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メディアグランプリ

静岡への小旅行 記憶に刻む起爆剤


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:一ノ瀬 朔(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
カツン、と。お互いのグラスで音を鳴らし、私と先生の宴は始まった。
 
「わざわざ静岡まで来てくれてありがとうな」
 
中学・高校とお世話になった先生が、神奈川から静岡の学校へ転勤になったのは今年四月の話。
 
転勤前の二月、元テニス部の同級生と先生で飲み会をしたが、その時は先生とはこれと言った会話はしなかった。
 
強いて言うなら、別れ際に「先生、今度、静岡まで会いに行きます」と、自分で思うほどに社交辞令っぽい宣言したくらい。
 
だからか、先生も、まさか本当に私が静岡まで会いに来ると思ってはいなかったみたいで、「会う直前になって、本当にお前が来るのか疑っちゃったよ」と笑いながら言っていた。
 
かく言う私も、緊張を誤魔化すように静岡名物の黒はんぺんをつまみながら、先生と対峙している今を非現実的に感じていた。
 
昔から、先生は生徒から慕われる人で、私はいつも、人に囲まれる先生の姿を一歩離れたところから眺めているばかりだった。それはそれで楽しかったし、当時は、それで満足していた。
 
盛り上がりの中心に混ざらず第三者として事を楽しむ性格は、依然として、私の中に濃く存在している。
 
それでも、三時間ほど電車を乗り継いで、先生とのサシ飲みを実現させたかったのは、私の中で温めていた起爆剤が爆発を起こしたからだった。
 
「私、先生に言われた言葉で、よく思い出す言葉があるんです」
 
それは、私が高校を卒業する日のこと。
 
卒業生の代表として答辞を読み終えた私に、先生は「お前らしい答辞だったよ」と言ってくれた。良い答辞だった、感動した、と色んな人が言ってくれた中で、“お前らしい”と言ってくれたのは先生だけだった。
 
「核心を突かれた気がしたんです。あの答辞、自分で思うほどに、捻りのない、つまらない文で。それまで、無難で型にはまった生き方に徹していた自分を指摘された気がしたんです」
 
「悪いな、そう言ったこと、覚えていないんだよ」
 
「全然。些細なひと言だったと思うので、覚えていなくていいんです」
 
自分にとって衝撃的だったひと言を覚えていないと言われても、不思議とショックは受けなかった。もう少し、寂しがってもいいんじゃ? と思いながらも、受けたダメージはゼロに等しい。
 
「長年、教師をやっている中で、これは本当に気をつけていて」
 
先生は、ほんの少し申し訳なさそうにしながらも、それを前面に出そうとはしていように見え、私は言葉の続きに耳を傾けた。
 
「自分が覚えていない発言も、相手にとっては何年も忘れられない言葉になることってよくあって。だから、俺は自分の発言には責任を持つようにしているんだよ」
 
あぁ、これが、三十年以上“先生”をしている方の言葉なのだな、と私は深く納得した。
 
今は忘れてしまったけれど、適当な思いつきで言った言葉ではないんだよ、とサラッと言える人は、今の時代、あまり多くはないだろう。
 
忘れた、ごめん。で終わらせない先生に、だからこの人の言葉は“起爆剤”として私の胸に居座り続けるのだな、と改めて実感する。
 
「あと、先生がテニスだけの人間にはなるなってよく言っていたのも、すごく記憶に残ってます」
 
「それはそうだよ。テニスだけの人間になったらバカになるからな」
 
「あの言葉があって、私、大学卒業した後、すぐに就職しなかったんです。学校とか会社とか、どこの枠にも所属しなくなった自分には何が残るんだろうって、知りたくなっちゃって。あの時の私は、勉強は得意でも、それ以外にこれと言った趣味がなかったので」
 
「勉強は悪いことじゃないけど、成績とか学歴に執着するのってカッコ悪いもんな。大事なのは、目標に向かって努力した過程なんだから」
 
それにしても、お前って、男っぽい考え方するやつなんだな、と先生は可笑しそうに笑う。
 
そこまで考えて、実際に試そうとするのってさ、世の中をどうにかして変えたいんだって、必死になっている男みたいじゃん、と。
 
今は、女の人だって革命家になれる時代ですよ、と茶々は入れない。
 
代わりに、皿の上に残ったままの黒はんぺんを食べようか悩み、そして、やめる。
 
「私、作家になりたいって思っているんです。小説を、書きたいなって」
 
それは、私の中で起きた爆発が導き出した、ひとつの決意表明だった。
 
無難でつまらない人間であることの自覚。自分の中にある可能性への疑問。
 
気づきを与えてくれた先生の言葉が、少しずつ大きく育ち、私に夢を与えてくれたのだ、と先生に伝えたくて、私は静岡まで訪れた。
 
先生は、私が静岡まで訪れた真意に気づいていないかもしれないけれど、それはそれで構わなかった。
 
「そしたら、色んなことについて知って行く必要があるよな。自分だけの世界を小説にしたところで、面白い話にならないじゃん」
 
そうして、私は先生の言葉を胸にしまい、また、時間をかけて温めていく。
 
アルコールの漂う思考の中、残った黒はんぺんに手をつけることも忘れて、他愛のない言葉の数々を記憶に刻んだ。
 
先生の言葉に限らず。
 
これは自分にとって大切な言葉だ、と思ったものがあれば、私はそれを小さな起爆剤として、とことん大切にしたく思う。
 
大切に温め、いつか、自分らしくない行動を起こすときの原動力になればいい、と重みのある言葉が爆発する瞬間を楽しみにするのだ。
 
そうすれば、この静岡への小旅行のように、懐かしくも新しい、不思議な時間を過ごすことができるかもしれないから。
 
またいつか、先生に会いに静岡へ行こうと思う。また、いつか。
 
 
 
 
***
 
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2019-11-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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