自分のデッキを作れ!《リーディング・ハイ》
記事:江利 宇都沙 (リーディング&ライティング講座)
年明け最初の仕事帰り、池袋へ足を延ばした。
普段は世田谷の事務所でPCと向かい合っていることが多く、チャリ圏内でしか動かない私だが、偶然恵比寿での仕事が入り、同じ山手線沿線にある、かねてから行ってみたいと思っていた本屋さんへ行ってみることにした。
名前は「天狼院書店」
FB友達が紹介していたのだろう。
FBでよくこの名前を見かけるようになり、なんだかおもしろそうなことをやっている本屋さんだなと思って、チェックしていたのだ。
店にたどり着くと、つるっとした頭の男の人が、数人の人たちを前に、
こたつの隣で、ホワイトボードを使いながら話していた。
一瞬「ここ、本当に本屋?」と思い、足が止まる。
すると店員さんと思われる人が私に話しかけてくれて、
「大丈夫、本屋だった。自由に本見てていいんだ」とホッとした。
その後、私は店員さんたちと話しながら、
1冊の本と「インプット論+アウトプット論」の動画を購入し、
店員さんたちとFB友達になってうちへ帰った。
まさか本屋へ行って、そこの店員さんとFB友達になるとは思わなかったなーなんて思いながら。
次の日、冬休み中の次男から「やろう!」とゲームに誘われた。
「デュエルマスターズ」というカードゲームだ。
小5の次男が今一番はまっているカードゲーム。
サンタさんにお願いしたプレゼントも
「革命ファイナル拡張パック最終章 ドギラゴールデンvs.ドルマゲドン」
というけったいな名前の付いたカードBOXだった。
ただの紙に絵や文字がついてるだけで5,000円!
ビックリしたけれど、それでもサンタはやってきて、次男は大喜びしていた。
さてこのカード。
やたらキラキラしていたり、戦いモードの絵やかわいいキャラクターっぽい絵がついていたり、いろいろある。
斜め隅に数字。左下にも1000単位の数字がついている。
そこから40枚とって戦うわけなのだが、はじめは意味も分からずカードを出し、
気が付いたら負けていた。何が面白いのかさっぱりわからなかった。
ところが次男から「自分のデッキを作ってみなよ」
と言われ、カードの説明を聞きながら100枚以上はあるカードの中から自分のデッキを作り始めたら、俄然面白くなった。
デッキとは、戦うために揃えた自分の手札40枚のことを言う。
最初はキラキラしたカード、強そうなカード、タイトルが面白いものに引かれ、そればかり集めて、撃沈。
強いカードは最初のうちはなかなか出せず、出そうとするころには負けが込んでいる。
このカード、タイトルがあって、絵があり、その下にものすごく小さい字でいろいろ書かれている。
最初はキラキラ具合、絵、数字の大きさしか見てなかったのだが、
実はその、ものすごく小さい字の羅列にいろんな戦い方が書いてある。
それを読み込むと、戦い方がわかってくる。
次男なんて、カードをちらっと見るだけで、タイトルを聞いただけで、
そのカードの能力すべてがわかっているようだ。
とりあえず、手札にあるカードの小さい字を隅々まで読み込んで、戦う。
すると、カード1枚1枚に対する想いも違ってきて、
どの場面でどう使おうか、
どのカードがこの戦いの切り札となるのか、1枚カードを出すのにさんざん考えるようになる。
相手のカードに同じものがあれば、
やっぱり相手も持ってたか。
ここで使ってくるんだな、なるほど!
などと感心してみたり、
たかがカードゲームと思っていたものが、
すっかり面白くなり、自分の手札たちに愛着さえ感じるようになる。
これって、本と同じだ。
本もカードもただの紙に字や絵が印刷されただけのもの。
でも、その中にあるものは計り知れない。
派手にキラキラしているものもある。
タイトルが奇抜なものもある。
数字に0がいくつも書いてあるものも、ある。
けれど、本当に自分のそばに置いておきたいものは、
その部分ではなくて、何度も何度も読み込んだ、中身だ。
その本の、そのカードの本当の力を知った時、
それらは自分のデッキに、自分の本棚に仲間入りする。
そして、ここだ!と思った最高のタイミングで、その切り札を使う。
次男たちは友達と放課後暗くなるまで、カードゲームをして遊んでいる。
そうして友達とどんどん仲良くなっていく。
私たちも、本を読みながら、読んだ本について語りながら、
「困った! どうしよう!」と思った時にその一文に助けられたり、
うつうつとした時に手に取って読みふけり、晴れやかな気持ちになったりしてきた。
大好きな本たちをひとまとめにして、日々を旅していけたら、それはなんて楽しいことなのだろう。学校から帰ってきたその瞬間、自分のデッキを片手に、うちから飛び出していく次男のように。いつかカードではなくて一冊の本が次男の片手に収まる日も近いかもしれない。
先日私の手札にまた一冊本が加わった。
初めて訪れた「天狼院書店」で購入した、初めての一冊。
今までの来し方を思うとき、
才能というものについて、
時代とは何なのか、
自分の仕事は何か
家族のことを考えるとき、
何度も何度もこの手札を読むことになるだろう。
元書店員の私が、今の仕事を基本に、
しかし全くゼロから実店舗を始めようと、事務所を壊し始めたまさにこの時に、
偶然に出会ったこの本。
なぜ?
「そっちの方がおもしろいからに決まっているでしょう?」
私の中の最強カードになりそうだ。
「蔦屋」 谷津矢車 2014年
………
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