天職を見つけたリカバリーショット
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:田中 洋輔(ライティング・ゼミ)
「キミの大学で就職するのは難しいんじゃないかな?」
僕は大学生で、就職活動を目前に控えていたときだった。とあるイベントに参加し、「五大商社へ入りたいのです」と言ったら、1人のキャリアコンサルタントらしき人にそう言われた。
わかっていた。
言われなくても。
他の大学に比べると知名度は低い。実際、毎年入社できる人は、我が大学からは1人いれば御の字くらいのレベル。
悔しかったけれど、見えないようにしていた事実を目の当たりにして、僕はなにも言えなかった。
うちひしがれて帰ったものの、今さら諦めるわけにはいかない。
OB訪問を繰り返し、商社志望なら必読の『不毛地帯』も読んだ。
入社試験の勉強も必死でやった。
「お前、無理じゃないの?」
大学のキャリアセンターでもぼこぼこに言われた。
ガンバれば夢は、叶うんだ!
小学生がプロ野球選手を目指して取り組むように、ただひたむきに前だけを向いて、就職に向けて取り組んだ。
しかし、結果は惨敗だった。
名の知れた商社は、全て受けた。
試験で落ちたところ、面接で良いところまでいったもののお祈りメールがくるところ、反応は様々だったが、要するに全ての会社に落ちた。
半年以上前から、商社1本に絞っていた僕は、もう受ける企業がなくなっていた。
「どこでもいいから、とにかく受けろ!」と周りは言うけれども、自分が行きたくない企業には就職したくなかった。受けるのですらイヤだった。
自己分析を書いたルーズリーフは、200枚を越えた。
仕事に関するありとあらゆる本を読み、自分がなにをしたいのか。どんな仕事をしていきたいのか、自分に問うた。
わからなかった……
どれだけやっても見つからない。
やりたい仕事なんて本当に見つかるのか?
周りの就職がどんどん決まっていき、焦りは募っていくばかり。
次第に、なんとなく良さそうな企業にも受けるようになった。
でも、案の定、落とされる。
「あなたには価値はありません」と言われているような、どこかに致命的な欠陥があるような気がしてならなかった。
そんな中、とあるベンチャー企業で最終面接に残ったとき、僕は小さなキッカケを得た。
面接の最後、社長が言った。
「正直、キミをとるのは不安なのだよ」
言っている意味がわからず、僕は露骨に戸惑った顔をした。
「キミ、“違う”と思ったら、辞めるでしょ?」
僕は、迷わず答えた。
「はいっ!」
苦笑いした社長は、軽く手をあげ、わかったと言った。
面接が終わった帰り道、僕は意気揚々と電車に乗り込んだ。
わかったのだ。
自分がどうして受からないのかを。
僕は、ホンネしか言わない。
あまり興味のない企業の面接では、「行きたくないです」という顔をする。
本心から“やろう”と思うことにしか、熱意が向かない。
周りの器用な人たちは、上手にウソをつくことも大切だなんて言うけれど、僕には出来ない。
角刈りの映画俳優が言うように、「自分不器用」なのだ。
別に欠陥があるわけじゃない。
ただ、単純に合わないだけ。
例の社長から、「やっぱり、キミは不採用にします。ごめんね」と連絡があったとき、すでに僕の心は固まっていた。
自分の人生を生きよう。
みんながやっているから。
就職しないとダメだから。
そんな固定観念は、捨てる。
自分がやりたいことをする。
自分で人生を切り開いていく。
心に決めることが出来た。
久しぶりに大学で、同級生にあったとき。
みんなが各々、近況報告をおこなう。
今でも覚えている。
僕は、こう言ったのだ。
「いっぱい落ちた。就活全然あかんかった。でも……」
きっと僕は、すごくサッパリした顔をしていたのだろう。
暗い話題を話しているのに、その表情のギャップがおかしくて、聞いている友達は、みんな少し不思議そうに見ていた。
「落ちて良かったと思える生き方をこれからするわ。落としてくれてありがとうって言えるようにしたいねん」
あれから10年近くがたった。
就職活動が全くうまくいかず、ずっと落ち込んでいた僕が、今では法人を立ち上げ、代表として経営をおこなっている。
人生、わからないものだ。
あのとき、惰性のまま、無理矢理に就職しなくて良かった。
落としてくれた企業の方々には、心の底から感謝している。
今、僕は“天職”と思える仕事についている。
この仕事は、間違いなく一生をかけて取り組むものだ。
そんな仕事に出会えたのは、落ちて、落ちて、落ちて、でも自分と向き合い続けたあの日々があったからだ。
適当に就活をして、どこかに引っかかっていたら、きっと今はなかった。
人生は、ゴルフみたいだ。
ミスショットをしても、いくらでも取り戻せる。たとえバンカーにハマっても、そこから会心のショットを打てば、ミスなど関係ない。カップに入るまでの経過など関係ない。変なところへ打とうが、最後に穴へボールを沈めれば良いのだ。
人生も同じ。
就職活動なんて、1つの通過点に過ぎない。
人生は、長い。
なにがどう転ぶかわからない。
思いっきりクラブを振り抜く。
あとは、転がったところで勝負すればいい。
失敗しないゴルフなんておもしろくない。
ミスショットからのリカバリーショットが、なによりの魅力なのだから。
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