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プロフェッショナル・ゼミ

吉松神社の初恋賽銭箱《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミプロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:永尾 文(プロフェッショナル・ゼミ)

■少女はなぜ好きな人の第2ボタンを賽銭したのか?
今思い出してみると昔はとんでもない雨女だった気がする。小学校の6年間、中学校の3年間で、何度運動会や遠足が中止になっただろう。修学旅行も雨。熊本城でずぶ濡れになった写真が今も残っている。

その日も、当たり前のように雨が降っていた。空は晴れているのに、静かに雨が降っていた。雨は光に照らされて、空中に引かれた直線のように見える。
春の陽気を感じるにはまだ少し早い、3月の頭。最後に袖を通す制服のブレザーは濡れて、生地の紺色を濃くしていた。
体温は奪われるどころか、時を追うごとにぐんぐん上がっていく。古びた石段を一段飛ばしで駆け上がる。息が切れて、足が止まりそうになる。ただでさえ歩きづらいのに苔の生えたところが雨でぬるついて、ローファーが滑りかける。
だからって歩みは止めない。転んだっていい。
一刻も早く、たどり着きたかった。
赤い鳥居をくぐる。
丸い砂利の道を進む。
逸る心を抑え、口や手を清める。
初詣や七五三の日と違って、今日は多くの人とっては何でもないただの平日だ。だからこそ、私は堂々と神様の一番前の席を独り占めできる。神前に立つと、自然と背筋が伸びた。

あー、神様。ねぇ神様。
みすぼらしい格好をお許しください。
けれど、今日は最後の日だから。いいですよね、ブレザーの変な場所に皺が入っても、スカートのひだが完全に崩れてしまっても。明日からは別の制服を着て別の私になるんだから。
ねぇ神様。私の願いを聞いてくださいますか。
もしくは、切実な愚痴を。
私が制服のポケットから取り出したのは五円玉ではない。
賽銭箱目掛けて、大きく振りかぶった。オーバースローで勢いよく投げたそれは弧を描いて、最奥の暗い隙間に吸い込まれていった。まるでそこに投げ入れられることが最初から決まっていたかのように、きれいに納まる。
――さぁ、参ろうか。
ガララン! 鈴の咆哮!
二礼、二拍! 高らかに手を鳴らす!
誰もいないから遠慮はしない。私は声を張り上げた!
「絶対、絶対、ぜぇぇぇったい、見返してやる~~~!!」
最後に、一礼!
今、私は神様の目の前で宣言した。だから、できる。絶対にやってやる。

中学校の卒業式の帰り、私が吉松神社の賽銭箱に投げ入れたのは町田くんの第2ボタンだった。
これは、屈辱の第2ボタン。3年間温め続けた恋心と、一瞬で胸を埋め尽くした激しい痛みが詰まっている。
ご縁がありますように、なんて、たかだか五円ぽっちで神様に頼るくらいなら、生々しい感情を生け贄に捧げてやる。
降り続いていた雨は、いつの間にか止んでいた。

