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ライティング・ラボ

当選!? 困ったなぁ〜 マラソンを絶対完走できる方法


 

記事:楠田 誠一(ライティング・ラボ)

 

 

 

「すみません、マラソンの本はありますか?」

 

私は、週に1度だけ、平日の昼間の時間帯に書店でアルバイトを

している。そう、店番だ。

 

平日の昼間だから、来店するお客様は多くはない。

午後のゆったりとした、のどかな時間帯だった。

 

「いらっしゃいませ、マラソンの本は、いくつかありますよ」

「あのー、今日メールボックスを見たら、私、東京マラソンに当選してしまって」

「おぉ、それはそれは、10倍の倍率の中、おめでとうございます」

「だけれど、喜び半分。実は、とても困っているんです」

 

そのお客様に聞くところによると、42.195kmのフルマラソンは未経験で、

運動部の部活にも今まで一度も入ったことがなく、マラソンと名のつくものも、

高校時代に体育の授業で走った5キロが最長だった。

 

「そうでしたか。お薦めしたい本が一冊ありますよ、これです」

「ありがとうございます!」

「ちょっと、中味をパラパラとめくって見てください」

 

そうして、お客様は、本の立ち読みを始めた。

ところが、みるみるうちに、表情が曇っていった。

 

「あのー店員さん。この本、書いてあるのは1頁だけで、あとはまったく白紙なんですけれど」

「あぁ、よく気づきましたねぇ。そうなんですよ。少し不思議な本でしてね」

 

そう、この本は、かの天狼院書店のライティング・ラボにおける秘伝のABCユニット同様に、3つのことしか書いていない。

しかし、この3つのことを実践していけば、東京マラソンのフルマラソンは、誰にでも完走できてしまうのだ。

 

「店員さん、これって、本当に完走できるんですかねぇ、この3つだけで」

「はい、それでね、99%ぐらいは完走できるんですよ。これは、僕の友人が書いた本で、現に何十人もの人が完走できているんです。すでに実績のあるメソッドなんですよ」

 

「でも、店員さん、たった3つですよ!? 読んでみますね」

 

1:

ゆっくり走る。スピードはキロ7分。5時間以内の完走目標。

 

2:

最初に短く5キロを。徐々に10キロ、15、20と段々と距離を長くしていき、本番1カ月前に32キロを走ること。

 

3:

東京マラソンの実コースを何度も走ること。たまには皇居周辺のノンストップぐるぐる走。アウェイはやがてホームに変わる。

 

「それで、ここにQRコードが一つあるんですけれど」

「そう、それはね、Webページに連動していて、毎週お題が出て、ワンポイントも与えてくれるんですよ」

「では、なぜ他のページは白紙なんですか」

「それは、自分の記録なりメモなり、完走までのあなたの道のり、過程を書き込めるようになっているんですよ」

 

『歩くな、走れ。』

そう、この本は筆者の体験を元に書かれた。

 

2008年、筆者は東京マラソンを走った。

ところが、無理な練習が蓄積していたのか、32キロ地点で疲労骨折のために、リタイア。

脚にまったく体重をかけられなくなってしまったのだった。

もはや、歩くことも困難だった。

 

6カ月の松葉杖生活のときに、どうして自分がフルマラソンを完走出来なかったのだろうかと自問自答し、独自のメソッドを導き出したものだった。

失敗の要因を分析し、何が悪くて、何をどうすれば、ベストなのだろうかと考えに考えた。

 

『初フル塾』という、初めてフルマラソンを挑戦する人のための絶対完走できる特訓塾で実践された。

 

「お聞きしますけれど、どのくらいの人が実際に完走できたんですか?」

「2010年、14人中13人。2011年は、21人中21人の全員です」

「2010年におひとりだけ完走できなかったのは、どうしてなんでしょう」

「それは、まったく予想外、想定外のアクシデントでした」

「えっ、いったい何ですか?」

「なんだと思います?」

「筋肉痛があまりにひどくて断念されたとか」

 

答えは、まったく予想できない出来事だった。

コース途中、そのランナーさんがトイレに行きたくなり、トイレ待ちをしていたため、時間を大幅にロスして、関門時間がきてしまったのだ。

多くのマラソン大会は、コースの途中の何箇所かに、制限時間を設定している。

 

「トイレが原因だったんですか!?」

「そう、その年はとても寒く、雨も降っていた。途中に雪まじりにもなった」

「寒いとトイレが近くなりますものね」

 

