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READING LIFE

最後の恋と引き換えに、雑誌が出来上がりました。「人生を変える」雑誌『READING LIFE』予約受付開始〜《2017年6月17日(土)発売/東京・福岡・京都店舗予約・通販申し込みページ》


記事:木村保絵

残念ながら、運命の恋なんて信じる時期はとっくに過ぎてしまった。
それなのになんでだろう。
あの時のわたしは、これが最後の恋になると勝手に信じ込もうとしていた。
だけど、もし出会うことに運命があるとしたら、
悲しいことに、離れてしまうこともまた運命なのかもしれない。
いや、違う。
いい年をして、そんな幼稚なことを言ってしまうわたし自身に問題があっただけだ。
30代になり、最後と信じて疑わなかった恋は、結局片思いのまま散ってしまった。
その代わり。
最後の恋と引き換えに、一冊の雑誌が出来上がりました。

振り返ってみると、彼に初めて会った日のことを思い出すことができない。
恐らく仕事の何かの席で一緒になったのだろう。
いつの間にか顔を合わせるようになり、言葉を交わすようになり、
気付けば心の中に彼がいるようになった。

でも、その気持ちを認めるには、ずいぶんと時間がかかった。
脳のどこか高度な働きをしているところから「好きになってはいけないよ」と指令が出ていたようで、
わたしはずっと彼への思いをこころの奥の奥に仕舞い込んでいた。

しばらくしてわたしは仕事を変えることになり、彼にはもう会うこともないと思っていた。
それなのに。
なんの悪戯だろうか。
偶然参加した飲み会の席に、彼は現れた。
仕事に忙しくて普段はそんなところに来るはずもないのに。
――偶然だよ。
高校生の頃なら「これは運命だ!」と舞い上がったかもしれない。
でも、もう30歳を過ぎていたわたしは、結婚に繋がらない恋はしないと固く心に誓っていた。
だから、全国いつどこへ飛んでしまうかわからないような仕事一筋の彼には近づいてはいけないし、そんな彼がわたしを選んでくれるとも思ってもいなかった。
これはただの偶然だし、また会うことなんて二度とないよ。自分にそう言い聞かせた。

それなのに。
偶然は重なった。
「あれ? また会ったね!」
自然と連絡先を交換し、気付けば頻繁にメッセージを交わすようになっていた。
彼とことばを交わしていると、不思議と居心地がよく、自分らしくいられるような気がした。

だけど。
彼との距離が近づけば近づくほど、わたしは不安になっていた。
今のわたしには「偶然」しかない。
彼を惹きつけるような魅力的な容姿もないし、頑張ってダイエットをしたところでたかが知れている。
文系卒事務員で転職を繰り返し、契約やアルバイトで食いつないできたわたしには経済力もない。
ずっと自信を持てずに生きてきた結果、中から滲み出るようなやさしさも持ち合わせていない。
自信を持って「わたしを選んでください」と言えるところが、何もなかった。

ただひたすらに、
彼の気持ちが離れてしまわないように、冷めてしまわないように。
そう願うことしかできなかった。

そんなわたしが見つけた一つの望み。
それは、習い始めたばかりの「書くこと」だった。

もし、書くことで稼げるようになったら、場所を選ばずとも仕事ができる。
彼がどこに転勤になろうとも関係ない。
そうなれば、自立した女性として見てもらえるかもしれない。
何もなくただ「結婚したい」と言ってる30代独身女性ほど、怖いものはないだろう。
「やりたいことがある」
せめてそう言うことができれば、彼にドン引きされる事態も免れるんじゃないだろうか。
そんな風に考えていくようになった。

そしてわたしは、ある願掛けをすることにした。
「書くことで食べていけるようになったら、きっと二人はうまくいく」
自分の力で稼いで、自分の足で立つことができれば、きっと関係はうまくいく。
仕事も気持も支え合える、そんな関係を築くことができる。
そんな風になろう、そう心に誓った。

それからのわたしは、書くための勉強に没頭した。
週1回の課題を週2回の提出に増やすために他の講座にも通い始めた。
文章術の本を読み漁り、「インプット」と称してビジネス書や映画、ネットの記事、
勉強になりそうなものは、なんでも手当たり次第触れるようにした。