■町田くんのこと
町田くんは私の幼馴染だ。声変わり前から彼のことを知っている。町田くんはどちらかというとおとなしい男の子だった。本好きで、穏やかで、優しい。と、言われている。
実際のところ、私はその評判をかなり疑わしく思っていた。私と一緒にいるとき、町田くんはものすごく口が悪い。面白くない本のことはぼろくそに言うし、クラスの人間関係にも中学生らしからぬかなり冷めた目を向けている。私だけはそのことを知っている。
町田くんはよく部活をサボる。生徒会の仕事があるから、と言い訳して生徒会室にこもってしまう。サボって何をするかというと、塾の宿題だ。宿題に飽きたら閉館後の図書館に堂々と本を借りに行く。生徒会役員の特権をフルに使いすぎなのだ、彼は。
一方私は、勝手に本を借りてきた町田くんの右横で、彼が苦手な英語の宿題を解く。町田くんのことをとやかく言えないほど、生徒会役員の特権をフル活用していた。好きな人とふたりきりの空間をこうして手に入れているのだから。
「ねぇ、would you~? とcould you~? の違いって何」
「英語苦手な俺に聞かないでよ」
「だって、ここまだ習ってないじゃん。解けるわけないよ」
「よかったね。塾行ってないのに英語の予習できて」
町田くんは人に宿題をさせておきながら、ハリー・ポッターの新刊から顔を上げようとすらしない。こら、と頭をはたくと邪魔をするなと言わんばかりに背を向けてきたので、ばしばしと筆箱を使って叩いた。
学ランを羽織った背中が思ったより広くて、私はどきどきしてしまう。こうして叩いているのも9割くらい照れ隠しだ。残り1割は少しの優越感。気やすくケンカができる間柄だからこそ、私は他の女の子よりも町田くんの近くにいると確信できた。
町田くんを優しいとか、いい人だと言って憧れている女の子に、内心舌を出していたのだ。おあいにくさま。町田くんには、私にしか見せない顔があるのよ、と。
「今度のいじめ意識調査、前より良かったらいいな」
「良いってどういうこと? いじめられている人の数がゼロになるってこと?」
「当たり前じゃん」
そう言い切ると、町田くんは私を鼻で笑う。
「仮にアンケートでいじめられてる人の数がゼロになっても、俺はいじめがなくなったとは思えないな。むしろ、不安になる」
「どうしてよ」
「先生が見るわけでもない生徒会主催のアンケートで『いじめられてます』って告発できなくなるってことは、生徒会が信用されていないってことでしょ。もしくは集計する生徒会役員の中にいじめてる奴がいるってこと」
「町田くんって世の中を斜めに見るの好きだよね」
「そっちが素直すぎるだけ。あんまりお人好しだと、いい小説書けないよ」
「うるさいな。余計なお世話」
昔から頭のいい男の子だった。優しくなくても穏やかでなくても、その頭の良さに惹かれた。素直でバカな他の男子中学生とは比べ物にならない。当時私の知る中で、一番刺激的な男の子だった。
町田くんは私にとって最初の読者でもあった。当時から、こっそり小説を書いていた私は、友達にそそのかされ、生徒会役員を登場人物にした冒険小説を書くことになった。当然町田くんも物語の登場人物だったので、モデルの当然の権利として検閲を要求してきたのだ。
本好きな町田くんには稚拙な小説をぼろくそにけなされるだけだろう、と思っていたのに、彼は無印のA5ノートを突き返しながら「続きは」とだけ言った。
毎日少しずつ書き溜めて提出し、「続きは」と催促される。
ふるえるほど嬉しかった。町田くんを好きな女の子として、物語の作者として、これ以上の幸福はなかった。

