READING LIFE

福岡に引っ越して13年になる私が、いつまでたっても博多美人になれない理由。〜「人生を変える」雑誌『READING LIFE』販売開始!《2017年6月17日(土)発売/東京・福岡・京都店舗受け取り・通販申し込みページ》


記事:永井里枝

故郷を捨てる時、心は全く痛まなかった。
福岡という土地には、それまで私の育った栃木にないものがたくさんあったし、ものすごく狭い範囲で完結してしまうコミュニティに半ばうんざりしていたというのもある。そしてこれは全くもって浅はかな願望だったのだが、福岡に行けば「博多美人」になれるのではないかと、心のどこかで思っていた節がある。
福岡に移り住んで13年になるが、残念なことに未だ「博多美人」にはなれていない。いや、これから何年かかってもなれそうにないと、もはや諦めている。

大学に入学した当時、九州出身者のあまりの多さに驚いた。私のようにギリギリの成績で入学した者ばかりではなく、どう考えてももっとレベルの高い大学に入れたであろう人間が、周りにゴロゴロと存在した。彼らのおかげで、講師からの要求は「無駄に」上がり、遠くから海を越えて受験してきた田舎者はさぞかし頑張るだろうとの期待をかけられ、なかなかに苦労の多い大学生活だった。もしかしたら、私が博多美人になれないのは彼らのせいでもあるのかもしれない。

 

でも、根本的な何かが違う。
何か、目に見えない力が、九州の、こと博多には充満している。そして力が博多美人を作っていて、それが一体なんなのか理解しない限り、外から来た私が博多美人になるのは不可能なように思えた。

 

ただし、先に言っておく。
九州出身ではない者が「博多美人」になるのは、そう容易ではない。遺伝的要因のみで作られるわけではないし、もちろん不可能なことではないのだが……

 

それでも、もしあなたが「博多美人」になりたいと思うのならば、あるいは自称博多美人であるならば、この雑誌は買わない方がいいのかもしれない。そして、「博多美人」に憧れを持っている男性が、つい手にとってしまったならば、「ご愁傷様です」としか言いようがない。
残念ながらここに書かれているのは、悲しいほど赤裸々な現実だ。このストーリーを書いている「博多美人」の皆さんを直接知っているだけに、フィクションだという前提があったとしても、どうしてもノンフィクションのような気がしてならなかった。博多美人として生きることの苦悩や葛藤とともに、私のように「博多美人になれない者」のそれも同時に描かれていた。

 

正直なところ、私はこの特集に救われた。
福岡という街でも博多美人になれないのは、きっと私だけではない。それは、博多に生まれ育った人間にでも、十分にありうることなのだ。

 

美人でいた方がいい。
それも、「博多美人」でいた方が、居心地がいい。

 

ただそれだけのことなのだ。
ここまで読んでいただいた女性の方なら、「普通の美人と博多美人、何が違うの?」という疑問が湧くことだろう。
まずは54ページの「博多美人チャート」を見て欲しい。そして、自分がどの「博多美人」に当てはまるのか確認した上で、次のページをめくって欲しい。
そこには「足枷」「背徳」など、およそ美人とはかけ離れた言葉が並んでいる。

 

警告しておくが、後戻りするならば、ここが最後のチャンスである。博多美人と、それになりきれない女のリアルを知りたくないのであれば、この話は読むべきでない。

優子と由佳が、料理をバックに笑っている写真。このカフェでの分は、ドリンクの写真だけだった。眺めていると頭痛がしてきて、イイネを押した後、そっと優子の投稿を非表示にする設定をした。

 

悲しい、でもなく、寂しい、でもない。悔しいでも羨ましいでもない。
その全てを最高濃度に煮詰めてカラカラになってしまった物質が、コトンと音を立てて心の隅に落っこちた。
このストーリーを読んだ時、過去のものとなってしまったその感情の存在を、私は再び思い出したのである。

 

なぜだろう。
彼女たちに、自分が負けているとは決して思わない。
むしろ自分のやりたい仕事に邁進し、充実した生活を送っている。プライベートだって色々あるけれど、そんなに捨てたもんじゃないと思う。30歳を過ぎてから、確かに少し肉はついてきたような気もするが、むしろ健康的になったとも言われる。

 

それなのに、私ではダメなのだ。
この街の求める博多美人という「コンテンツ」に、私は当てはまらないのだ。

 

思い切って、福岡生まれ福岡育ちの博多美人にきいてみた。
「私って、博多美人じゃないですよね……」
「うーん、博多美人っていうか『博多の女』だね。『ごりょんさん』タイプ!」
そうか、博多の女か。
72ページから始まる「東京の男」というストーリーを読んだ直後だったので、なんともいえない気持ちになった。しかし「ごりょんさん」という響きは悪くない。
そして、次の「ただいまと言えた日、おかえりと言える日」を読んだとき、自分がこの街に住み続ける理由がわかったような気がした。

 

もしあなたが、自分は博多美人になりきれないとどこかで感じているのなら、この特集が救いになるかもしれない。
自分の歩んできた道は間違っていなかったと思えるストーリーが、きっとこの中にあるはずだから。

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 雑誌『READING LIFE2017夏号』2,000円+税
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