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まず、聞こう


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記事 飯田あゆみ(ライティングゼミ平日コース)
 
私のなりわいは、未就園児の外遊びをサポートすることである。
週に一回、お預かりの野外保育を主催し、もう一回は親子参加の「ちびっこ探検隊」という外遊びの活動をし、という生活を6年続けている。
 
これは、そのちびっこ探検隊で経験したお話。
 
この日の探検隊は、「雨でも屋根があって遊べるところ」を見つけようと、山奥の廃屋を探していた。廃工場らしき建物がグーグルマップに載っていたので、だいたいの見当を付けて向かっていたのだ。
 
現地についてみると、その廃工場が建っているところは斜面だったため、谷に向けて基礎を盛ってあり、1メートルくらいの段差ができていた。しかも、段差から建物に至るまでの数メートルは、シノダケが生い茂り、人ひとりがやっと通れるくらいのスペースがあるだけ。
ちびっこ探検隊と銘打ってはいるけれど、ここまで「川口浩探検隊」っぽい場面は初めてだ。
 
小さい子たちは段差では、当然抱っこしてもらわないと登り下りができない。
Nちゃんは、行きはお母さんに抱かれて段差の上にあげてもらった。
そして、藪の中を一列に並んでぞろぞろと進み、建物に入れるところはないかと探して回った。
 
枠が外れた窓を見つけ、そこから廃屋の中を眺めたが、不気味すぎる様子に、ここで遊ぶにはちょっと難があるなあという結論に達し、みんなで帰ることにした。
そして、先ほど段差を登ったところに戻ってきた。
 
私は最初に段差を降りる。
その後ろに子どもたちが続く。
Nちゃんは、その日、私に合うのが二回目で、まだ全然私に慣れていなかった。
 
ひょいひょいと、ほかの子たちを下ろし、さて、Nちゃんの番になった。
 
「抱っこする?」
と聞くと、当然、カラダ中でイヤ! と表明する。
 
「Nちゃんが先に降りないと、後ろの人が降りられないよ」
とか
「ぢーこ(私のこと)が抱っこして待ってたら、お母さん、すぐ来るよ」
とか二言三言、説得を試みてみたけれど、どうしても、うん、と言わないので無理強いするのをやめた。
 
「Nちゃん、こっちにきて、木の後ろによけてくれる?そしたらお母さんが先に降りて、Nちゃんのこと抱っこしてくれるよ」
そう伝えてみると、Nちゃんはすっとよけて後ろからくるお母さんを通してくれたのだった。そして、ご機嫌でお母さんに抱かれて降りることができた。
 
さて、探検の帰り道。
私が「抱っこしていい?」と聞くと、Nちゃんは全く当たり前のように「うん」とうなずき、私に抱かれてくれたのである。
 
何が言いたいかというと。
 
・私は先にNちゃんの「いやだ」という拒否を受け入れた。
・Nちゃんは、私を「この人は信用してもいいようだ」と感じてくれた。
・そこで私の希望も聞いて、抱っこさせてくれた。
 
という順番で起きた、ということだ。
 
私がNちゃんを「後ろからくる人の迷惑だから」と、さっさと抱き降ろしてしまっていたら、Nちゃんは「なんて失礼な大人なんだ!」と怒って、私を拒絶していたことだろう。きっと最後まで抱っこさせてもらえなかったんじゃないかと思う。
 
大人は、子どもの事情よりも、周りを気にして、周囲の都合を優先させてしまうことが多い。
その結果、子どもの気持ちを無視して、自分の要望を通そうとすることをやってしまいがち。
 
順番を間違えると、こじれる。
遠回りに見えても、先に子どもの気持ちを聞く。
その方がうまくいくことが多い。
 
親子の間では、子どもはお母さんが大好きなので、気持ちをないがしろにしてしまったとしても、子どもは、許してくれる。けれど、時折振り返って、「子どもの気持ちを大事にできているかな?」と考えることはとても大切だ。
 
子どもは、だれかに気持ちを聞いてもらえるから、人の気持ちも聞ける人になっていくのだと思う。
心を育ててもらい、コミュニケーションを学び、時間をかけて他人と気持ちのやり取りができるようになっていく。
そうして育った大人が集まって社会を作っているのだ。
 
こう考えると、お母さんというのは、数十年後の社会を作るという立派な事業を担っている人たちなのだなあと改めて思う。
受け入れあえる社会を作りたいと思うのであれば、まずは、自分が受け入れる。
この順番が大事なのだと学んだ出来事なのだった。
 
 
 
 
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2020-01-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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