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もし、合コン相手を職業で選べるならば、私は葬儀屋さんがいい


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記事:あやっぺ(ライティング・ゼミ平日コース/特講)

 
 
「職業に貴賤なし」
 
昔からよく言われるが、本当に心からそう思っている人が、いったいどれくらいいるのだろう。口に出して言わないだけで、心の中では職業によって他人のことを勝手にあーだこうだと思っていることは、誰しもあるのではないか。
 
その証拠に、女性が合コンしたいと思う男性の職業として、いつも上位に挙がるのが、
医師、パイロット、商社マン、公務員、実業家といった職業だ。
時代と共に多少の変化はあっても、上位はほぼ変わらない。
一方、男性が合コンしたいと思う女性の職業として上位に挙がるのは、
キャビンアテンダント、看護師、保育士、OL、歯科衛生士などだそうだ。
 
この手の質問に、ここに挙げた職業を嬉しそうに答える人と出会う度に、
「またか」
「出たよ」
「お前もか」
心の中でそんな風に呟いてしまう私がいる。
 
多少の接点があって、その業界のことを少しは知っている職業もある。
だからと言って、個別の職業の悪口を言うつもりはない。
ましてや、実際に自分が仕事で接点を持ったことのない職業の人のことを、聞きかじった話や勝手な先入観だけで、どうこういうつもりはない。
ただ、私はここに挙がっているような職業の人に、特別な憧れを持ったことがないのだ。
それだけは、20代の頃から少しも変わらない事実だ。
 
正直に告白すると、「本気の合コン」自体、私は行ったことがない。
合コンというには気楽すぎる雰囲気の、飲み会に毛が生えたような集まりに、人数合わせで呼ばれて参加したことが数回あるという程度だ。
そんな私が、唯一この職業の人となら、ぜひとも合コンしてみたいと思うのが、葬儀屋さんだ。
 
冠婚葬祭などと四字熟語でひと纏めにして言われるが、お葬式というものは結婚式と違って、いつ執り行うかを事前に決めて準備できるものではない。
人が亡くなってから葬儀を執り行うまで、時間的な猶予がないケースがほとんどだ。
突然の肉親の死に接し、悲しみに暮れ憔悴している遺族とのコミュニケーション、遺産相続問題や愛人・隠し子発覚など、骨肉の争いが巻き起こる中での業務となることもあるだろう。
その他、どのような予期せぬトラブルやハプニングにも対処せねばならず、間違いや失礼があっては許されない。
 
そんな葬儀の業界で、優秀な社員、もしくは葬儀屋さんの経営者として実績を残している人であれば、体力も精神力も、一般常識も問題ないはずだ。
葬儀屋さんが務まる人ならば、世の中のほとんどの仕事ができるはずだ。つぶしがきく。
まず、食いっぱぐれることはないだろう。私は本気でそう思っている。
 
なぜ、私はそんなにまで葬儀屋さんという職業を高く買っているのか。
それは、同居していた父方の祖母の葬儀を通して目の当たりにした、ある葬儀社の2名の社員さんの素晴らしさが忘れられないからだ。
 
祖母が亡くなったのは、1999年8月7日土曜日の早朝だった。
その週は、当時、私が務めていた職場で、職員の家族の訃報が続いていた。
まさかの3件目が、うちの祖母になるとは何という巡り合わせなのだろうと思った。
職場に忌引の連絡をした際、決して悪い冗談など言うはずはないのに、一瞬信じられないという反応をされた。
 
近年、都市部では自宅で葬儀を行う家庭はかなり少なくなってきている。
しかし、祖母の葬儀は、父の強い意向で、葬儀社のホールではなく自宅で執り行うこととなった。
父は電気管理技術者として自営していたので、届けられる弔電の数は凄まじかった。
私は父から弔電を整理する担当を命じられた。
たまたま、その週に続いた勤務先の同僚のご家族の葬儀に参列したこともあり、私は弔電の取り扱いの重要性を理解していた。
私は送り主と届いた弔電のランクをノートに記録した。
 
葬儀社のベテラン社員からは、どれを読み上げるか、3~5通程度あらかじめ選んでおくように指示された。父に確認すると、3通ではとても収まりそうにないので、時間の許す限り読み上げてもらうようにと言われた。
さらに取引先との関係性で、読み上げる順番も重要だから、絶対に間違えないようにと細かく指示をされた。
私は新たに弔電が届く度にノートに書き加え、読み上げ対象か否かの確認をした。
告別式直前に届いた弔電を読み上げ対象に加え、さらに読む順番も変更しろと父に言われた。
私は父とベテラン社員との間を、告別式ギリギリまでメモをもって走り回った。
かなりややこしいことを言って困らせてしまったと思うのだが、父が強引にねじ込んだ最終的に7通ほどの弔電を、葬儀社のベテラン社員は一切の間違いなく、完璧に読み上げて下さった。
 
もう一人の担当者である若手社員も素晴らしかった。
我が家のガレージの軒先には、誰も気づいていなかったが、何と大きな蜂の巣があったのだ。
祖母の田舎である滋賀県から駆けつけてこられた親戚のおじさんが、告別式の日の朝、玄関を掃除していて偶然見つけられ、大騒ぎになった。
もし、告別式の間に蜂が大量に飛び交ったりしたら、大変なことになる。
告別式が始まる前に、どうにかして処分しなければならない。
どうにかと言っても、いったい誰がどうするのか?
私はすぐさま、葬儀社の若手社員に助けを求めた。
 
正直、とても酷な話だったと思う。
昔。京都市の公務員だった母方の伯父さんが、保健衛生局の仕事で蜂の巣駆除をされていた時の話を聞いたことがある。
どれだけ大変な仕事か知っているだけに、何と気の毒なことを頼んでいるのだろうと思った。
しかし、「無理です」と断られるようなことはなかった。
 
「ちょっと待ってください。新聞紙と、何か長い棒のようなものはありますか?」
 
若手社員からそう言われ、私は言われるがままに新聞紙と竹ぼうきを差し出した。
私はとにかく虫が苦手なので、近くで見ていることができず、すぐに家の中に逃げ込んだ。
真夏のうだるような暑さの中、葬儀社の若手社員は、額や首筋から滝のような汗を流しながら、慎重に蜂の巣を片づけて下さった。
まだ若いのに、何と素晴らしい対応なんだろう。
私には、この時、彼が世界一かっこいいヒーローに見えた。
そして、結婚するなら、何でもこなせる葬儀屋さんがいいかもしれないと思ったのだった。
 
実は私は、小さい頃からずっと、結婚相手の条件を訊かれると、いつも決まって
 
「ゴキブリを黙ってサッと殺してくれる人」
 
と答えていた。
蜂とゴキブリを一緒にするなと怒られるかもしれないが、私にとっては自分を恐怖に陥れる対象である虫なので、どちらも同じようなものだ。
その虫をサッと始末してくれた人は、まさに理想の結婚相手そのものではないか!
 
アラフォーと呼ばれる年代となって久しい今、もはや合コンのお誘いが来ることもないだろうし、自分から企画することもないと思う。
そもそも、私は結婚願望すらないので、「どんな職業の人となら合コンしたいと思うか」なんてことを、真面目に考える必要など全くないのだ。
しかし、もしこの先、合コンをする機会があり、その相手を職業で選べるならば、私は絶対に葬儀屋さんがいい。
人気の職業ランキング圏外なら、むしろ競争相手が少なくて好都合だ。
誰が何と言おうと、私は絶対に葬儀屋さんがいい。
 
 
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2017-06-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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