まるで初恋のようだった。
好きな人と同じ高校に行きたくて必死で勉強をしていた中学生の頃みたいに。
もうすっかり大人になったわたしなのに、バカみたいに真っ直ぐに突っ走った。
気付けば試験に合格した上級者だけが受講できるプロ養成講座の一員にもなり、
「書いて食べていける」ためのことなら、とにかくなんでもした。

プロへの道が近付けば近づくほど、彼にも近づけると、信じて疑わなかった。

だけど。
わたしの片思いは、あっけなく散っていった。
映画のような衝撃的なクライマックスもなく、ただ静かに波が引くように消えていった。
心のどこかでは、最初からこうなることを予感していたような気もする。
だからこそ、なんとか手に入れたくて、「これが最後の恋だ」と信じて、
がむしゃらにひたすらに走り続けたんだろう。
でも、もうどうにもならなかった。

結局、自分では自信を持てずに、
好きな人に受け入れてもらうことが、
「結婚」が人生の「合格」だと信じていたわたしが、きちんと誰かと向き合うことなんて、できなかった。

もう、どうにもならないんだ。
そう思った時、わたしの心の中で何かが爆発した。
体の中に知らない生き物でもいるかのように、奥底から得体の知れない感情が込み上げてきた。
わたしは、ひとりぼっちになった部屋の中で、これまでにないくらい泣いた。
泣いても泣いても感情が溢れてきて、涙の量が追いつかない。
泣いて泣いて、座ることすら出来ないくらい泣いて、
もうなんの力も残っていなかった。

「嫌だ、そんなの嫌だ」
30年以上も生きてきて、こんなにも惨めな自分には初めて出会った。
だけど、そんなことは関係なかった。
どんなにみっともなくても、格好悪くても、恥ずかしい思いをしても。
この人を失いたくないという気持ちが、溢れて止まらなかった。
嫌われてもいい。
せめて、思っていた事実だけを伝えたい。
それが全部自分の為だとわかっていても、嫌われてもいいから伝えたい。
そんな風に思った恋は、生まれて初めてだった。

わたしは思いの丈を、メッセージに書き込んだ。
長くなっては何度も消して、どうにか伝わってほしいと、できる限り短く素直な思いを書いた。

結局、そのメッセージが開かれることはなかった。

「『人生を変える雑誌』を作ろうと思います!」
ちょうどその頃だった。
わたしが「書くこと」を学んでいる天狼院書店・店主の三浦さんがそんなことを言い出した。

——そんなの、できるわけがない。雑誌なんかで人生が変わるわけがない!

心の中でそう思った。
人生最後と賭けた恋すら叶わなかった。
「思いが伝わる文章の書き方」を学んできたのに、
本当に思いを伝えたいその人には、きちんと書くことさえできなかった。

好きになった人に受け入れてもらえることでしか、人生は変わらないと思っていた。
誰かに、わたしの人生を変えてほしかった。
だから、雑誌一冊なんかで人生を変えられたくなかった。

それでもわたしは結局、編集部に入ることにした。
雑誌で人生が変えられると信じたわけじゃない。
ただ。
それしかもうなかった。
書くことを仕事にできるようになれば、彼との恋もうまくいくと信じて必死で書き続けて、
その人を失ってしまった今、わたしにはもう書くことしか残っていなかった。
それすらも手放してしまったら、もうただの抜け殻になってしまう。

編集部には入ったものの、聞いてみれば誰でも記事を書けるわけではない。
企画を出したり、取材をしたり、編集をしたり。
雑誌作りには関われても、記事を書ける人は、編集長がその腕を認めた人だけ。
商品としての記事を書ける人にしか、書く仕事は与えられなかった。

——わたしのレベルは今、どのくらいなんだろう。
途端に不安になる。
頭を捻ったところで、急に企画を作れる訳でもない。
どうしよう、どうしようと焦っていると突然、
「書いてみない?」と、担当の付いていない記事が回ってきた。

安心すると同時に、なんだか力なく笑えてきた。
好きな人に認められたい一心で書き続けたわたしの書く力は、
雑誌に掲載してもらえるレベルまで上達していたのだ。
まるで「好きな人と同じ学校に通いたい」という気持ち一つで
「無理だ」と言われていた志望校に合格してしまう受験生みたいに。

