今のままのわたしでも、誰かの自信になることができるんだ。

だったら!

だったら、諦めずに、腐らずに、わたしの生きたいように、好きなように、道を選んでいこう。

大好きなことややりたいことが、誰かの役に立ち、世の中の役に立つ仕事にできるように。

 

まだ桜の蕾が膨らみ始めた今年の3月、わたしはこの本に出会い、考え方を変えた。

そして今、北風の冷たい12月。

本を読むことが好きだったわたしは「書く」という趣味を持っている。

次の桜の咲く頃には、わたしはどんな生活を送っているのだろうか。

たった一冊。されど一冊。

運命の一冊に出会えれば、それだけで人生は大きく変わっていく。

「そんなのどうせ無理だよ」以前のわたしなら、すぐにそう思っていた。

でも今なら自信を持ってこう言える。

「だったら、まずは本屋さんに行ってみたら?」

そこには、まだ出会っていない一冊が、うずうずしながら待ってくれているはずだ。

 

植松努(2015)『空想教室~好奇心を“転職”に変える』サンクチュアリ出版

 

 

 
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