中学生の私はとにかく町田くんに夢中だった。私は好きな気持ちを隠そうとしていなかったし、生徒会活動で一緒にいる時間も長かったので、周りからはよく「好きなんでしょう」「付き合ってるんでしょう」と聞かれた。「付き合ってないよ」と笑って否定するたびに、心の中で「今はまだ」と付け加えるような、バカな女子中学生だった。
町田くんは私のことを嫌いだとは思っていないはず。口が悪かったり部活をサボったり、他の人には見せない素の部分を見せてくれているのだから、どちらかというと好きの部類に入ると思う。
だけど、時折見せる彼の冷めた眼差しに、惹かれながら怯えていたのも確か。クラスの誰それくんはこの子と付き合ってるらしいよ、とか誰それちゃんは他のクラスの男の子のことが好きらしいよ、とか中学生らしい恋バナを吹っ掛けるたびに、町田くんは私を冷めた目で見た。くだらない話題、と一笑されたこともあった。
もし私が、町田くんに好きだと言ったらどうなるのだろう。町田くんを好きだと思う私の感情を否定されてしまったら、立ち直れる気がしなかった。
親友のY子は何かにつけて「告白しなよ」と言うのだ。はっきりした性格の彼女は「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」とマリー・アントワネットの再来かと思うくらい、いともたやすく口にする。そのたびに、「そんなに簡単じゃないの」と顔を真っ赤にして反論した。パンもお菓子も手に入れられない時代ではないのに、どうしてただ「好き」と言うことがこんなに難しいのか、マリーもといY子にうまく説明することはできなかった。
高校受験より、将来の夢より、町田くんに告白するかどうかの方がよほど私の頭を悩ませた。雪の降る2月に同級生より早く志望校に推薦合格しても、心のもやもやは晴れないままだった。
そして私は、卒業式を迎える。卒業式は晴れるといいな、と思っていた。前の年の卒業式は雨で、卒業生は花道の代わりに校舎の廊下を闊歩して回ったのだ。1年生、2年生の教室の前を練り歩く卒業生は下級生に目をつけに来る厄介な先輩のようで、せっかくの卒業式なのに何となくかっこ悪かった。卒業式は絶対に晴れてほしい。後輩たちの拍手の雨の中、校門に続く花道を歩いて帰りたい。当日の朝きれいに晴れた青空を見てひそかにガッツポーズをした。
今日、町田くんに告白をしよう。青空の美しさに背中を押されて、そう決意を固めたはずだった。花道の中で、胸に赤いバラを刺した町田くんを見つけたとき、私は声をかけようと手を伸ばした。しかし、私の手はかわいらしい女の子の声に阻まれる。
「先輩、あの、第2ボタンくださいっ」
見知らぬ3人の女の子が私の周りを取り囲んでいた。
えっと、あの、私の、周りを?
「ええと、私?」
「はい! あの、私たち、生徒会で頑張ってる先輩の姿を見て、かっこいいなぁって憧れてて……。先輩、村松高校ですよね。合格おめでとうございます。私たちも先輩の後を追って村松高校目指そうねって言ってるので、来年また先輩の後輩になれるように頑張ります!」
「あ、ありがとう……」
そういえば去年卒業された生徒会の先輩が言っていた。「生徒会で役員やってると結構ファンがついて女の子でもボタンくださいって言われるよ」って。男子の学ランならわかるが、女子の制服はブレザーだ。第2ボタンが心臓に近い位置にあるわけでもないのに、何の価値があるのだろう。
と、いぶかしむも、後輩に憧れだと言われて悪い気はしなかった。
「ありがとう。ボタン3個あるから1個ずつあげるね」
「わぁ、ありがとうございます! 一緒に写真も撮ってもらっていいですか?」
「いいよ」
写真を撮り終えると、3人のうちひとりは驚くことに感激で泣き出してしまったので、なだめるのに少し時間を使った。
これが運の尽きだ。私は自分の株を落としてでも、一刻も早く町田くんのもとへ走るべきだった。
「どうしたの、その恰好」
やっとの思いで町田くんにたどり着いたとき、私は全身ぼろぼろになっていた。そのあとも何人か女の子につかまり、ブレザーの袖についているボタン、胸のバラ、学生カバンにつけていた犬のキーホルダーまで全部あげてしまった。追い剥ぎにでもあったの、と鼻で笑う町田くんはいつもと変わらない。
いや、いつもとどこか違う――。
「町田くん、第2ボタンはっ!」
「え?」
「第2ボタンっ、どうしたの!」
見事に第2ボタンだけがない。
なんでだよ、私でさえこんなにぼろぼろなのに。どうせなら町田くんも追い剥ぎに遭っていてほしかった。第2ボタンだけがないって、それじゃ、それじゃあ――。
まるで、好きな子にあげた、みたいじゃん。
私以外の、好きな子に。
目の前が真っ暗になってそのあと町田くんがなんと答えたのか、まったく耳に入ってこなかった。私が町田くんの一番近くにいたはずだったのだ。私にだけ、優しくもなくいい人でもない素の町田くんを見せてくれていたはずだった。
――そう、思い込んでいた。