――あはは、バカみたい。
何をそんなにも頑張っていたんだろう。
褒めてもらいたい人は、一番に「雑誌の記事を書けるよ!」と伝えたい人は、
いなくなってしまったというのに。

「それでもいいじゃないか。読者に伝わればいい。読者のことしか、考えなくていい」
そう思えたら、少しずつわたしの気持ちも変わり始めた。

そこからはグンっとエンジンがかかった。
わたしは再び必死で書き続けた。
「自分にはできない」と言いたくなる言葉もグッと飲み込んで、「やります」と言い続けた。

その間にも、「じゃあこれも書いてみて」「こういうのはどう?」と、
雑誌以外にも書ける場所ができた。
書くことが楽しくなった。
特にライターの仕事は、「わたし」を一切消してしまうことも多い。
自分の「書きたい」気持ちはグッとこらえて、依頼者が「書いてほしい」ことばをじっくり考えて、
読者の「読みたい」ことばを綴っていく。
それが、カチッとうまくはまった時。
誰かの心にピンっと響いた時。
思わずガッツポーズを決めたくなるほどに嬉しかった。

「自分なんて」「わたしには無理」「できない」
そんなことを言うわたしは、もうそこにはいなかった。

誰かに認められるためじゃなく、何かを手に入れるためじゃなく。
ただ目の前にあることをやっていく。
そんなことを、自信を持ってできるようになっていった。
過去のわたしは、それすら出来なかったのだ。
見ていてほしいと思う誰かが見ていてくれなければ、頑張っても意味がない。
そんな風に思っていた。
それでも、そんな情けない自分を「かわいい時代もあったもんだ」と笑えるまでに
前を向けるようになっていった。

「校閲お願いします!」
自分の書いた記事が、中身のチェックを通過してデザインに回されて戻ってきた時。
PDFのデータを開いた瞬間、胸が「トクン」と動くのを感じた。
思いが目に見えるって、こういうことなんだ……
「書く」が形になるって、商品になるって、こういうことなんだ! 

久しぶりに胸が弾む瞬間だった。
もっともっといろんなものを書けるようになりたい。
たくさんの人たちが読みたいものを書けるようになりたい。
そんなワクワクする気持ちが、どんどん湧いてきた。

すると、他にも次々と原稿が上がってくる。
——あ。
刷り上がってきた記事に目を通しながら、あることに気が付いた。

「人生を変える雑誌」
その中には。
「人生を変えざるを得なかった人たちの物語」が、たくさん詰まっていた。

わたしも、そうだ。
最後と信じた恋が叶わず、今までの生き方ではもう生きられそうにない。
それでもしあわせに生きるには、自分自身を変えるしかない。
好きな人に認められるために、ではなく、
誰かの読みたい言葉を綴れるように、書き続ける。
その結果、わたしの仕事が求められるようにもなる。
わたしが欲しかったのは「結婚」ではなく、自分の「役割」だった。
書くことで世の中に関わることができると気づいた今、
もう誰かにしがみついたり、言い知れぬ淋しさに襲われることもなくなった。

きっと、この雑誌もそうだ。
創刊号の発売からは、もう三年近い時を経ている。
この雑誌自体も、それを創る人たちも、きっと変わらざるを得なかった。
そして、変わったことを、成長したことを証明するためにも、妥協はできなかった。
記事の内容も、デザインや表紙にもこだわり続け、発売日は幾度となく伸びた。
編集会議に参加する人は回を重ねる毎に少なくなり、完成は幻と化する気配すら感じられた。
それでも。
関わった誰もが、こころのどこかで希望を持ち続けた。
「きっと、この雑誌で人生が変わる」と。

だから今、こうして雑誌が出来上がった。
それぞれの特集や記事をじっくり読んでみると、きっと見えてくるはずだ。
「変わらざるを得なかった人たちの物語」が。
そして、ある法則に気が付く人もいるかもしれない。
変わらざるを得ないその瞬間に覚悟を決めた人だけが、
人生を変えていくことができる、ということに。

それは人だけではない。
「本」や「書店」もそうだ。
今、出版業界は「変わらざるを得ない時」を迎えている。
この瞬間に、変わる覚悟を決められるかどうか。
そこに未来がかかっている。

