【手が届かないところへ】福岡行きの飛行機に乗れそうもなかったわたしは《みはるの古筆部屋》
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9月6日からわたしは福岡に行くはずだった。
あれは8月初旬のこと。「みはる、福岡行く?」と東京天狼院店長のなっちゃんこと、スタッフの山中に言われた唐突な一言がきっかけだった。
わたしは何も考えずに、「行っていいんですか!? 行きたいです!」と答えたことはまだ記憶に新しい。東京でしか働いたことがなかったわたしは、福岡で働いて帰ってくるスタッフを毎回羨ましく思っていた。8月初めのその時期は、同じ東京スタッフであるななみの福岡行きが迫っていたこともあって、その気持ちは最高潮に達していたのだと思う。だから、本当に何も、可笑しいくらい何も考えずに福岡行きを決めた。
元々、自分はお世話されるよりする側の人間だと思っている。去年、20歳を超えてからその考えはより一層強くなった。下に妹と弟がいる3人兄弟の長女というポジションで育ったわたしは、我がままを言ってはいけない、お手本にならなければならない、何でも知っていなければならないという「絵に描いたようなお姉ちゃん像」を無意識のうちに追い求めてきた。それは、完璧主義や甘え下手、特に世話焼きといった今のわたしの人格を作り上げるには十分だった。
誰かにお世話されるなんてまっぴらだ
と、思う。誰かにお世話されるより自分がした方がよっぽど心地いい。何か困っているひとがいれば助けたくなるのは、偽善でも何でもなくて「みはるだからできると思って……」とか「さすが、みはる!」とか言われたいからだ。そんな言葉をかけられる度に言いようのない高揚感に包まれる。そんなだから、みはるは煽てておけば何でもしてくれると思われた上で褒められているかもしれない。でも、それでもいい。それでもいいと思うくらいわたしは、世話される側になりたくなかったし、自分はそっち側の人間ではないと信じて疑わなかった。
世話焼きのわたしの周りには、当然ながら甘え上手なひとが多い。何もしないから、結局わたしが世話をしてしまうタイプ。やろうとはするができないから、結局わたしが手伝ってしまうタイプ。頼むのが上手だから、結局わたしが世話をしてしまいたくなるタイプ。
どのひとも、本当にうまいのだ。楽をするのが。
そんなひともいていいとは思う。わたしだって彼らから褒められて悪い気はしないし、なんたってわたしは元々お世話をする側の人間だから。
ただ、ばかだなとは思っていた。
自分で何もできないひとを世間は求めていない
このひとたちは、わたしを褒めてそれで満足なのだろうか
自分が褒められたいとは思わないのだろうか
自分で解決しようとする力が必要だと、まだ気づいていない
と。
だから、世話をされるひとには決してなりたくなかった。自分は自分自身のことも世話できていると思いたかった。
自分が乗るべき電車がわからなくて、福岡行きの飛行機の時間に間に合わないかもしれなくても、わたしは誰かのお世話になることを避けていた。
本当は少し前から気づいていた。「成田空港に行きたいんですけど…… どの電車に乗ればいいんですか?」と一言、誰かに聞けばいいってこと。そうすれば誰かが助けてくれること。飛行機になんて遅れないこと。でも、それはきっと誰かのお世話になることと同義だった。わたしが絶対になりたくなかった世話される側の人間になってしまうことと一緒だった。自分ひとりでなんとかしよう……
このとき、このまま誰かのお世話になっていなかったら
きっと
9月6日からわたしは福岡に行くはずだった。
なんて記事を書くことになっていた。
確かにわたしは、
お世話されるよりする側の人間だし
お世話して「さすが」と言われることも好きだし
実際、友人には甘え上手が多いし
そんな彼らをばかだとも思っている
けれど、それは自分の手の届く範囲だからだ。所詮、自分がお世話できるのは少し年の離れた妹や弟、自分より少しばかりできないことが多い友人や後輩、それだけだ。
8月の初旬にわたしが福岡行きを決めたときから、それは自分の手の届かない範囲に足を踏み入れることだった。わたしがお世話できるひとたちはそこにはいない。その範囲外では、自分は何もできないことも自分が1番知っている。
だから
自分が乗るべき電車がわからなくて、福岡行きの飛行機の時間に間に合わないかもしれなかったとき、わたしは「成田空港行きの電車はどれですか?」と駅員さんにすぐに聞いた。
自分の手の届かない範囲で、誰かのお世話になることはそんなに悪いことではない。
福岡に着いてから、わたしは誰かのお世話になりっぱなしだ。
初めて行く福岡天狼院の場所は、スタッフに逐一聞いた
福岡天狼院の近くのおすすめの飲食店は、福岡スタッフの大山さんにたくさん教えてもらった
福岡で食べた方がいいスイーツは、屋台で出会った地元の方に聞いた
仕事についてだって聞いてばっかりだ
そして
きっと、本当はこれよりもっとたくさんお世話になっている
東京で周りをお世話している自分はもちろん好きだ。けれど、誰かに何か聞いてお世話になっている自分も嫌いじゃない。
本当に小さなところで、自分が誰かのお世話をしているという感覚は
ちょっと遠く広いところで、誰かのお世話になっている実感よりも気持ちのいいものだったのだろうか。そんなことはもう思い出したくても思い出せない。大きなことを成し遂げているつもりになっているだけで、気づけば自分の手を伸ばして届く範囲でしか味わえない小さな高揚感に満足してしまっていたのではないか。
福岡に来て、そんなことを考えた。
福岡では、お世話になっているおかげで
おいしいものをたくさん食べることができているし、観光もできている。もちろん、仕事だって楽しい。やりたいことが、どんどん出てくる。
東京に帰って、また手の届く範囲のところに戻ったら
わたしは絶対お世話をするのだろう。お世話される側のいいところを知ってもなお世話焼きのままなのだろう。
それなら、今散々お世話になっておこう。知らないこと、わからないこと、いろんなことを教えてもらって帰ろう。
自分の手の届かない範囲で、誰かのお世話になることはそんなに悪いことではない。
天狼院書店「福岡天狼院」2015.9.26OPEN
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