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仕組まれたモテ期。


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記事:近藤裕也(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
あなたは「モテ期」を経験したことはあるだろうか。
同じ時期に、複数の異性から一斉に好意を抱かれる奇跡を、私たちはモテ期と呼ぶ。
そんなモテ期が、もし誰かによって仕組まれたものだったら、あなたはどう思うだろうか。
 
これは「仕組まれたモテ期」というダンスホールで1人踊らされた、哀れな僕の物語である。
 
 
「今度のコンパ、男性が少なくてさ。良かったら来ない?」
 
ある夏の日、夜、18:30。
僕は、先日の交流会で知り合った大野さんに誘われたコンパの会場に到着した。
見渡すと、相手はイケメンの大野さんの知り合いだけあり、モデル級の美人しかいない。
いつもならこんな状況に胸を高鳴らせる僕だが、今日はどこか戸惑いを隠しきれずにいた。
 
その理由は、「会場の男女比率」にあった。
会場にいた女性は全員で45人。それに対して、男性は僕を含め、たったの5人。
まるで女子校が1クラスだけ共学にし、男子生徒の募集に失敗したかのような男女比だ。
 
大野さんは、そんな状況に動揺していた僕を席へと誘導した。
ついたテーブルにいたのは当然、僕以外みんな女性で、みんな美人だった。
 
 
「ねぇ、近藤さんはどんな女の子がタイプなの?」
 
この状況に馴染んできた頃、隣にいた凛ちゃんがこっそり、僕に声をかけてきた。
ゆるく巻かれた長い髪、きれた顔立ち。ふわっと香るエルメスの香水が心地いい。
椅子の淵を持ったその手の小指が、今にも僕の脚に触れそうだった。
 
「優しくて、仕事を応援してくれる人がいいかな」
 
「ふふっ。私、仕事頑張ってる人好きだよ。当てはまってるといいなっ」
 
これは奇跡だろうか。
彼女と出会ってまだ数十分なのに、僕の頭の中にはあらゆるヒット・ラブソングが流れている。
彼女との会話は盛り上がり、丁度デートの約束をし終えた頃、大野さんに席の移動を促された。
惜しい気持ちで振り返り彼女を見ると、小さく手を振りながら、声を出さずに「また後でね」と口を動かしている。その仕草がまた、色っぽい。
 
会場では、他にもたくさんの奇跡の連続に遭遇した。
何度か席移動はしたが、どのテーブルでも必ず、女性側から連絡先を教えてほしいとせがまれる。
トイレ前で女性が1人待っていて、テーブルじゃ恥ずかしいからと、こっそりアプローチされたこともあった。
断っておくが、僕は特別イケメンでも何でもない。似てると言われる芸能人は「ロバートの秋山」、動物は「シロクマ」。それでもモデル級の美人、総勢5人から連絡先をせがまれたのだ。
これをモテ期と言わず、何と呼ぶのか。帰宅後も、僕はしばらくこの夜の余韻に浸っていた。
 
 
コンパから2日後。
仕事終わりに、僕と凛ちゃんは心斎橋にある焼き鳥屋でデートをしていた。
この時はお互いの家族や仕事、恋愛観の話をしていたが、彼女との時間は相変わらず楽しい。
そのせいかすぐに時間が過ぎ、気がつくとコース料理の提供が終わって、退店を促されていた。
 
「ねぇ、良かったらもう1軒行かない?」
 
彼女が僕を誘った時、時刻はまだ21:30。
近くに彼女お気に入りのバーがあり、そこのモヒートが絶品らしい。了承すると、彼女は嬉しそうに腕を絡めて、バーへと向かった。
一気に近づく距離を夢かと疑ったが、あの日と同じエルメスの香水が、隣にいる女性を彼女であると教えてくれた。
 
「ゆうやくんって、肌すごく綺麗だよね。何か使ってるの?」
 
薄暗いバーのカウンター。モヒートのグラスで少し冷えた凛ちゃんの指先が、僕の頬に触れた。
酔っているのか、彼女はとろけた目をして、何度も何度も僕の頬に触れる。
そして次第に、その冷たい手全体で僕の頬を覆うように撫で、一言呟いた。
 
「この肌、もっと綺麗になると思うよ。これ、知ってる?」
 
そう言うと、彼女はバッグの中から1本のボトルを取り出した。
持ち運ぶには大き過ぎるサイズ感。ブランド名は見たことがあったが、思い出せない。
しかし、彼女から出てきた次の一言で、僕はそのブランドが何かを思い出すと同時に、自分の置かれた状況を理解した。
 
「これね、私が売ってる化粧水。実はねー……」
 
 
そうだ。
彼女の口から出てきたのは、紛れもなく業界最大手のマルチ商材ブランドだった。
 
彼女は猛烈に興奮しながら、僕に語りかけた。
このブランドはすごい、世界にたくさん会員がいる、ゆうやくんも始めた方がいい……。
この展開に危機感を感じた僕は、彼女の話を遮り、マスターにチェックをお願いした。
 
別れてからも、LINEでしつこく勧誘してくる彼女のトークを、そっと消した。
バーに向かう際、腕を絡めたのは、「捕まえた」「逃さない」のメッセージだったのだろうか。
いずれにせよ、彼女が商材の勧誘目的で近づいてきたのはショックだった。
だが、幸いにも僕の手元には、まだ4人の美人が残っている。凛ちゃんのことは忘れ、潔く気持ちを切り替え、次に期待することにした。
 
 
それから僕は、あのコンパの日とはまた違った奇跡の連続に遭遇する。
あの日、連絡先をせがんできたあの子も、トイレの前で偶然を装ったあの子も、まるで合言葉のように必ずあの言葉を口にした。
 
「ゆうやくんって、肌すごく綺麗だよね。何か使ってるの?」
 
これはデジャビュなのか。いや、もはやバタフライ・エフェクトだ。
あの日出会った誰と、どこに行っても、会話は必ずそこにシフトしていく。
まるで出会ってから今日までの全てが、ここに向かうための導線だったかのように。
 
 
「大野さん、あそこにいた子達、何なんですか?」
 
最後の1人とのデートを終えてから1週間後。僕は大野さんと、難波駅近くのカフェにいた。
僕が彼に問いただすと、彼はスコーンを一口かじってコーヒーを啜り、ニヤリと笑った。
 
「あれ、気付いちゃった? 残念。君はいけると思ったんだけどね」
 
そう言うと、彼はまるで降参したように、コンパの種明かしを話し始めた。
 
大野さんは、あのマルチブランドの卸元である「親」をしており、あそこに参加していた45人の女性は全て、大野さんと契約している「販売者」だった。
彼は定期的にコンパを開催し、参加者たちをモデル顔負けの美人たちの色仕掛けで畳み掛ける。
そして最終的に、あのマルチ販売に加担させて、美人たちの下に販売者を作り、自分の収益の柱を立てようという魂胆だったのだ。
つまり、僕があの夜体験した奇跡の「モテ期」は、大野さんによって最初から仕組まれたもので、僕はそれに気付かずにこの身を任せ、踊り狂っていただけだった。
 
 
大野さんからは、未だにコンパのお誘いがくる。当然、毎回丁重にお断りをしている。
美人とのランデブーも捨て難いけど、もう誰かの餌食になるのはごめんだ。
そう思いながら、今日も僕は懲りずにまた、街中の美人のお尻を目で追っている。
 
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2017-11-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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