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メディアグランプリ

根無し草が、自分の場所を見つけるまで


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:Kimmy(ライティング・ゼミ冬休み集中コース)
 
 
「お願いします!私を出向させてください!」
 
 
どうしても次のステージに上りたくて、手が震えながらも必死にプレゼンをした。どこの会社でも、今ならいい。本気で愛して、全力でビジネスがやりたい。もしそこが愛せなくても、次に愛せる会社に巡りあえたときのために、出向して経験をつけたい。
 
 
入社して2年、一度もこんなことを上司にしたことはなかった。自分が貢献できること、出向させることのメリットをPPTにまとめ、わざわざ課のメンバーがいる前で自分の想いを打ち明けた。
 
 

今思えば、私は根無し草のようだった。
 
 
今回は不動産ビジネス、次回は駐車場、かと思えばその次はゲノム医療。職場でリサーチを頼まれることが多く、素人ながらに様々な企業や市場を調べては、すぐにアウトプットとして上司に報告書を出していた。
 
 
毎回知的好奇心が刺激され、知らない領域に冒険しているようでワクワクしていた(断わっておくと、ゲノム医療は二度と足を踏み入れたくない。)
 
 
ただ、もう少しで3年目社員になる。正直に言って、最近ますます自分の行く道が分からなくなってきたのだ。どの業界についてまんべんなく調べたところで、どの業界についてもその道のプロには負けてしまう。
 
 
今後、どのようにご飯を食べて生きていくのか?
まさか、このまま根無し草で終わってしまうのか?
そんな不安に押しつぶされそうになり、どっしりと一つの業界に腰を据えて働く他人のキャリアをうらやましく思うときが多々あった。
 
 
しかし、それでも選り好みをしていた自分がいた。
 
 
ここの関連会社は「カラー」がなんだか自分に合っていない。あそこの会社はどうやら業績がパッとしないらしい。
 
 
そうやって、一つの領域にじっくり取り掛かってみたいと思う自分がいる一方で、キラキラした事業開発のイメージしか頭に思い描いていなかった。自分が挑戦するにふさわしい会社、なんて生意気なことを考えていた。
 
 
そんな自分に、ある日転機が訪れた。
 
 
関連会社に出向した先輩が役目を終えて戻ってきたので、一緒にランチをしないかと誘った。出向先でどんな仕事をしてきたのか、色々と聞き出したいと思っていた。一緒に豚の生姜焼き定食を食べながら、話を掘り出せば掘り出すほど「ブラック」な現場の様子が垣間見えた。
 
 
38.5度の熱でフラフラになりながらも、自分の代わりがいないから自宅で指示を出していた、と言うのだ。「本当にあれはしんどかった」と、先輩はへらへら笑いながら振り返る。
 
 
どうして、そんなに頑張れたんですか?モチベーションを聞きたいです。そうやって問いかけると、先輩は少し黙ってから小さく言った。
 
 
「やっぱり、愛があったからかな」
 
 
企業に雇われている以上、人事異動というのは自分のコントロール外で定められる。それでも、いきなり出向命令を下されて赴任したにもかかわらず、その場所に「愛があった」と言うのだ。
 
 
目を見張る自分を見ながら、先輩はぽつぽつと話し始めた。
 
 
出向する以上、その企業の人間としてふるまう必要がある。その時に、「いずれ元の会社に戻るから」と二心を持っていたら、現場もすぐに見破る。
 
 
最初は電話を受け取るときも、うっかり元の会社の肩書で受け答えしていたんだ。そうすると、周りも「ああ、こいつは所詮はよそ者だ」と相手にしてくれなかった。
 
 
途中から腹をくくって、もう自分の原籍を出向先に移す勢いで仕事をしていたら、だんだん信頼できる「仲間」として受け入れられていったんだ。だから自分も、愛をもって、全力で返したいと思えた。
 
 
……すごい。静かに話す先輩の、目の奥にともる火を見つけてしまった。自分はまさにこの熱情を求めていたんじゃないのか。全身全霊で打ち込み、自分の原点となるどこかを見つけたかったんじゃないのか。
 
 
ただ、出向してみて「ああ、やっぱりここはダメだった」と後悔するのは嫌だという気持ちが、自分の心にまだ引っかかっていた。
 
 
いったん早まる気持ちを抑え、「もし、向かった先に最終的に愛を感じられない場合はどうしたらいいのでしょうか」と先輩に聞いてみた。
 
 
すると先輩は、生姜焼きの最後の一切れをつまみながら何気なく言った。
 
 

「そうしたら、次に自分が愛せる会社を見つけた時のために、全力でやればいい」
 
 
さりげなく、しかし大きな力をもって先輩の言葉は私の背中をそっと押した。
 
 
そうだ。そう考えればいい話だった。私は何をためらっていたのだろうか。自分のこれからの道筋が、少しだけ明るくなってきた感覚を覚えた。もう、心は迷っていなかった。
 
 
オフィスに戻るや否や、自分のこれまでの業務内容を洗い出し、自分の特性や強みを整理していった。着目点はもはや「どこの関連会社に出向すべきか」ではなく、「自分はいったいどんな経験を積みたいか」に切り替わっていた。あれだけ悩んでいたのに、その瞬間は自分の伝えたい内容をPPTに落とし込むがとても容易く感じた。
 
 
きっと、その熱量が伝わったのだろう。有難いことに、上司はプレゼンをしたその翌日に、とある関連会社での企画業務の補佐に自分を立候補してくれた。そこで、どんな会話が成されたのかは分からない。しかし、後日見事に自分がそのポジションを割り当てていただけることとなった。
 
 
まだ、愛を持てるのかは分からない。でもそれはもうどうだっていい。いずれこの経験は、自分が愛せる場所で根を下ろすために必要なはずだから。

 
 
 
 
***
 
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2020-01-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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