天狼院通信

プロマジシャンの「究極リスクマネジメント」6つの奥義


天狼院書店店主の三浦でございます。

この前の日曜日、単独ステージを目前に控えたプロマジシャン日向大祐さんにお越しいただき、プロのクロースアップマジックを魅せていただきながら、プロマジシャンの「究極のリスクマネジメント」について、詳しくお聞きしました。

なぜ、プロマジシャンが「リスクマネジメント」なのか。

実は天狼院の部活「マジカル☆天狼院」において、顧問の瓢太先生や日向さんといったプロマジシャンのマジックを目の当たりにさせていただく機会を重ねるごとにこんな仮定が定着していったのです。

マジックの奥義を極めればビジネスが上手くいく。

ただし、それが何の分野に活かされるのか、明確にはなりませんでした。
明確になったのは、先日、マジックの本も執筆させれている日向大祐さんにお越しいただいた時でした。

なるほど、マジックとはリスクマネジメントの結晶だ。

そう気づいたのです。
なぜなら、マジックのようなショーは失敗が許されないからです。
マジシャンにとって、最大の失敗とは、ネタがバレることではないと日向さんは言います。

マジシャンにとっての最大の失敗は、その場が盛り上がらないこと。

そうならないために、マジシャンは幾重にもリスクマネジメントを施します。

これから、日向さんに教わったプロマジシャンの「究極のリスクマネジメント」8つの奥義をご紹介して行きましょう。

 

〔奥義その1〕予測できないことを経験でストックする。

マジックをやれるステージは、全てが万全に準備できているわけではありません。
パーティーの場や、飲み会の場で披露することもあります。

たとえばそのとき子どもが邪魔をしようと出てきたら、どう対処するのだろうと、我々素人は考えますが、日向さんはこう言います。

「お子さんは逆にチャンスです。とくにお子さんのときは、これをリスクと捉えずに逆に、ではこうやってみよう、と仲間に引き入れてしまうと場が大いに盛り上がります」

周りは、不特定要素だった子どもがステージに闖入することによって、その場が壊れるかもしれないと「ヒヤヒヤ」することでしょう。けれども、子どもは好奇心が旺盛で単純にやってみたいと思って前に出ることが多いので簡単な作業を手伝ってもらうと、その「ヒヤヒヤ」によって緊張感を持っていたお客様は、ステージの無事を祈るようになり、余計に場に一体感が生まれて盛り上がることになる。

もちろん、初めてステージに立つ場合はそんな機転が効くわけはありません。
場を重ねることによって、そして何より失敗を繰り返すことによって、「あの時はこうしていればよかった」と歯ぎしりするような痛みを伴った強い想いを抱くようになり、それが次に活かされることになります。

また、あるとき、日向さんは大きな失敗をしたそうです。
それはネタがバレたとか手順を間違えたという失敗ではなく、もっと本質的な失敗です。
とある、合コングループの席でマジックを完璧に繰り返しやっていると、ある男性が鼻で笑うようにしてこう言ったそうです。

「なんだか、面白くねえな」

考えてみればそうです。
合コンで男性は、女性にいいところを見せなければならない。
この日のために、どれだけ張り切ってきたかわからない。
それが、マジシャンに女性の黄色い歓声全て持って行かれたら、男は面白くないですよね。

そのときから、日向さんは、積極的に男性を巻き込んで、男性になるべく花を持たせるように仕向けるようになったと言います。

そうした経験と失敗を積んで、それをストックしていくことによって、マジシャンはあたかも「即興」でそれをやっているように、リスクに上手に対処できるようになります。それを積み重ねていくと、リスクがチャンスになる。

誰もが、これはムリだろうとヒヤヒヤして見ている状況で、すでにストックを持っていたら、これほど強いことはないですよね。

たとえば、これは外科医にも当てはまることだろうと思います。あらゆる経験や失敗を繰り返して行くうちに、周りの誰の目にも絶体絶命の場面でも、冷静に対処できるようになる。それこそが、プロフェッショナルの条件なのかもしれません。
ちなみに、あらゆる状況を潜り抜けて手術を成功させる人のことを我々は「名医」と呼びます。名医も、きっとリスクマネジメントが徹底できている人のことでしょう。

 

〔奥義その2〕複数の出口を用意する〜マルティプル・アウト〜

たとえばトランプを使ったマジックを使用としていたとき、途中で酔っぱらいがぶつかってきて、入念にタネを仕込んでいたカードを全て床に落としたとしましょう。

これを拾い上げても、やろうとしていたマジックはもうできません。

しかし、マジシャンは慌てません。
仕込みがなくともできるマジックに、何食わぬ顔でスイッチするのです。

たいてい、プロのマジシャンはカードひとつにしても様々なマジックができます。その中には準備が必要なものとそうではないものがあって、その状況でできるものに切り替えればいい。

