週刊READING LIFE vol.17

娘。への愛が止まらない。《週刊READING LIFE vol.17「オタクで何が悪い!」》


記事:笹川 真莉菜♀(READING LIFE公認ライター)
 
 

小学生の頃からずっと好きな女の子がいる。
彼女を知って20年ほど経つが、彼女はいつまでも若々しい。新陳代謝を繰り返し、進化し続ける彼女にわたしはいつまでも魅了され目が離せない。
 
もともと彼女は地方出身だった。
好きな人とコーヒーを飲むのも恥じらうくせに、背のびして経験豊富な大人ぶろうとするようなところがある、ウブで可愛らしい子だった。
 
しかしふるさとを出て東京に暮らすようになってから、彼女は変わった。
彼女は可愛いからすぐに彼氏ができた。真夏に彼氏と海までドライブして、きらめく光線を浴びて彼女はどんどんキレイになった。
けれど彼女は恋愛にのめり込むタイプだった。彼に夢中になりすぎてしまい、付き合って間もないのに結婚の話をしたりお昼ごはんの心配をしたりした。
 
彼女は彼氏のほかに演劇も好きだった。
ミュージカルを好み、彼女も歌と踊りで人々を魅了したいと思うようになりアメリカ留学を決めた。
彼女は少し極端な面があり、留学を決意したときに彼と別れることも決意した。
そう決めてから彼との関係はあっけなく終わり、恋はシャボン玉のようにもろいものだと実感した。
 
しかし彼女はすぐに立ち直った。
留学先ですぐに好きな人ができたのだ。
彼女が好きになった人は友達に誘われて観に行ったサッカーの試合で優勝したチームのキャプテン。日本が大好きで、アメリカ人なのになぜか演歌が歌える面白い人だった。
彼女は失恋の傷を癒すように二人目の彼に夢中になった。彼は趣味の話から地球温暖化の話までするような熱い人で、正直話についていくのに精一杯だったが、彼女は彼の熱い面にもさらに惹かれた。
 
しかし恋の傷が完全に癒えていなかった彼女はなかなか告白することができなかった。
女友達に相談するも、友達は自分のことにしか興味がなく「恋愛っていいよね!」と大騒ぎするばかりだった。
しばらく悩んだが、彼女は意を決して彼に告白。OKの返事をもらったときは涙が止まらなかった。
留学中は新たな彼と楽しい日々を過ごしていたが、彼女の留学期間が終わりふたりは離れ離れになってしまう。
 
帰国後、彼女はふるさとへ帰り親に将来の相談をした。
いくつかの恋を経験した彼女はふるさとにいた頃よりは積極的になったものの、親に相談するのは少し恥じらいがあった。みかんを食べながらそれとなく聞いてみると、彼女の母は人生一度きりだから自分の好きなように生きなさいと言った。
母に背中を押された彼女は、恋も夢も絶対に諦めないと改めて決意した。
 
しかし彼女は過ちを犯してしまう。
アメリカの彼との付き合いは続いていたのに、別の人と一夜限りの関係を持ってしまった。
相手はとあるクラブに行ったときに出会った彼。重低音が響くなかセクシーに踊る彼に惹かれた。よく知らない相手と浮ついた恋だなんてとても危ないしダメだとわかっていたが、彼女は自分の心を止められなかった。
 
浮かれた彼女はバチがあたった。彼女はクラブの彼にのめり込み、しばらく関係を続けていたがいきなり音信不通になった。どうやら彼女は彼にとっては「二番目」だったらしく、彼女は夜通し泣いた。日の出前の薄明かりの景色が泣き腫らした目に映り、この恋のようなはかなさを感じたと言う。
 
この頃から彼女は少し不安定になった。
アメリカの彼と会えない寂しさを埋めるためにゲームのような恋愛をするようになるが、むなしさが深まるばかりだった。
彼女は恋の相手に夢中になるあまり、自分を見失いかけていた。
わたしはこの頃の彼女の苦悩に触れると胸が痛む。どうか、どうか幸せになってほしいと祈るような気持ちになる。
 
けれど、彼女は復活した。
彼女は恋愛では不安定になっていたものの、歌と踊りで人々を魅了するという自分の夢に向かってひたむきに努力し続けていたからだ。
彼女は失恋を経験したことで、歌はもちろんのこと、これまで以上にダンスの腕を磨くことにした。
ダンスの腕前は徐々に上がり、少しずつ評価されるようになった。
その頃には、昔の背伸びしていた彼女はもういなかった。ありのままの自分を堂々とさらけ出す、凛とした輝きを放つようになっていったのだ。
 
彼女は恋愛体質で、気まぐれな猫のようなところがあり、何かにのめり込みすぎるところがある。
けれどすごく挑戦的で、クリエイティブだ。ゼロの状態からなにかを生み出すことを恐れない。まわりから賛否両論いろんな反応が来ても、いつか時代が彼女の感性に追いつくことをあらかじめ知っているかのように堂々としている。
その姿は惚れ惚れするほどカッコ良い。
彼女の姿を見るたびに、わたしも彼女のように凛とした生き方をしようと強く思わされるのだ。
 
 
 
