READING LIFE

【出遅れ地方女子のつぶやき】警固公園でまた会おうね、私。


 
 
福岡は福岡に生まれても、田舎に暮らしていたら、どこに住んでいたって同じこと。
裸足で田んぼを駆け回って、コンビニまで車で15分、中学校の時の唯一の派手な遊び場はゆめタウン。
学校までは徒歩2キロ以上。電車通学なんて夢のまた夢。
 
どこにでもある田舎。
洒落っ気も茶目っ気もありゃしない。
ただただ、足腰だけは鍛えられて、私は丈夫な20代としてここまで育った。
 
ブランドなども、どうせ高そうだから別に興味はないし、すっぴんだって誰もみやしないから平気。
福岡は福岡でも、地方の田舎女子というだけで、とんだズボラ女子に育ってしまった。
だって、家でも、母はどこか遠くにお出かけする時くらいしか化粧をしないのだ。それがある意味意普通だと思っていた。授業参観だとか、そういう正式な行事ごとがあるときにするもの。
 
私が本格的に化粧をしたのは大学へ入学してだいぶ経った頃だった。なぜなら、母が、うわっ、まだ若いくせにませたことしてから、みたいな目でみるからだ。やっと私、やばいんじゃない? と気づきはじめたというのに。
 
やばいかも?と思うようになったのは、福岡市内の大学に通うようになってからだ。
 
周囲の人がみんなキラキラキャピキャピ輝いていた。
洋服も、髪型も、もちろん化粧も全てが可愛かった。もー可愛すぎた。願わくばあんな風になりたいと思った。
 
この時初めて私は自分が可愛いものに興味があることを知ることになる。
中学校までは空手をしていたこともあり、ずっとボーイッシュやね〜と言われていた。高校でも制服だし、部活に明け暮れていたため、ファッション雑誌を眺めては、あー可愛いな〜、まぁ、モデルさんが着るから可愛いんだと、諦めていた。
 
そんな私が、頑張って? 友人に化粧道具と化粧の仕方を教えてもらって、可愛い髪型と洋服に憧れている。
 
ど、ど、どういうことだ??
 
いや、別になぜ心境の変化が生まれたのかなんて、あの時は考えもしなかった。
 
けれど、あの雑誌の博多美人特集を読んで、そういうことか、そういうことだったのかと腑に落ちた。
 
福岡には美人が多い。
その説は、「DNA美人説」「福岡までなら許す美人説」「整形美人説」「美容コンテンツ美人説」というものがあり、三浦さんの言う福岡の女性が「美人」にならなければならない理由を「空気」だというのも、確かにそうだ。
 
なぜなら、このおしゃれの「お」の字もなかった私が、福岡に出てきたときにこれはやばい、かわいくならなきゃ! と誰に言われることもなく、焦らされたからである。
 
とまあ、そんな理由で博多美人がたくさん存在し蔓延っているのは事実なのだ。
 
でも、1つ納得いかない部分があった。
 
可愛くなろうと思っていても、中身がガサツなために、私のような地方女子にとっては博多美人なんて、福岡生まれだろうと残念なことに関係のないことなのだ。
私みたいな流行ファッションに無頓着な奴が博多美人になれやしないし、正直なろうなんてサラサラ言えない。空気を食べようとしているようなものだ。
 
もちろん、地方女子であっても、福岡に出てくることで原石が磨かれたかのように猛烈なスピードで美しくなっていく者もいた。
 
それは、福岡へ向かう西鉄電車の中でよーくわかる。
明らかに違うのだ。キラキラしている女性と、ボサボサの女性。類は友を呼ぶというが、本当にかわいい子のまわりにはかわいい子がたくさんいる。これから買い物にでも行くのか、ワクワクした明るい表情でおしゃべりをしている。一方、朝起きて、バタバタ電車に乗りましたという女子もいる。私もその一人だが、もうすでに疲れ切っている様子だ。
 