そんなメッセージが見えてくると、なんだかドキドキしてくる。

これから、世の中はどう動いていくんだろう。
変わらざるを得ない人たちの人生が動き出し、
変わらざるを得ない業界が、変化を求めて動き出したとしたら。

「『人生を変える雑誌』を作ろうと思います!」
そう言った天狼院書店の三浦さんの言葉が、また聞こえてくる。
そのことばを疑ってしまったのは、わたし自身に変わる覚悟がなかったからだ。
変えてくれる誰かが現れるのを、諦め切れなかったからだ。
そのことばの持つ可能性を、しっかり見つめて信じることが、その時にはできていなかった。

自分で人生を変える覚悟を持ってページを捲っていけば、
自然とそこには、
隠された物語が広がっている。

人生を変える雑誌『READING LIFE』
この雑誌は、ただ物体としての「雑誌」ではない。
雑誌内で「再定義」された「本」のように、「再定義」された「雑誌」だ。
動こうと思えば、この雑誌の編集に関わることもできる。
記事を書く道も用意されている。
記事の中にも飛び込んで体験することができる。

雑誌から顔を上げて世の中を見渡してみれば。
世界は想像以上に広く、手を伸ばせば届いてしまうほどに小さい。
そして人生は長くもあり、あっという間に終わってしまう。

変わらざるを得ないこの瞬間に、
それでも変わりたくないと留まり続けるか、一歩を踏み出してみるのか。

この雑誌との出会いは、ただのきっかけに過ぎないだろう。

それでもいつか振り返った時。
「そう言えば……」
人生が変わり始めた瞬間の思い出の風景に、
もしかしたら、この雑誌が小道具として置かれているかもしれない。

人生を変える雑誌『READING LIFE』
最後の恋と引き換えに、ようやく雑誌が出来上がりました。
ここからまた、新しい物語が始まります。

 

■雑誌『READING LIFE2017夏号』2,000円+税《現在、予約受付中!》

6月17日(土)19時から東京天狼院、福岡天狼院、京都天狼院各店にて発売開始・予約順にお渡しいたします。

 

【雑誌『READING LIFE』予約する際の注意と通信販売について】

いつもありがとうございます。雑誌『READING LIFE』副編集長の川代でございます。
『READING LIFE』は3,000部作りますが、発売日にお渡しできる分の数に限りがございます。確実に手に入れたい方はご予約をおすすめ致します。初回限定特典として、ご予約先着順にて、雑誌『READING LIFE創刊号』(2160円相当)を差し上げます。この創刊号のお渡しは、なくなり次第終了となります。ご了承ください。
また、万が一予約が殺到した場合、予約順でのお渡しとなりますのでご了承くださいませ。

店頭、お電話、メール、下の問い合わせフォーム、Facebookメッセージなど、あらゆる方法で予約受付致します。

 雑誌『READING LIFE2017夏号』2,000円+税
6月17日(土)19時から東京天狼院、福岡天狼院、京都天狼院各店にて発売開始・予約順のお渡し

今回は通信販売も同時に受付開始します。通販での受付も予約受付順の発送となります。PayPalでの決済完了時間が予約受付時間となります。
通信販売の場合、送料・手数料として500円別途頂きますが、その代わりに天狼院書店でご利用頂ける「コーヒーチケット(360円相当)」をおつけしますので、店舗に来る際に、ぜひ、天狼院でご利用頂ければと思います。
通信販売分は、発売日より、予約順に順次発送致します。

《一般先行予約》*雑誌『READING LIFE創刊号』つき
雑誌『READING LIFE2017夏号』2,000円+税





《通販先行予約》*雑誌『READING LIFE創刊号』つき
雑誌『READING LIFE2017夏号』2,000円+税
送料・手数料 500円(*360円相当コーヒーチケットつき)
発売日から予約順の発送





 

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【東京・福岡・京都 6/17(土)】雑誌『READING LIFE』2017夏号、発売記念パーティ!どなた様も大歓迎!ここでしか聴けない雑誌の見どころ・制作の裏話も!《お食事付き/フリードリンクも選べます》《雑誌『READING LIFE2017夏号』予約受付中!》

 

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