それを「複数の出口を持つ」という意味でマジシャン用語で「マルティプル・アウト」といいます。
これもある意味、ストックを持つということになりますから、リスクマネジメントには、やはりストックという考え方がポイントになるようです。

できないひとは、すぐにできないと言います。

「八方塞がりです。もはや、打つ手はありません」

けれども、できる人は、まず、そうなのだろうかと常識を疑います。
そして、チャレンジしていきます。
そのチャレンジの経験が、成否を問わず、ストックとなっていざというときに役に立ちます。
マルティプル・アウトを持つ人は、どの業界でも強い。

 

〔奥義その3〕あらかじめ言うことを決めておく

マジックを見慣れてきて、見破ろうとしてマジックを見てしまうことを「目が腐っている」というそうです。
僕も、マジカル☆天狼院で様々なマジックを観せてもらっていて、実際に幾つかできますから、自然と「このマジックはどういうトリックなのだろう」と考えながら見てしまう。

そうして見ているうちに、あることに気付きました。

日向さんはとあるマジックをいつやるときも、同じ言い回しを使っているのです。

たとえば、カードの向きが重要なトリックになるマジックがあります。
その時は、お客様にカードを1枚引いてもらったあとに、同じ向きで戻してもらいたいのですが、お客様がこのカードだよと周囲の人に見せたりしているうちに、向きがクルクル変わるリスクが生じてきます。

それを防ぐために、日向さんは一言いうようにしているのだと言います。単純です。

「そのカード、自分だけ見て覚えてくださいね」

その一言で、お客様の行動は限定されてしまいます。

引いて、胸元に引き寄せ、胸の辺りで見て、そのまま戻す。

つまり、向きが変わらなくなります。

たった一言だけ予めいうことによって、リスクがなくなります。

たとえば、ビジネスで後々になって、最初にちゃんと契約書を作成しておけばよかったというような場面に遭遇します。トラブルになってからでは遅い。
始めの段階なら、「うちはこういうルールなので」と秘密保持契約書などを作成しておくのは簡単です。
そういった、予めの一手が成否を分かつことになります。

 

〔奥義その4〕人間の習性を見極める

言うまでもなく、人間も動物です。動物であれば、万能ではありません。
すべてに限度があります。
その限度を見極めるのも重要です。

マジックでよく使う「ミスディレクション」は、まさに人間の能力の限界をついた手法です。

人の目は万能ではありません。

こちらを見てください、と右手でカードを目の前にかざされていると、ついそちらを見てしまいます。
「見る」とは、その焦点が右手のカードに定まるということで、それ以外の場所、つまり左手で何をしていても、人は気にしなくなります。焦点以外の部分は正しく認識できないのです。

多くのマジックはこの原理を応用します。

また、シカゴオープナーというマジックの際は、実は、お客様の目の前にあるカードをめくられるとトリックがバレている仕掛けになっているのですが、それを防ぐために、日向さんは「パーソナル・ゾーン」を使うそうです。
「パーソナル・ゾーン」とは、人が許容できる距離感のことです。空いている車両では、座席に順番にぴっちりとは座らないでしょう。間をあけて座る。けれども、満員電車なら、多少は近づいても平気になる。状況に応じて、人はこのパーソナルゾーンが変わるのですが、マジシャンがあえてカードに近くいることによって、お客様がカードに触れるのを防ぐ。
これも人間の生理を利用したものであって、プロのマジシャンはこうまでしてリスクマネジメントをするのです。

これは、何も、マジックにだけ使える理論ではないでしょう。
たとえば、店舗において、人は左回りに見る習性があります。故に、天狼院もその習性を活かして、設計してあります。具体的にいえば、メインステージの黒船来航がそうです。まずは入り口を入って、ほとんどの人は右側に行くはずです。つまり、黒船を左回りに見ていく。9割方の人がそういう動きをします。
他の業界にも、人間の習性を応用できるはずです。

 

〔奥義その5〕人をコントロールする〜マジシャンズ・チョイス〜

マジシャンは、自分の望む結果にたどり着くために、お客様をコントロールする場合があります。と、言っても、催眠術などを使うわけではありません。極シンプルな方法で、人は知らない間にマジシャンの思うように操られることになります。

