能ある鷹が隠し持っていたもの
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:ながはら なおこ(ライティング・ゼミ日曜コース)
毎週パーソナルストレッチに通っている。
週一回のボディメンテナンスでもあり、心のリフレッシュにもなっている。
以前は肩こり解消とデトックスも兼ねてリンパマッサージを受けていたが
毎回毎回冷えや運動不足により筋肉が凝り固まりリンパが流れず、リラックスどころか激痛で2時間もだえる。という時間を過ごすことが多かったため「ストレッチをしたらいいよ」とお店の人に勧められて始めたのがきっかけだった。
「なるほど、ストレッチか~……」と頭では分かっているものの痛みにはめっぽう弱くストレッチは大の苦手。
前屈なんてものの5秒で止めてしまう。
そんな痛みに耐えて自分の力だけで筋肉を伸ばすなんて絶対無理!!
ただ、肩こりの辛さにも勝てない。
ということで人の手を借りてみようとパーソナルストレッチに通い始めた。
まずはストレッチ台にうつぶせになり背中を指圧。そこから足を後ろに持ち上げられ太もも前部を伸ばしてもらう。
「痛いーーーーー!!」
「ですよねーー。効いてる証拠です」
トレーナーのEさんは私の訴えを笑顔で受け流しストレッチを続行する。
続いて仰向けになり股関節やお尻のストレッチ。
「でね、職場の人と……痛いーーーー!! そこ、痛いですーーーー!!」
「うん、だと思います。そこを今伸ばしてるんでね。それで? 職場の人とどうなったんですか?」
そう言ってまたEさんは会話を続けながら施術を行う。
そして横向けになり肩甲骨、前腕部のストレッチへ
「いや!! ホントに痛ッ……。痛すぎて会話が頭に入ってこないんですけど……笑」
そんな痛みと笑いが入り交じった会話をかわしながら最後、首肩をほぐして終了。
「ありがとうございました。めっちゃ痛かったけどスッキリしました!」
施術が終わった後は筋肉がほぐれた爽快感と心地よい脱力感でいつも身体と心は満たされていた。
そんなストレッチライフを楽しんでいたある日、Eさんから「新人さんが入ってきたんですけど、今日よければ受けて頂けませんか?」とお願いされた。
今までも何度か同じようなお願いをされたこともあり、もちろん断る理由もなかったため快諾した。
その新人さんは大学でしっかり体のしくみや筋肉の事を学び知識も豊富。
そして卒業後は他の会社で同じような施術をした経験もあり、他の新人さんに比べて施術は上手で会話もスムーズ。
彼の第一印象は「接客慣れしているな」というものだった。
(これは悪い意味ではなく、むしろ好印象)
「期待の新人さんだな~」と思いながら施術を受けていたのだが、時間が経つにつれてところどころに何となく違和感を感じていった。
「あれ? 今なんか私の足降ろしていくとき扱いが少し雑じゃなかったかな?」
「一生懸命やってくれているのは分かるんだけど、力入り過ぎてプルプルしてるのがちょっと伝わってくるな」
「私の手の置き場、施術の邪魔になってないかな?」
言ってみれば細かいところばかり。
もしかしたら通常はそれほど気になるところではないのかもしれない。
もちろん技術的なところがまだまだなのは新人さんなので当たり前ということは分かっている。
ただ、技術不足だけの問題ではない些細なところ。
「悪くはないんだけど、なんだろう……?」
その正体は後日Eさんの施術を受けた時に分かった。
Eさんにあって、新人さんになかったもの。
それは「プロ感のなさ」だった。
本当にプロ感がなかったわけではない。
プロ感を感じさせないくらい自然に、ラクに施術を行ってるように見せていたということ。
言ってみればただのおじさん2人が立ち話をしているような会話のやり取りをしている漫才師さんのように。
一見誰にでもできそうに見えるが、実はそこには間やテンポ、言葉選びなどがかなり緻密に計算されている。
そして、それは少しズレたり、やり過ぎただけでもお客さんに伝わり笑いに影響してくる。
そしてその根底には「お客さんに最高の笑いを届けたい。喜ばせたい」という気持ちがなければ生まれてこない。
でもそれをアピールすることもなく、いとも簡単にこともなげにやっているように見せる。
Eさんの施術からはそういったものが感じられた。
施術自体は相当体力のいる事でもあるし、その体力を使った後のフッと力が抜けた瞬間にお客さんの扱いが少し雑になってしまったり。
会話に集中し過ぎて施術が少し疎かになってしまったり。
逆に施術に集中し過ぎてその一生懸命さが伝わってしまったり。
そういった細部の気遣いが抜け落ちやすい。
そしてそれがお客さんに伝わっていく。
Eさんの施術には一切違和感がない。
そこに彼の「プロ感のなさ」を感じることができる。
能ある鷹が隠して持っていたものは決して鋭い爪だけではなく、お客さんに気持ちよく帰ってもらいたいという想い。そしてその鋭い爪を鋭く見せないプロとしての在り方だった。
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