花道を通り終えて、校門をくぐる。こんなに晴れているのに、私の心は完全にどしゃぶりだ。町田くんとは4月から同じ高校に進むことになるから、たぶん、高校でもよろしくね、なんて当たり障りのないことを言って平気な顔で別れたと思う。ちゃんと平気な顔を保てていたか、自分ではよくわからないけれど。
「おー、どうしたの、その恰好。ってか、顔も! ゾンビみたいだよ」
Y子が肩を叩いてきた。部活にも生徒会にも入っていないY子の制服はきれいだった。Y子のことだから、後輩にボタンをねだられたとしても「制服はきれいなまま保ちたいから」とか言って断りそうだけど、とにかく私はそのぴかぴかの制服が妬ましかった。
「Y子、ちょっと聞いてよぉ」
「その前に、あんたに元気の出るものをあげよう」
にやにやしながら彼女が掌に載せて差し出してきたそれは、
「Y子、これまさか……!」
「ふふふ。超レア、町田くんの第2ボタン!」
桜の模様が金で刻まれた、学生ボタン。一緒に写真も撮ってもらっちゃったー、と最新型の小型デジカメで証拠を見せつけられる。第2ボタンだけ外れている町田くんとY子がこっちに向かってピースしていた。
「感謝しなさいよー。群がってた女の子みんな蹴散らして、確保してあげたんだからね。今は後輩につかまってるみたいだから本人は来られないけど、町田くんのこと好きな女の子に渡しておくから第2ボタンちょうだいって、言っておいたから!」
Y子! 貴様が犯人か~!!
掴みかかりたい気分だった。群がってた女の子を蹴散らすだけでよかったじゃないか! どうして私が町田くんにたどり着くのを待っていてくれなかったのか! 無駄に意気消沈してしまったじゃないか!
「町田くん、誰が自分を好きなのか気にしてなかったの?」
「聞かれたけど、『それは高校生になったら本人がちゃんと告白しに来るから待っててあげて』って言っといたよ」
「言っといたよ、じゃないよ!」
ひどい。あんまりだ。Y子に文句を言うと、彼女は負けずに言い返してくる。
「なによ、どうせあの花道の中で町田くんに告白する勇気なんかなかったんでしょ。あんたに勇気があったら第2ボタンくらいなくなってても、体当たりで告白してる!」
……ぐうの音も出ない。確かにそうなのだ。本当に告白するつもりなら、あれしきのことで心折れたりしない。悔しくて悔しくて、ぽかぽかとY子を叩いた。
「ほら、第2ボタン。いらないの?」
Y子の手から町田くんの第2ボタンをひったくり、私はやけくそで叫んだ。「ありがとう!」と。

Y子にはどうしてわからないのだろう。一度他の女の手にわたった第2ボタンでは、意味がないんだって。
中学3年生にして私はすでに女なのだ。とびきり独占欲が強くて、町田くんに他の女の子より彼の近くにいることで安心してきた嫌な女。そのくせ、当たって砕ける勇気はない。砕けることがわかっていたら当たらずに引き返してしまう惨めな女。
第2ボタンを手にすることで、嫌な自分に気づかされてしまった。Y子と別れた後、悔し泣きをした。卒業式の最中より大量の涙が出てきた。
「最悪だ、屈辱だ。こんな私じゃ、嫌だ……」
通学路にある吉松神社の前で、ふと足を止める。
神様。ねぇ、神様。
高校生になったら、私は変われますか。このぼろぼろのブレザーを脱いで、ゾンビみたいな顔から、卒業できますか。
ぽつり、ぽつりと雨のしずくが落ちてきた。どうやら今から一雨降るらしい。意を決して石段に足をかける。ずぶ濡れになったって知るものか。どうせ今日で中学の制服に袖を通すのは最後になるのだから。
私は、変わりたい。変わりたいんです、神様。

