偉人ゆかりの宿を巡る旅

武田信玄ゆかりの宿~なぜ信玄は命令したのか~(山梨県山梨市 山県館)《偉人ゆかりの宿を巡る旅》


記事:中野ヤスイチ(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 
今度の旅は、「甲斐の国、山梨に行こう!」と決めた。
 
甲斐の国と言えれば、誰もが知っている甲斐の虎 武田信玄の領土だった場所である。
 
富士山の麓にあり、綺麗な川が流れ、水も美味しく、山々に囲まれた自然豊かな場所が今も残っている。
大河ドラマ「風林火山」も記憶に残っているのではないだろうか。
 
甲斐の虎 武田信玄、名は晴信には、武田二十四将と呼ばれる優秀な家臣がいた。
 
その家臣の中でも、四天王と呼ばれ、三方ヶ原の合戦では織田・徳川連合軍に「武田の赤備え」と呼ばれ恐れられた部隊を率いた武将 山縣昌景の子孫が受け継ぐ宿こそ、今回の「偉人ゆかりの宿」を巡る旅の舞台、「川浦温泉 山県館」である。
 
「川浦温泉 山県館」は笛吹川上流に位置する、永禄04年武田信玄の命により温泉が開発され、信玄の唯一の文献が遺されており、今なお毎分1250リットル湧きでる源泉100%掛け流しの湯屋である。
 

(山県館ホームページ写真)
 
日が少し暮れ始めた頃に今回の宿「川浦温泉 山県館」に車で到着した。
 
すると、駐車場に一人の男性が寒いのに、立って待っていた「お待ちしておりました、中野様」というのである。
 
なぜ、事前に車のナンバーも伝えていないのに、僕らである事がわかったのか、不思議でありながら、嬉しい気持ちになった。
 
宿の方に導かれて、中に入ると、ひときわ目を引くのは、武田信玄四天王の一人と呼ばれ、「武田に山縣あり」と隣国から恐れられた山縣昌景が着用した鎧兜と武器の槍が出迎えてくれる。
 
 
 
見た瞬間、時代がタイムスリップした感覚を味わい、戦国武将好きにとって、山縣の鎧兜と槍を見ただけで、ここに来て良かったと思うに違いない。
 
仲居さんに呼ばて、ロビーにあるラウンジに導かれ、チェックインをしているとそこには、ウエルカムドリンク ぶどう100%のジュースが用意されていて、それを飲みながら、置かれている陶器を観て、ゆったりとした気持ちで部屋に通されるのを待った。
 

 
呼ばれて通されたのは「寿山」というお部屋、純和風で開放感があり、日常生活を忘れてゆったりと過ごして欲しいと想いが込められた場所。
 

 
人柄の良い仲居さんに館内の説明をしてもらった後、家族3人で少しお茶を飲みながらゆっくりしていると、川の流れる音が、どこからか聞こえてくる。
 
この宿は、笛吹川に沿って作られている為、その音が心地よく耳から入ってきて、ここまでの旅の疲れを静かに癒やしてくれる。
 
その感覚を味わいながら、この旅館の一番の名物であり、今回の旅の目的でもある温泉に息子と入りに行く事にした。
 
この旅館には大きく分けると4つの温泉がある。
信玄公岩風呂 渓流雅之湯、せせらぎの湯、薬師之湯、有料貸し切り風呂(絶景之湯、こぶし之湯)。
 
時間帯によって、男性と女性で入れるお風呂が変わるようになっている。
 
僕と息子は「せせらぎの湯」に入りに行った。
 

(山県館ホームページ写真)
 
広いお風呂は温泉100%掛け流しのため、ほのかに硫黄の匂いが鼻の中を通っていく、温度はそこまで熱くなく、42度と丁度良い、お湯の中に入ると疲れがどんどん癒えていくのがわかる、湯気によってほとんど、周りの人が気にならない、息子でも安心して入れるように、段差が低くなっている寝風呂があり、3歳時の息子が初めて温泉を楽しんでいた。
 