 
2018年は彼女のアニバーサリーイヤーだった。
彼女が1998年にメジャーデビューして20年の節目を迎えたのだ。
 
これまでわたしは「彼女」とひとりの女の子であるかのような書き方をしてきたが、彼女はひとりではない。
彼女とは、平成を代表するアイドルグループのことを指す。
 
「モーニング娘。」
このアイドルグループの名を、誰もが一度は聞いたことはあるのではないだろうか。
 
モーニング娘。は1998年に「モーニングコーヒー」でメジャーデビュー。1999年に7枚目シングル「LOVEマシーン」でミリオンヒットを記録し、爆発的な人気を獲得。メンバーが卒業と加入を繰り返し、10人前後の体制で今でも活動を続けているアイドルグループである。
 
モーニング娘。は2018年10月現在で計66枚のシングルCDをリリースしている。この20年で歌われた楽曲は発売されたときの時代を感じつつも、どれもどこか挑戦的だ。
モーニング娘。はロックバンド「シャ乱Q」のボーカル・つんく♂が全シングルの作詞作曲・プロデュースに関わっていて、モーニング娘。のシングル曲を聴いているとつんく♂が創り出す地球規模の世界観とちょっとクセのある歌詞から曲のストーリーを感じることができる。
 
狙っているのかそうでないのかは定かでないが、モーニング娘。の20年の歴史をたどっていると、それぞれの曲が互いに共鳴しているように感じられる。
曲調はバラバラなのだが、ひととおり聴いているとひとりの素朴な女の子が都会の荒波に揉まれ、恋に振り回されながらもどんどん洗練し成長していくストーリーに感じられたのである。
 
冒頭の「彼女」のストーリーは、わたしがモーニング娘。の曲名とテーマをなぞっていくうちに出来上がったものである。
 
少しだけ解説すると、彼女のアメリカでの恋の相手は20枚目シングル「Go Girl〜恋のヴィクトリー〜」、一夜の過ちを犯してしまった相手は32枚目「笑顔YESヌード」、彼に振られて打ちのめされた様子は33枚目「悲しみトワイライト」からイメージが湧いた。
彼女の恋愛体質な面は7枚目「LOVEマシーン」、8枚目「恋のダンスサイト」を筆頭に、24枚目「涙が止まらない放課後」、46枚目「Only you」、50枚目「One Two Three」から聴き取った。
 
とにかく相手に夢中になってしまうような歌詞が多く、そのため38枚目「泣いちゃうかも」、39枚目「しょうがない 夢追い人」、40枚目「なんちゃって恋愛」とタイトルからして湿っぽいナンバーが連発し相手に振り回されてしまう切なさも歌われる。
 
しかし自分の信念は決して曲げず、14枚目「そうだ! We are ALIVE」、17枚目「ここにいるぜぇ!」、42枚目「女が目立って なぜイケナイ」、55枚目「What is LOVE?」、59枚目「Oh my wish!」、65枚目「A gonna(えーがな)」などで芯の強さや努力の大切さを歌っている。
 
わたしは1990年生まれ、モーニング娘。とともに青春時代を過ごした世代である。
初期メンバーの安倍なつみさんと5期メンバーの高橋愛さんが特に好きで、小学生の頃からCDを聴き込んで彼女たちの歌うパートを真似したり、祭りの屋台で買えるキラキラカードを集めたりしていた。
 
AKB48グループが隆盛を極めるとモーニング娘。の勢いは一旦落ち着くが、モーニング娘。はひるむことなく卒業と加入を繰り返しながら進化し続け、挑戦的な楽曲でファンたちを魅了し続けている。
わたしもそのファンのひとりである。最近コンサートにはあまり行けていないが、「彼女」のストーリーを創作するくらいにはモーニング娘。を聴き込んでいるつもりである。
 
彼女たちのいちばんの魅力は、いまもなお輝き続けていることだ。
結成20年という歴史あるグループ、かつ2000年代のアイドルカルチャーを牽引してきたグループにいるという重みを10代から20代の女の子たちが背負いながらも現代版にアップデートし続けている。
 
「LOVEマシーン」だけが彼女たちの代表曲ではない。今のモーニング娘。が一番カッコ良いんだ! という誇りを持って彼女たちは堂々とパフォーマンスをしている。
そんな彼女たちの姿を見ていると、自分もこのままではいけない! といつも奮い立たされるのである。
 
わたしはもうすぐ30代になる。
10代や20代ならまだしも、そろそろアイドルオタクと公言するには憚られる年頃に差し掛かってきたように思う。
けれど、わたしはいまだに彼女たちから目が離せない。
いや、離せないのではない。目を離したくないのだ。目の前で「カッコ良い」が更新されていく瞬間を。凛とした生き方を体現する彼女たちの姿を。
 
もしも誰かから「いい歳してアイドル好きなんだ」などと揶揄されるようなことがあれば、堂々とこう言いたい。
 
わたしは、モーニング娘。への愛が止まらないのだ!
 
 
 

❏ライタープロフィール
笹川 真莉菜(READING LIFE公認ライター)
1990年北海道生まれ。國學院大學文学部日本文学科卒業。高校時代に山田詠美に心酔し「知らない世界を知る」ことの楽しさを学ぶ。近現代文学を専攻し卒業論文で2万字の手書き論文を提出。在学中に住み込みで新聞配達をしながら学費を稼いだ経験から「自立して生きる」を信条とする。卒業後は文芸編集者を目指すも挫折し大手マスコミの営業職を経て秘書業務に従事。
現在、仕事のかたわら文学作品を読み直す「コンプレックス読書会」を主催し、ドストエフスキー、夏目漱石などを読み込む日々を送る。趣味は芥川賞・直木賞予想とランニング。READING LIFE公認ライター。

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

http://tenro-in.com/zemi/66768


2019-01-28 | Posted in 週刊READING LIFE vol.17

関連記事