ライティング・ラボ

これを贈ると、たくさん返ってくるんです


記事:Tomoko Nakamura(ライティング・ラボ)

いやぁ、驚きました。

(いよいよ来たか)と思いました。

それは、先日(5/25)の地震のことです。

東日本大震災のときのような大きな地震が来るのではないかと、いつもびくびくしていたものですから。

なにしろ、あのときは日本中が混乱しましたもの。

あの日をどう過ごしていたかを尋ねると、誰もが語るわ、語るわ……。皆それぞれ、あの日についてのストーリーをお持ちなんですね。

震災の日ディズニーランド。その様子を、後の報道などで知った方もいらっしゃるかもしれません。

キャスト(スタッフ)が、それぞれ独自の判断でゲスト(お客さん)のケアをしたそうです。

あるキャストは、売り物のダッフィのぬいぐるみをゲストに配りました。頭にのせて防災頭巾の代わりにしてもらうためです。

別なキャストは、店頭販売のクッキーやチョコレートを無料で配布しました。お客さんに乞われたからではありません。避難中のゲストが、お腹が空かせているかもしれないと思ったからです。

またあるキャストは、お土産用のビニール袋や青いゴミ袋、そして段ボールまでも出してきて、寒さしのぎに配ったのです。本来ならディズニーで段ボールはご法度。「夢の国」にふさわしくないので、普段は決してゲストの目にさらさないものです。

これらは全てマニュアルにはない行動でした。

(うぉぉ。ディズニーやるじゃん)

私の心のなかで、「いいね!ボタン」です。

あの日にディズニーに行った人も、行かなかった人も、感動して、そしてディズニーに信頼をよせたのではないかと思います。

後々、ある統計を見て(やっぱりね)と思いました。

震災後に各地テーマパークが売上を落とすなか、ディズニーのオリエンタルランド社だけは一人勝ち状態だったのです。

他人を想ってプラスアルファの行いをする。

あ。そういう意味では、私の身近にもいました。そんな人が。

義父のヘルパーさんが、そうかもしれません。

義父は寝たきりで、常に眠っているような状態です。声をかけてもほとんど反応はありません。こちらが言っていることが分かっているのかいないのか、それすら判断しかねます。

そんな義父が、わずかに反応を見せるときがあるのです。

そのときは、ずっと閉じていた目を見開いたりします。

表情が動いたり、何かを話そうとするのか口をパクパクしたりします。

義父には、何人かのヘルパーさんが、日によって入れ替わり来て、身の周りの世話をしてくれるのですが、そのうちの一人に、年配の男性の介護士さんがいます。

この方が、本来の介護の仕事にプラスして、何かしら義父の喜びそうなことをしてくれるのです。

ある満月の夜には、義父の上半身を起こし窓の方に身体の向きを変えて、「○○さん(義理父の名前)、きれいな満月ですよ」と声をかけていました。

また、義父がクラシック音楽が好きだったと知ると、自宅でオペラ歌曲の練習をして、次に来たときに朗々と歌い上げてくれたりもしました。

こうしたことをしてもらったときに、義父は反応を見せるのです。

全て、そのヘルパーさんのオプショナルな行いです。

わざわざそんなことまでしなくても、決められた仕事だけやっていて構わないのです。プラスアルファしたからといって、お給料が増えるわけでもありません。

でも、そのヘルパーさんは、自発的にやってくれるのました。

どうやらその方は、義父に対してだけでなく、あらゆることについてそのような姿勢で向き合っているようです。

だからなのでしょうか、仕事以外のことで多くの方々からお声がかかり、繋がりができているみたいなんです。

私には、ずーっと不思議に思っていることがあります

それは、天狼院書店。ひいては天狼院書店の店長三浦さん。

天狼院書店では、ライティング・ラボやマーケティング・ラボといった講座を開いて、その道の極意を教えています。

(え? え? 本当にそんなことまで教えちゃっていいの?)と思うようなツボを、なぜか教えてしまう。手の内を明かしてしまう。

繁盛店が、人気メニューの秘伝のレシピを教えてしまうようなものです。

三浦さんが何年もかけて身につけたこと、一日に40枚もの原稿を書くような経験から学んだこと、それらをたった二時間の講座で披露してしまうのです。

そんなことをしたら、わざわざライバルを作るようなものではないですか。

こんなことを言うのもなんですが、小さな書店です、大規模企業に凌駕されるかもしれないですよ。

それなのに、どうして……。

天狼院が、ディズニーやヘルパーさんのように善意でこれらの講座を開いているとは思いません。受講料も取っていますし。

でも、し、知らないよ、どうなったって知らないよ。

ところが。

それは、私の杞憂でした。

秘伝のレシピを教えても、天狼院にライバルは現れませんでした。大規模企業にも凌駕されませんでした。

それどころか、ますます発展しているのです。

いまや天狼院は、出版業界からだけでなく、マスコミやら金融機関やら大学やら多岐にわたる分野から注目されるようになっています。天狼院の方から希望したのではなくても、先方からアプローチがあるのです。

天狼院が(ちょっと困ったな)という事態に直面していると、どこからかともなくイイ話が転がり込んできます。

天狼院自身、エンジンふかしまくってます。

私が不思議に思っているのは、どうして秘伝のレシピを教えてしまうのか。そして、それらを披露しても発展し続けるのは、どんな魔法を使っているからなのか、ということなのです。

ディズニーにしても、ヘルパーさんにしても、そして天狼院にしても、共通しているのは“持っているものを、惜しみなく出している”こと。

放出したら、失ってしまうのではないかと思うのですが、どうもそうではないらしい。

イメージ的には、こんな感じでしょうか。

「やらないぞ、誰にもやらないぞ」と両腕をぐっと抱え込んでいると、何も出てはいきませんが、胸を閉じているので入ってもきません。

これとは逆に、「どうぞ、どうぞ。じゃんじゃん使って」と両手を広げて放出すれば、出てはいきますが、胸は大きく開いているので沢山のものが入ってきます。

まぁ、そんな単純な話ではないような気もしますが。

もっと深く考えてみると、三者とも、何かを得るために自分の持っているものを提供しているのではないということ。

提供することそのものが目的になっているといいますか、何か芯を貫く考え方とか想いみたいなものがあるから、それに従って行動すると、自ずとそういうこと(惜しみなく出すこと)になっている。そんなふうに思うのです。

どんな仕事にも、本来提供すべきものがあります。ディズニーならディズニーとしての、ヘルパーさんならヘルパーさんとしての、書店なら書店としての、それ自体の仕事です。

それにどんなプラスアルファをするか、どれだけの付加価値をつけるかで、入ってくるものの内容や量が変わってくるのかもしれません。

なぜ“出せば入ってくる”のかは、私には説明できません。

でも、天狼院が今それを、現在進行形(~ing)で見せてくれています。

このまま天狼院を見守り続けていれば、いずれ(やっぱあの原理、本当だよなぁ)と思う日がくるのではないでしょうか。

天狼院書店は、只今てんろーいんぐです。

***

この記事は、ライティングラボにご参加いただいたお客様に書いていただいております。

ライティング・ラボのメンバーになると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

 

 

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2015-06-05 | Posted in ライティング・ラボ, 記事

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