出ようとしても、もっと入りたいと息子が言うのは初めてで、一緒になって長湯をしてしまった。
癒しと驚きの両方を楽しむ事ができる。
 
着替えて、出入り口に向かったら、大理石の綺麗な水飲み場があるのに、目が奪われる。
どうやら、湯上がりの後に飲む為の水場らしい。
 
この水を一口飲んだら、気がついたら何度も飲んでしまっていた。
柔らかくて、美味しくて、身体に沁み渡っていくのがわかる。
 
息子もガブガブ飲んでいた。
 
温泉を出た後に、息子とゆっくり廊下を歩いていると水が滴る音が心地よく聞こえてくる。
旅館の気配りなのだろう、壺に水が流れるような仕組みを作って、湯上がりの疲れを癒やしてくれる。
 
ちょうど良い時間になり、夕食を食べに、1階のロビーを通って、部屋に入ると料理が用意されていた。
 
食前酒として甲州ワインが用意されていて、ワインを飲み終えた後、料理が順番に運ばれてくる。
 
中でも、富士渓流 山女魚の岩塩焼は、一口食べた瞬間に、シンプルな味わいの中にも深みを味わう事ができ、この土地ならではの美味しさがあった。
 
その後にもお肉が出て来て、お腹も膨らんできていたのだが、僕の中でのメインは絶品の山女魚でも和牛でもなかった……。
 
なんと、白いご飯。
 
白いご飯を口に入れた瞬間、今まで食べたご飯は何だったのだろうと思ってしまうほど、甘みがありながら、力があるお米の味。お米だけで、何杯でも食べられてしまうお米に出会ってしまった。
 
この感動を味わうと食べる事をやめられない。
お品書きには、「山梨県産 梨北米」と、ただそれだけが書かれていた。
 
この旅館での食事には、武田信玄の隠し湯と同じ温泉水を身体にも入れる事が出来てしまう、お米を通して。
 
最後のデザートには、信玄プリンを食べ、信玄の思いに浸りながら食事を終えた。
 
お腹も一杯になり、部屋に戻る道を黄金に輝く場所に導かれるようにゆっくりと歩いていた。
 
その場所には、武田信玄が命令したとされる文献が飾られていた。
 
 
 
武田信玄は知力にも優れた武将であったとされている。
この文献も書かれているように、歴史的も大きく残っている上杉謙信との川中島の戦いに備えて傷病兵の療養施設の完備をする為に、この場所に温泉を作るように恵林寺に命令したのである。
 
そこまで、家臣の事を考えていた武将はいたのだろうか……。
 
考えながらその場所を後にした僕は、一度部屋に戻り、傷病兵を癒す為に作られた「信玄公岩風呂 渓流雅之湯」に入りいく事にした。
 
この岩風呂は旅館内には無く、旅館に繋がっている渡り廊下を抜けて、少し暗い道を何段もわたる階段を降りた先にある。
 
そこまでして行く覚悟はあるのか、信玄に試されているような感覚に襲われながら、辿り着いた先に、まさに、光輝く岩風呂がそこにあった。
 
ライトは一つか二つしかない、ただ、そのライトによって、天井に映し出された水面はとても綺麗で、入る前から普段は観られない風景に胸がワクワクしてくる。
 
岩風呂に入っていると、外気に触れて温度は少し温めなのか、身体が暖まるまで入った場所で少しじっとしていた。
 
すると、自然に川の流れる音が耳に入ってくる。
自然が織りなす神秘の世界に吸い込まれていき、自然と川沿いの場所に導かれ、空を見上げたら、そこには一面の銀世界が待っていた。
 
思わず、星ってこんなに綺麗なんだ、と口ずさんでいた。
 
この温泉はこの場所に五百年以上も前からずっと、入る人を癒やし続けてきたのだろう。
信玄も同じ場所で、同じようにこの星空を観て、何を思い、何を考え、何を感じていたのだろう。
 
