【ネタバレ注意】『鬼滅の刃』23巻がファンの心を救う素敵過ぎる最終巻だった
*この記事は、「リーディング・ライティング講座」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:東ゆか(リーディング・ライティング講座)
12月4日からずっと動悸が止まりません。いや、もっと前からです。11月25日に描き下ろしページが収録されることが発表されてから。いいや、もう少し前から、私は居ても立ってもいられませんでした。
11月16日に最終巻となる23巻の表紙が発表されました。笑顔で手を振る炭治郎。太陽の下を思わせる白い画面の中で、ハクモクレンの花束を抱えて微笑む禰豆子。物語の最後を飾る、素敵過ぎる表紙じゃないですか……。
なんの話かって? 『鬼滅の刃』最終巻のお話です。バシバシネタバレしていくので要注意。
2020年4月以降、私の心は『鬼滅の刃』と共にあったといっても過言ではありません。
4月にNetflixでアニメを一気見してドハマリし「続きはまたアニメで!」なんてことは言ってられず、Kindleで衝動的に続刊を購入。最終回もジャンプ本誌で読みました。34歳になってジャンプをドキドキしながら読むなんて思ってもみなかったよ……。
思い返せば5月18日発売の最終回205話を読んだときから、私はずっと鬼滅のことをばかりを考える生活を送ってきました。というか、考えざるを得ませんでした。
今年のコミックの売上ランキングの上位を独占し、小学生が道端で「霹靂一閃」をかましたり、子持ちの同級生が「炭治郎と禰豆子のマスクを作りました〜」なんてことをインスタで報告するぐらいに日本は『鬼滅』一色でした。
そうなるとTVでも取り上げられるわけですが、そこで言われる鬼滅の魅力というのは「人間を殺した鬼にも人間だった頃があって、そのストーリーが胸を打つ」というものでした。確かにそこには激しく同意するし、私がTVアニメシリーズを観て「鬼滅面白いじゃん!」と思ったポイントの一つでもありました。
でもそれだけだったら、たぶん私は今ここまで鬼滅にハマっていなかった。ハマるというか、5月18日からずっと『鬼滅』のことを考えることもなかったと思うんです。
物語の結末、禰豆子は人間に戻り、無事に鬼舞辻無惨を倒しました。物語はめでたしめでたしなのですが、そこに行き着くまでにたくさんの犠牲がありました。
作者である吾峠呼世晴先生は一人ひとりのキャラクターの背景をじっくり描いていらっしゃいました。それも唐突に背景が描かれるのではなく、どこかしらでしっかりとした伏線を張っておいて、それを丁寧に回収するという手法。
しかもそのキャラクターたちの背景がどれもこれも切なく、一人ひとりに思い入れを抱かせてしまいます。「全員推せる」のが『鬼滅の刃』なのです。
そうなると、死んでしまったことはもちろん悲しいし、生き残ったことですらなんだか悲しく思えてしまうキャラクターもいます。
私が5月18日以降、ずっと思いを馳せ続けていたのは、鬼殺隊・風柱である不死川実弥についてです。初登場のシーンで、異様なまでに炭治郎と禰豆子の存在を否定した以降は、彼のことが直接描かれることは物語の終盤までありません。
実弥は玄弥以外の兄妹を鬼に殺されてしまうという、どこか炭治郎と似た境遇にあるキャラクターです。しかし炭治郎と異なるのは、その鬼は鬼化した母親であり、その母親を自ら手にかけていること。そして唯一生き残った弟の玄弥が、鬼殺隊に入隊した自分を追って自らも鬼殺隊員となり、しかも鬼を食べて鬼化しながら戦っているという大無茶をしているということです。
玄弥は戦いの中で鬼化したまま死んでしまいます。鬼は死ぬと身体が灰のようになって崩れていくので、遺体は残りません。鬼化した母親が死んだときと、自身が今まで倒してきた憎き鬼同様に身体が消え去っていってしまう弟の姿に、実弥の涙は止まりません(読者の涙も止まらない)。
そして普段、オラオラとガラの悪い実弥が「頼む神様 どうか どうか 弟を連れて行かないでくれ お願いだ」と叫びます。
「あの実弥が、神様に乞うだなんて……!」
吾峠先生の描く台詞はいつだって秀逸でした。あの実弥に「神様」と叫ばせる。これ以上の悲しい台詞があるでしょうか。
実弥はずっと玄弥が鬼殺隊に入隊したことを許さず「俺に弟はいない」とその存在を拒絶し続けていました。そんな実弥の玄弥に対する願いは唯一つだったからです。
「テメェはどっかで所帯持って 家族増やして 爺になるまで 生きてりゃあ 良かったんだよ。(中略)そこには絶対に 俺が 鬼なんか来させねぇから……」
しかし玄弥は死に、実弥も死にかけますが一命を取り留めてしまいます。
「推しが死ななくて良かった!」
そう思いたいところですが、5月18日以降ずっと考えてきました。唯一の望みを失った実弥は決戦の後幸せだったのだろうかと。鬼を滅殺することに誰よりもこだわっていた実弥は、鬼が居なくなり、弟も失った世界に生きることを望んでいたのだろうかと。
『ジャンプ』に掲載された204話で、実弥は「元気でなァ」と、それまで見せたことのない穏やかな表情で、初登場のときには存在を許さなかった禰豆子の頬を撫でて去っていきます。
「元気でなァ」
それはもう実弥は禰豆子たちの前に現れるつもりはないという意味に取れました。
このまま鬼も弟もいない世界で、彼はどんなふうに生きていったのだろう。その答えがほしくて、5月18日以来ずっと…… あ、ちょっとくどいですね。失礼しました。
しかしそんな答えをちゃんと示してくれたのは、12月4日に発売された最終巻末尾の描き下ろしのモノローグでした。
キャラクター一人一人の優しく穏やかな表情と共に、思いが語られます。その中の実弥の台詞に大いに救われました。
「自分のことが不幸だなんて 思ったことは一度もない」
私が実弥の口から聞きたかった答えでした。
この描き下ろしのモノローグは、実弥以外のキャラクターについても熱心に『鬼滅の刃』を愛し、キャラクター一人一人に思いを寄せてきた読者たちへのメッセージでもありました。
一人一人に思い入れが強くなればなるほど、生きていてほしいと願ってしまいます。『鬼滅の刃』の感動ポイントでもある、死に際に先に逝った人たちとの邂逅が描かれるシーンにおいて、メインキャラクターたちはとても穏やかな、満されたふうに描かれます。
でもファンの思いは全く穏やかではない。むしろ穏やかに描かれれば描かれるほど、その死が本望であればあるほど、苦しくなってしまいます。
最終巻のモノローグは、そんなファンの思いを回収してくれるものでした。彼らは精一杯生きたのです。しかも幸せに生きたのです。5月18日以降、ずっとわだかまりのあった私の心がやっと救われたました。それでもやっぱり、その回収のされ方や、吾峠先生の言葉のチョイスがあまりにも素敵で、胸のざわざわが今も止まりません。
読み終えたときには、こんなにかというぐらいKindleを握りしめて泣きました。
「流行ってるから観てみるか」
そんなミーハーな気持ちで、観始め、読み進め、最後は驚く程心をかき乱され、そしてちゃんとそこに救いを与えてくれた『鬼滅の刃』という作品に、そして吾峠呼世晴先生に感謝したいと思います。ありがとうございました!
さて、もう一度読み返そう。そしてまた泣いちゃうんだろうな。
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