あまりの違いに、愕然とした。客観的に見ると、恐ろしい。こうも違うのか……
 
これだから、出遅れ地方女子は深刻なのだ。
 
だから、正直に言うと、一番身近なはずのこの雑誌の博多美人特集を読もうという気にはあまりなれなかった。自分の惨めさを知るだけだ。だが博多美人をテーマにした物語は、ものすごく面白い記事を連発する大好きなプロフェッショナルゼミの方が書いていたため、気になってしまい、読んでみることにした。
 
『青い果実が熟す前に』
『博多美人の作り方』
『東京の男』
『ただいまと言えた日、おかえりと言える日』
 
どれもこれも面白すぎて、読み進める手を止められなかった。今までこの雑誌ほど食い入るように読んでしまったものに出会ったことがない。気楽に眺められる雑誌というよりも、マンガや書籍のような一つの読み物の感覚だ。一気に集中して読み上げてしまった。
 
なんだこれは……
 
4作読み終えた後、
私の中の何かが壊れた気がした。
 
いやいや、博多美人って、こんなに切なくて儚くて、健気なものなのか? だけど、自分をしっかり持って生きていく強さをも持ち合わせている。ああ、見てくれだけではなく、中身の方が重要だったんだ。私は見てくれの方ばかり気にしていて、博多美人がどんな思いで日々を過ごしているかなんて考えたこともなかった。そして、気づいてしまった。私にも博多女子の血がし流れているのかもしれない……
 
なぜなら、この物語にめちゃめちゃ共感できたからだ。特に『東京の男』はヤバかった。博多美人の恋愛模様に、私の心の奥深くまで見透かされたような気持ちになった。もう、涙が止まらん。
 
そうか、博多美人とは、単なる美人ではない。たくさんの責任と周囲からの圧とそして希望を捨てずに生きる人間なのだ。すごいではないか。ものすごくかっこいいではないか。私は、博多美人のような生き方もものすごくアリな気がしてならなくなった。そうすると、自然にもっと頭の先から足の先まで気を遣おう、外見だけではなく、中身も魅力的な人になりたいな、そう思えてきた。
 
そんなことを考えながら、あの広く清潔感溢れる警固公園を歩く。コンクリートの腰掛けに、細身の女性がいた。不意に目が止まってしまったのだ。顔は見えないが、ラフな白T、ジーパン。長い髪は茶髪でストレート。スタイルもいいし、これは絶対博多美人に違いない! そう思ったが、振り返った彼女はまさかのスッピンだった。表情もボーっとして生気を失った感じ。いやー、惜しい! 顔立ちは整っていて、ハーフっぽいから、ちゃんとしたら、絶対可愛くて美しいのに! それにしてもなんだかさえない表情をしているなぁ。
 
他人に対してはそんな風に考えてしまう。でも、自分だってぼさぼさのスッピンだ。おそらく、外見だけならば、福岡であれば瞬く間に変われるだろう。だが、本当の美しさとは中身から、というではないか。まさにその中身から溢れるオーラのような美しさを持つことが難しい。そこが博多美人の魅力的な特徴でもあるのだろう。
 
あの物語たちを読んでから、私の考え方は以前とはうって変わってしまった。女の幸せは結婚して子供を産み、幸せな家庭を築くこと。その一つの選択肢しかない。そう思っていたけれど、そのほかの選択肢も存在する。女の幸せは、生き方は、もっと自由なはずだ。私は博多美人の物語に、もう一つの女性の生き方を見てしまったようだ。さらに危険なことに、それをアリだと感じてしまった。博多美人が美しいのは、儚さ、脆さ、健気さをも兼ね備えているからだ。
 
うん。変わりたい。報われないとしても、悲しみを胸に秘めながらいつも凛とした表情で福岡の街を歩いている彼女たちのように。
 
警固公園で出会った、自分投影したかのような彼女も、美しく歩いて行ってほしいなと思う。
 
 

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