そんな思いにふけっていると、遠くから男性と女性の声が聞こえてきた。
一瞬、ドキッとした。
 
この岩風呂は時間帯によっては、男女混浴になる。
 
その声を聞きながら、僕は信玄が愛した岩風呂を後にした。
 
疲れていたのだろうか、家族3人とも、お布団に入った瞬間に自然と眠ってしまった。
 
起きた時、今まで感じた事がないくらい、清々しくエネルギーに満ちあふれているのを感じた。
自然とお腹が空いてきて、朝食に向かった。
 
朝食には、なんと、温泉粥が出されていた。お米には、この食べ方もあった事を忘れていた。
お粥まで今まで食べた事が無かったくらい美味しかった。
 

 
ただ、僕の頭の中では、「信玄公岩風呂 渓流雅之湯」に行きたいという衝動が頭を駆け巡って、収まらなかった。
朝になって、昨日の夜は見えなかった景色が見えるに違いない、そうそうに朝食を終えて、温泉に入りに向かった。
 
すると、息子も何かを感じたのか「僕ももう一つの温泉に入りたい」というのである。
すっかり「薬師之湯」の入りに行く事を頭から抜けていた。
 
息子と一緒に薬師之湯も入りに行った。
 
すると、薬師之湯からは鯉が泳いでいるのを観る事ができた。
 
息子はとても嬉しそうに、「鯉ちゃん観ながら入れる温泉って良いよね」、「お父さん、ありがとう」と
言うのである。
 
その言葉を聞けるとは思っていなかったので、心が満たされていくのがわかった。
 
鯉との別れを惜しむ息子を温泉から出た後に妻に預けて、僕は「信玄公岩風呂 渓流雅之湯」に向かった。
着いた瞬間に、何とも言えない気持ちが湧き上がってきた。やっぱり、来て良かった。
 
昨日の夜には見えなかった清流と紅葉が綺麗な木々が目の前を覆い尽くしていた。
温泉に入りながら、こんなに綺麗な景色を今まで観た事がなかった。
 
朝一番に川の流れを聞きながら入る温泉は、本来持っている身体のエネルギーを呼び覚ましてくれる。
そんな効能が、「信玄公岩風呂 渓流雅之湯」にはあるのかもしれない……。
 
きっと、信玄も同じように感じて、ここに温泉を作るように命令したに違いない。
 
 
(山県館ホームページ写真)
 
またここに入りに戻って来ようと思いながら温泉を後にした。
 
部屋に戻って、片付けをして、チェックアウトの為にロビーに向かった。
 
ロビーで他のお客さん達がチェックアウトをしているのを待っている間に、改めて信玄の文献や山縣の鎧兜を観て、想いにふけりながら歩いていたら、もう一つ新たな発見をした。
 

 
なんと、この旅館に、今年即位された天皇陛下が昭和50年に訪れていたのである。
 
なぜ、この温泉を訪れたのだろう、この旅館に宿る歴史的背景を知っていたからだろうか、
それとも、この温泉の隠れた効能を知っていたからだろうか。
 
天皇陛下は、この温泉に入り何を感じられたのだろう……。
 
信玄の命によって作られ、家臣の山縣家によって、五百年間、守り続けられてきた歴史を感じる「川浦温泉 山県館」、
今なお、疲れた人々の心と身体を癒やしてくれる、隠れた名湯がここにある。
 
あなたにも、是非、この温泉に入ってもらい、何を感じるのか、味わってもらいたい。
 
次は、個室の露天風呂にも入りに来ようと思いを馳せつつ、雨がしとしとと降る中、この宿を後にした。
 
 
 
 

▼今回のお宿

【川浦温泉 山県館】
公式ホームページ:hhttp://www.yamagatakan.com/index.htm
住所:山梨県山梨市三富川浦1140
電話番号:0553-39-2111

❏ライタープロフィール
中野ヤスイチ(READING LIFE編集部公認ライター)

島根県生まれ、東京都在住、会社員、奈良先端科学技術大学院大学卒業。父親の仕事の影響もあり、今までに全国7箇所以上で暮らした経験がある。現在は、理想の働き方と生活を実現すべく、コーチングとライティングを勉強中。休みの日を使って、歴史ある温泉旅館に泊まりに行く事が、家族の楽しみになっている。

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2020-06-23 | Posted in 偉人ゆかりの宿を巡る旅

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