【豊島区役所新庁舎オープン】変わりゆく池袋、変わらない池袋《ねえさんのカルテ》
「池袋って、変な街よねぇ」
実はわたくし、天狼院書店のスタッフでありながら、ヘアサロンのスタッフでもある。
池袋駅東口から、ちょっぴりせかせか歩いて7分。路面店は働いている姿が外から見られて恥ずかしいから、というオーナーが作った、ビルの中のヘアサロン。そこが私の職場だ。
池袋という土地柄か、学生からご年配の方まで、ご来店頂くお客様の年齢は幅広い。
そんなお客様の中には、長年池袋で過ごしてきた方が多くいらっしゃる。
近頃、新しい商業施設や、区役所の移転などで注目を集めるわが池袋は、その影響か『池袋本』的なガイドブックをよく見かけるようになった。
そんなガイドブックをペラペラとめくりながら、お客様が発したのが冒頭の言葉である。
東京都豊島区、池袋。
故郷の北海道から、右も左もわからぬまま上京してきた私を迎えいれたのが『池袋』という街だった。
最初こそ、昔流行ったドラマ(池袋ウエストゲートパーク)の影響もあってか『池袋はきっと怖い人がいっぱいいるんだ……!』と、震えていた私だったが、すぐにこの『池袋』という街に慣れてしまった。
そもそも、私が想像していたような『怖い人』など、どこにもいなかったし、池袋という街は驚くほど『平和』だった。
山手線の内側にありながら、池袋にはどこか懐かしさがあった。
ビルの高さも、人の多さも、何もかもが私の故郷とは違うのに、どこか同じ匂いがした。
「なんて言うか……都会、じゃないのよ。池袋は」
そう言って鏡越しに笑うお客様は、呆れたような声音でいて、その表情はひどく優しかった。
「雑多で、どこかあか抜けなくて……だからかしら、こんなに長く住むつもりはなかったのにね。おかげで予定が狂っちゃったわ」
20年以上を池袋で過ごされてきたその方は、本当は2年程で別の街へと引っ越す予定だったと、悪戯っぽく笑いながら明かしてくれた。
それはまるで、住み慣れた街のことではなく、長年連れ添った旦那様のことでも話しているようだと思った。
池袋という街はつくづく変わった街だ。
そもそも、副都心なはずなのに都会っぽくない。街を彩る商業施設は、他の駅と比べても劣らないはずなのに、何かが違う。
女性ファッション誌で時折見かける『ストリートスナップ(その街の女性のコーディネートを紹介するコーナー)』で渋谷や原宿、新宿などの文字は並べど、池袋の二文字は一度だって見たことがない。
ウィキペディア先生によると「渋谷のハチ公に対して、池袋にも待ち合わせのメッカを」という理由で作られたらしい『いけふくろう』像も、確かに待ち合わせにはよく使うが、やはり認知度はハチ公に負けるだろう。
そんな“都会っぽくなくて、どこかあか抜けない”池袋が、なぜだか今、注目を浴びている。
WACCA(ワッカ)などの新しい商業施設ができ、豊島区役所新庁舎の上部のマンションは完売。
週末にはコスプレイベントなどが開催され、多くの若者が集うようになった。
そして驚くべきは、住みたい街ランキングの上位などに、池袋の名前を見かけるようになったことだ。
それを見た瞬間、「え? 嘘でしょ?」と思わずこぼしてしまったくらいだ。
勿論、職場である池袋が高く評価されるのは嬉しい。だけれども、どこか気恥ずかしくもあるのだ。
それはやはり、長年付き合ってきた恋人を褒められたときの気持ちに、ちょっと似ているかもしれない。
街は変わる。
池袋という街も変わってきた。そしてこれからも変わり続けるだろう。
しかしそのなかで、変わらないものも、きっとある。
“都会っぽくなくて、どこかあか抜けない”池袋を、呆れながらもこよなく愛する『ひと』たちがいる限り。
だから私は、池袋がストリートスナップに出ようが、
いけふくろうがハチ公以上にメジャーな存在になろうが、
首都圏住みたい街ランキングの1位を獲得しようが、多分こう言うのだ。
ちょっと気恥ずかしそうに。でも、優しさに満ちた笑顔で。
「池袋ってやっぱり、変な街よねぇ」と。
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