■神様は何も叶えてはくれない
今年の夏、吉松神社にお参りに行った。近年では珍しいくらい、雨の降らない夏だ。連日の晴天に、水不足が懸念されるほど。
麦わら帽子に500mmのミネラルウォーターを携えて、家から30分ほど歩いた。デスクワークに慣れたからだは途中で何度も音を上げそうになったけれど、せっかく地元に帰ってきたのだ、一度は神様に顔を見せておかなければいけないと思った。
ああ、第2ボタンを賽銭したこともあったなぁ、なんて恥ずかしい記憶を呼び起こしながら強い日差しを浴び続けた。
結論から言うと、あの後、私は見事町田くんに振られた。
「ごめん。友達としては好きだけど、それ以上には見られない」
たっぷり時間をおいて、返ってきた回答に、逆に安心したのを覚えている。なにせ、ようやく町田くんに告白できたのは中学の卒業式からちょうど3年後、高校の卒業式だったのだ。私は推薦で地元の大学に進学が決まり、町田くんは関東の大学を志望していたので、思いが成就しても遠距離恋愛になればきっとうまくはいかないだろう、と思っていた。友達のまま別れられることに安堵した。
高校の3年間で、私たちの距離は決定的に離れた。私は高校でも生徒会役員になったけれど、町田くんは部活に打ち込むようになった。町田くんのいる理系と私の志望する文系ではクラスも分かれていたし、接点はほぼないに等しかった。町田くんと同じ部活に入っているM子から、「町田くんはモテるんだよ。Eちゃんっていう後輩が町田くんにべったりでね」と、様子を聞くだけで胸がざわざわした。
廊下ですれ違えば今まで通り会話をする。他愛ない会話で笑ったりもする。だけど高校生になって、町田くんの隣は私ではなくEちゃんのものになった。M子の「Eちゃんより、絶対お似合いだから自信持って」というフォローには何の根拠もなかった。
『高校生になったら』実際に、いろいろなことが変わった。進学校での勉強は思った以上にしんどかったし、小説を書くことが楽しくなって文芸部にも入った。生徒会の仕事で朝礼の司会を務め、広報誌を作ったりもした。町田くんとはあまり話せなくなってしまったけれど、私の高校生活はそれでもかなりキラキラしていたのだ。
高校の卒業式の後も吉松神社にお参りに行き、振られたことを報告した。ふがいない私ですみません、と五円玉を投げた。別れ際に自分の力で第2ボタンをもらえたから、中学時代の雪辱は果たせた。賽銭箱に投げる必要もない。
大学に入ってからは違う人に恋をして、恋人もできた。町田くんへの思いは実ることはなかったけれど私は今、ちゃんと、幸せだ。
鳥居をくぐる。砂利の道を進む。口や手を清める。吉松神社は変わらない姿で私を迎えてくれた。中学の制服も、高校の制服も来ていない私は、今度は神様に何を願えばいいのだろう。とりあえず、家族の健康と幸せか。
一礼を終えて、神様に背を向ける。そこで、タイミングを見計らったようにブブーと携帯が着信を告げた。中学時代の友人からメッセージが届いている。
――あぁ、懐かしい。Y子だ。
『やっほー。元気? 突然だけど、結婚することになりました!
この日、結婚式やるからぜひ来てね。あ、ちなみに……』
相変わらずおせっかいでデリカシーに欠ける。Y子の追伸に自然と頬が緩んだ。
『町田くんも呼んでるよ♪』

10年ぶりに町田くんと再会して、私たちはどんな話ができるだろう。
いまだに小説を書いていると言ったら、彼は私を鼻で笑うだろうか。それとも、ぶっきらぼうに「続きは」と催促してくれるだろうか。
恋ではない関係で、彼と再会できる日が楽しみで仕方ない。
もう一度神前を振り返り、私は神様に向かって親指を立てた。

 

 

*この記事は、「ライティング・ゼミプロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

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