探しものは、部屋の中で見つかった
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記事:ノリ(ライティング・ゼミ)
たとえば今、数年ぶりに会う友人に「最近どうしてた?」と聞かれたら、
「片付けしてた」と、私は迷いなく答えるだろう。
思い立ったのは2年くらい前。
仕事が忙しすぎて体をこわし、会社を辞めた私は、しばらく絶望していた。
好きで始めた仕事だったのに、いつの間にか苦しくなっていた。
向いていなかったんだろうか、無理しすぎたんだろうか。
周りの期待に応えて、先回りして、がんばってきたのに、
なにが自分のやりがいなのか喜びなのか、よくわからない。
私は私自身を見失っていた。
しばらく休んで具合がよくなると、
自分を見つけるために、自分のこれまでを振り返りたくなった。
そんな時、ふと頭の中をよぎった場所がある。
屋根裏だ。
窓も灯りもないが、四畳半ほどのスペースがあり、
この家に引っ越してきて以来、一度も開けていない場所。
子どものころからの思い出、おもちゃがたくさんつまった場所。
いや、つまったなんて、素敵なものではない。
押し込んだまま、放置した場所、と言った方がいい。
しかし会社を辞めた今なら時間はいくらでもある。
思い切って片付けてみようか。
懐中電灯を片手に、屋根裏に足を踏み入れると、
まず目に飛び込んできたのは、カビの生えたランドセルだった。
「ギャー!!」
これが私の片付けスイッチを押した。
次々に掘り出される私の半生。
よだれのシミがついた出産祝いの産着! 取っておいてくれてありがとう!
幼稚園の制服やカバン。こんなに小さかったんだ!
ずっと舐めていて、アゴひもが伸びたベレー帽。かわいいけどちょっと汚い。
習っていたピアノのレッスンバッグ。わあ、覚えてる! 先生が嫌いだった。
床屋さんごっこで髪を切られたリカちゃん人形。当時は夢中だった。
シルバニアファミリー。いっぱい遊んだなあ!
わら半紙に刷られた小学校の給食の献立表。きな粉パンが好きだった!
小学五年生のとき、廊下に貼りだされた夏休みの絵画。これほとんど母が描いたね。
小学校のテスト。今より字がきれいかも! よく取っておいたなあ。
差出人の名前を見ても誰か思い出せない年賀状の数々。本当にこれ誰?
シミのついた小学校の運動着。……なんで捨てなかった?
歴代のスクール水着。イヤー!!
クラスの友だちとの交換日記。早く捨ててー!
中学のころ書きためていたポエムのようなもの。キャー!!
一つひとつのものが、思い出を連れている。
いい思い出もそうでない思い出も。
私の父は転勤の多い仕事で、幼稚園から転校(転園?)をしている。
幼稚園は二つ、小学校は三つ、中学校は三つ、高校はかろうじて一つ。
引っ越しが多かった中、これだけのものを取っておいたのは、
ものがなくなると思い出も消えちゃうみたいで不安だったんだろう。
数十年たっても、こんなに思い出は残っているというのに!
親にも先生にも友人にも誰にも言えなかったけど、
転校ばかりでさびしかった子どもの自分を愛しく思えた。
そうか、自分には足りないと思うものを、人は貯め込むのかもしれない。
プラスチック製の衣装ケース15個分の思い出を手放し、
屋根裏を片付けた私は、次に自分の部屋を見渡した。
プレゼン前日にあわてて買ったスーツや、
背伸びして買ったけど、気に入っていなかったブランドのバッグ。
セミナーを受けて以来、一度も見返すことのなかった資料の山。
買っただけで読んでいない大量の自己啓発本。
押入れを占拠していたものを通して見えてきたのは、
自信がないことを少しでも隠そうと、もがいている自分。
「さすが! すごいね!」
「いつもがんばっているよね」
そんな声をかけてほしかった。
なんだ、いくらがんばっても足りない、足りないって思っていたけど
私、十分がんばってたじゃん。ただ、うまく結果が出なかっただけじゃん。
片付けが進むにつれ、私は穏やかになっていった。
ない、ない、と思っていたものは、全部あったとわかったから。
思い出も、がんばりも、十分あった。
ただ、いらないものが多すぎて、見えなくなっていただけだ。
見栄を張って買ったものたち、捨てられなかったものたちに
「自分に自信をくれてありがとう」と
言葉をかけながら片付けていくと、
当時の自分が、ものを買い、集めることで、
弱い自分自身を守ってくれていたんだとわかった。
ずっとずっと嫌ってきた、弱い自分だったけど、
そんな自分も今の私につながる大事な一部だとわかった。
自分自身にありがとう。
片付けがすんだ最近の私の部屋は、やっと等身大の私になった。
小さいタンスには毎日着る服しか入っていない。
驚くことに衣替えも必要なくなった。
一目で見渡せる本棚には、お気に入りしか並んでいない。
そして以前は買っても買っても足りなかったのに、
片付けの効果なのか、物欲がすっかり消えてしまった。
旅に出かけたわけでもなく、誰かに相談したわけでもない。
私は屋根裏と六畳一間の部屋の片付けだけで、
置き去りにしてきた自分を見つけることができた。
またもし自分を見失うことがあれば、
まず最初に部屋の中を見てみようと思う。
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