たとえば、マジシャンズ・チョイスという方法があります。
これは、簡単にいえば、お客様にマジシャンが望むカードを選ばせるという手法です。

実は、この仕組みは単純です。

たとえば、「スペードの3」「ハートのA」「ダイヤの9」のカードがあったとしましょう。

どうしても、「ハートのA」を選ばせたいときに、あなたならどうするでしょうか?
ちょっと考えてみましょう。

マジシャンは、こうします。

「まずは好きなカードを2枚選んでください」

と言います。
このとき、お客様は「スペードの3」と「ハートのA」を選んだとしましょう。
そして、その場合、もう一度こう言います。

「その中から1枚こちらに渡してください」

それで、「スペードの3」をマジシャンに渡した場合は、

「それではあなたが選んだハートのAを使いましょう」

と、言うふうに目的が達成されます。

そのとき、もし、逆に「ハートのA」をマジシャンに渡したらどうなるでしょうか。
マジシャンは平然とこういうのです。

「それでは、あなたが選んだこのハートのAを使いましょう」

どちらにせよ、お客様が「ハートのA」を選んだことになります。

最初に戻って、2枚選んでほしいと言った時に「ハートのA」以外の2枚を選んだらどうなるでしょうか。

マジシャンは平然と

「それでは残ったこのカードを使いますね」

ということになります。
どの場合も、意図的にマジシャンがコントロールしているのですが、お客様は自分が選んでいるものと勘違いしている。

知らない間に相手をコントロールする手法は、営業や販売に応用できるだろうと思います。

 

〔奥義その6〕目的を達成するためなら、何でもやる〜マックス・マリーニの逸話〜

アメリカに、マックス・マリーニという有名なマジシャンがいました。
マジックの天才で、様々なマジックで人々を驚きと感動に包んできました。

ある日、マックスは昔からの友人といかにマックスのマジックが優れているかについて語りながら道を歩いていました。
すると、行く先にカードが1枚落ちていました。

友人は、こう言います。

「いくら君でも、あそこに落ちているカードが何なのかまでは当てられないだろう」

すると、マックスはじっと考えてから、こう答えたのです。

「いや、わかるよ、ハートの7だ」

友人が裏返してみると、たしかに、それはハートの7でした。

マックスは、いったい、何をしたのでしょうか?
マジシャンではなく、霊能力者なのでしょうか?

実は違います。
マックスは、この通りだけでなく、二人で通りそうな道すべてに、前の日、カードを1枚ずつ置いていたのです。
そして、それぞれの通りに置いたカードを覚えていたのです。
長年の付き合いです、マックスはその友人なら、きっとカードを見つければそう問いかけてくるだろうと予想していました。また、あえてそう問いかけて来そうな話題を選んでいました。

もちろん、友人は、マックスがそこまで仕込んでいたとは考えもしません。
なので、本当に不思議に思ったでしょうね。

このように、プロのマジシャンは、用意周到です。
あらゆる事態を想定して、失敗のリスクを回避しつつ、ステージを成功に導きます。

もしかして、と僕は思わざるをえません。

もし、福島の原発の関係者に、これほどのリスクマネジメントができる人がいれば、最悪の事態は避けられたのではないだろうか。

それでは、なぜ、マジシャンはリスクマネジメントの達人となったのでしょうか。

 

〔総括〕マジシャンがリスクマネジメントの達人になった理由

僕はなぜ、マジシャンがリスクマネジメントの達人になったのか、その理由が知りたくなりました。
それで、日向さんに質問をしました。

「今のマジックってどこが発祥ですか?」

日向さんはこう答えました。

「大昔から、マジックはありました。どこの国にでも日本の江戸時代にも似たようなものはありました。主にステージを作って、大掛かりな仕掛けを用いたものです。それがクロースアップマジックとして、ステージからごく近く(クロースアップ)に出たのは、アメリカにダイバーノンというひとが現れてからでした。彼は近代マジックの父と呼ばれています」

やはり、そうか、と僕は思いました。
アメリカなのです。

「最悪を想定して、最善を願え」

それが、アメリカの基本的な戦略です。

百田尚樹さんの『永遠の0』にもありますが、日本軍はパイロットの技量に頼りました。天才が出現するのを基本的な戦略にしていました。けれども、アメリカの場合は違います。

まずは、「人は弱いもの」として仮定して、弱い人がどうすれば勝てるかというのを戦略の基本に置きます。
まさに、「最悪を想定する」のです。日本の場合は逆に天才が現れる前提ですから「最善を想定する」。ここの基本がまるでちがう。

そして、「最悪を想定」すると、やはり、徹底的に考え抜くことになります。
それが、アメリカの強さだと思うのです。

近代マジックもアメリカ生まれだと聞いて、なるほど、と思ったのです。

ステージから、客席のテーブルの方に降りてくると、大きな仕掛けが使えなくなります。
お客様のごく近くでやると、見破られるリスクが、当然、ステージ上よりも高くなります。
その増大したリスクと対面する経験を積んできたことによって、クロースアップマジックは、究極のリスクマネジメントの手法を構築していったのではないでしょうか。

そう考えると、プロマジシャンの奥義が、様々なビジネスに応用可能だとわかるはずです。

僕も、天狼院の運営に、このプロマジシャンの「究極リスクマネジメント」を応用して行きたいと思っております。

それはそうと、プロマジシャンの日向さん、今度、天狼院のすぐ近く、シアターグリーンで単独マジックライブをするようです。

時間のある方、ぜひ、行ってみてくださいね。

日向大祐さんのマジックライブ

 

どうぞよろしくお願いします。

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2014-07-17 | Posted in 天狼院通信, 記事

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