それからというもの、2010年の失敗を活かし、トイレ対策がとられた。

練習会では、本番当日、絶対に並ぶことがない秘密のトイレの場所も伝授された。

 

本に書かれている3項目。

これには、ひとつひとつに重要な意味を持っている。

 

まず、一番目の項目、キロ7分で、5時間を目指す。

5時間と聞いて、怪訝に思う人も多いかもしれない。

確か、東京マラソンの制限時間は7時間ではないのかと。

 

初心者ランナーは、たいていこう言う。

「7時間の完走を目指して頑張ります」と。

ところが、この7時間という時間は、あまりに長い。

朝食を7時にとる。そのまま動き続けて、14時。それが7時間だ。

 

キロ7分、これは走りながら、隣の人と会話が出来るくらいのゆっくりさだ。

ビギナーランナーは、こんなに遅くて大丈夫ですか?と心配する。

けれど、このスピードで走り続ければ、5時間以内に完走できるのだ。

 

二番目の項目。

段々と距離を延ばしていく練習をする。

ビギナーが犯しがちなのが、いきなり長い距離を走ってしまい、

膝や足を痛めてしまう。いわゆる故障だ。

当選から本番まで4カ月しかない。

途中で故障をしてしまって練習できなくなる期間を作りたくない。

 

人間、不思議と倍の距離は走れるものだ。5キロの次に10キロ。

このぐらいは、段階を踏んでステップアップできる。

身体にひどいダメージを与えずに。

少しずつ身体に負荷を与えていくことで、筋肉も少しずつついてくる。

 

フィジカル面を考慮した策だ。

 

三番目の項目。

誰でも通勤のときなど、駅から自分の家までは、見慣れた景色なので、距離も短く感じる。同じ距離を初めて行く場所で歩くと、遠く感じるものだ。

また、よく野球やサッカーなど、ホームとアウェイとでは、ホームでの試合の方が勝率が高かったりする。慣れた場所では、リラックス効果もあるのだ。

 

メンタル面を熟考した上での方策になる。

 

東京マラソンの実コースだけの練習では、残念ながら、信号待ちが発生する。

それを補うために、信号のないコースで、止まることなく継続して走る練習をする。

本番はノンストップで走るためだ。本番だけは信号待ちはない。

 

 

初めてフルマラソンに挑戦する人は、実に年代もプロフィールも様々だ。

 

皆、何かを思い、東京マラソンに応募したのであろう。

 

下は20歳から、上は50歳の人もいた。

体重が100キロを超えている人もいた。

なぜか、看護師さんが多くいた。夜勤明け、夜勤前に練習に参加していた。

 

21人、これだけの人がいると、様々なドラマもある。

当日の朝、スタートを前にして、辞めようと考える人もいた。

「私、脚が痛くて、不安で、東京マラソン走るのを辞めようと思っているんです」

「練習不足で不安に思っているかもしれない。脚の痛みも耐えられないのかもしれない。けれど、せっかく倍率の高い東京マラソンに当たった。10年に一度走れるか走れないかのプレミアムチケットだ。記念ランでいいんじゃないかな。なんとか10キロでも走ってみたら? 走ってみて辛かったら途中で辞めればいい」

少し不安がゆるやいだのか、彼女はスタートラインに向かった。

 

朝、送り出した彼女は、10キロで辞めるどころか、42.195kmのフルマラソンを完走してしまった。

くだんの100キロ超ランナーの男性も、制限時間の15分前に完走した。

50歳にして、初挑戦の男性も完走した。

 

「ところで、あなたはどうして、今までにやったこともないフルマラソンに応募したんですか?」

「はい、何かこう人生を変えてみたくて」

 

そうなのだ、フルマラソンの完走は、人生を大きく変えてくれる。

つらい練習、そして大きな達成感。その後、自分は何にでも挑戦でき、それを達成することができるという成功体験を味わわせてくれるのだ。

 

「そう、あなたも完走することで、大きく変えられるきっかけになりますよ、きっとね」

 

送信ボタンの1回のポチリが、人生を変える。

ポチリも立派な行動の一つだから。

 

この本の最終ページは、実は1頁だけ印刷されている。

さきほどのお客様は気づかなかったのだろう。

 

私は、 時間 分 秒で、東京マラソンを完走した。

人生、二度目のスタートラインに、いま立った。

私は何にでも挑戦できるし、何ごとも達成できる。

 

 

 

***

この記事は、ライティングラボにご参加いただいたお客様に書いていただいております。

ライティング・ラボのメンバーになると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

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2015-05-26 | Posted in ライティング・ラボ, 記事

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