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進化系ズボラのすすめ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:シエナ(ライティング・ゼミ冬休み集中コース)
 
 
「的を射ていて、効率が良いのよ。シエナさんがセットアップすると」
 
 
あまり気が乗らないバックオフィス業務を依頼された、とある講習会の打ち上げの席で言われた言葉だった。それが褒められたのか皮肉を言われたのか、いまいち私にはわからなかった。顔ぶれは気難しく、変り者ばかりだったし、可能な限り深い関わりは持ちなくないと思っていた。そういうときに“不要なプロセスをすっ飛ばす”最小公倍数的な対応をするのは私の特技だったので、立て板に水を流すように運営したのだが、その行動の根本が「ズボラ」な性格から由来することは、後の自己分析でわかったことだ。
 
 
私は平日、秘書をしている。自分に秘書の適性があるとは思わないが、サポート業は天職であると感じている。もうかれこれ20年も秘書が続いている理由があるとすれば、私が「ズボラだから」に違いない。
 
 
一般的な秘書のイメージは、立ち居振る舞いに無駄がなく、意思がしっかりしていて、計画性があり、気配りが完璧な人物だろう。しかし私は決してそのような人間ではないし、コミュ障という減点があるので、人のあいだで橋渡しをすることはあまりなく、雇い続ける上司の私への評価がいささか疑問でもある。長所があるとすると、人付き合いが狭く深くて濃いぶん、秘書として業務上の秘密は確実に守ることはできる。
 
 
自己分析の結果はこうである。
“進化系ズボラ”
 
 
一般的なズボラ行動は日常生活に多々ある。会いたい人にはまとめて週末に会い、一週間分の買い物を済ませ、次週のお弁当を一気に作り置きする。朝に注文すれば夕方には届くAmazonプライムでさえ、面倒臭くてまとめ買いする。クローゼットの中身は時々シャッフルする。いつも手前にある服を着るからだ。
 
 
もはやミニマリストの域なのかもしれない。気が付くと、プロセスの面倒臭さから解き放たれようと試みている。仕事では業務フローを可能な限り削ぎ取り、行動が自然とシンプルになった。その結果ミスも少なくなり、思いがけず効率化した。
 
 
上司のスケジュール管理も無意識にまとまらせている。デスクワークに集中する時間、来客対応する時間、お腹が空く時間、休みたい時間。もし自分だったらこうすればラクできるだろうという単純な思考でスケジューリングすると、メリハリをつけながらテンポよく仕事を回せるようだ。上司が円滑に業務を処理できれば、引き継ぐ私にも素早く回ってくる。そうすると締切までの私の手持ち時間が増える。ちょっとした部下の知恵だ。
 
 
また、要点をかいつまんで伝えるのもズボラ思考からだ。伝わればいいメールの件名はこうだ。
「〇〇完了しました(本文なし)」
 
 
私からのメールは、本文を見る必要がない。本文があっても読んでわかってくれればいいのなら、開封確認ボタンを押してくれればそれでいい。情報の提供であったり、以後の処理をお任せしたりするときなど、やりとりが不要であれば「読んでいただければ返信は結構です」と書く。受信箱に返信された不要なメールを増やすのは、大切な要件の見落としの元になる、というのは建前で、やりすぎビジネスマナーにお付き合いし続ける心理的キャパがない。メールの宛名なんて、名字だけでいいじゃないか。
 
 
許される極限までシンプルにタスクをこなす方法に、私は「ズボラHack」と名付けた。やり方というよりは、向き合う姿勢そのものの要素が強いかもしれない。複雑に設計すると、それだけでモチベーションがダダ下がるからだ。ホームランを放った途端に三塁からサニブラウンが盗塁するくらい高確率で成功しそうなHackを作りまくりたい。
 
 

全国のズボラを自覚する皆さん。
ズボラは単なる面倒くさがりではなく、立派な処世術です。
あなたのズボラがスキルに化ける可能性を秘めているのです。
 
 
それはいわば、前向きな進化系ズボラ。巷のキラキラ人種の実に丁寧な暮らしや、熱量のあるビジネスマンのような勢いある振る舞いは、ズボラ自覚組にとっては真似できるものではなく、やれば十中八九で疲弊する。そうであるならば、自分のズボラ度に見合う進化をして、ラクに生きるのが一番の方法である。進化するコツは、時々は現状維持モードに入って、前向き過ぎないようにするのがいい。私が試行錯誤した結果、マイペースを自分に許すことが、自分を責めがちなズボラには必要だからだ。
 
 
そして秘書と呼ばれるとなんとなくくすぐったい日々が続いていく。

 
 
 
 
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2020-01-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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