「子どものうちに経験していた方がいいことがある」
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【2月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:鹿内智治(ライティングゼミ・日曜コース)
「これあの子のだって。返そうよ!」
6才になる息子はポケモンボールにハマっていた。ポケモンボールとは、おなじみポケットモンスターのゲームでもアニメでも出てくる、モンスターをつかまえる道具である。野球のボールより小さくて、パカッと開けると中が空洞になっている。ガチャガチャの景品が入ったボールがまさにそれである。ポケモンボールを持って、息子と一緒に近所の公園に行ったときのことである。
いつものように私はベンチでのんびりしていた。ベンチのすぐそばに砂場があるのだが、そこを見ると、小学校3年生くらいの男の子3人組みが遊んでいた。そのうちメガネをかけた子が、息子と同じポケモンボールを持っていたのだ。「あれ?」と思った。さっきまで彼らは砂場で、砂の山を作って山頂からバケツで水を流したり、山に穴を掘ったりして遊んでいたのを見ていた。でもポケモンボールは持っていなかったと思う。不思議に思った。
めがねの子は、ポケモンボールの扱いは結構ひどかった。ボールのなかに砂と水を流し込み、地面に投げつる。ガシャーンという音とともに、勢いよく蓋があいて、砂と水が飛び散るのだ。それを見て遊んでいる。他の2人の様子は、どこか不安そうな顔をしていた。周りをキョロキョロしている。「もしかして彼らのではなく、うちの子のかもしれない」と思った。
「ポケモンボール持っている?」公園のなかを走り疲れた息子が休憩のため、私の側に来たときに聞いてみた。ポケットを探すと、2つ持ってきたはずなのに、1つしか入ってない。やっぱりと思った。彼らが遊んでいるのはうちの子のボールだ。
ここで、彼らにツカツカと近づいて、「うちの子のだから返して」と言うのを想像した。ちょっと待てよと思った。うちの子のである証拠はない。印が付いているわけでもない。もし、「いや僕たちが持ってきました」と言い返されたら、返す言葉がない。それで、あの人に疑われた~と親に告げ口して、モンスターペアレントとみたいなのが出てきたら…。面倒な話になるかもしれないと思って、その場に留まった。もし最悪返してくれなくとも、また買ってあげれば良い、知らない子と揉め事になるのは避けたいと考えた。
「ない!」と焦ったのは息子である。せっかく買ってもらって、持っているのが嬉しくて、わざわざ公園に持ってきている。それが1つなくなるなんて、悲しいのだろう。これまで公園のなかを遊んできて場所を探し始めた。どこかに落ちてないかとキョロキョロと見始めたのである。
私たち親子の会話を聞いて焦ったのは、砂場にいた小学生の1人だった。メガネの子が雑に遊んでいるものは、あの親子のなんだと分かってしまった。その焦った顔を見て、やっぱり彼らのではないことを確信した。
「これあの子のだって。返そうよ!」
メガネの子に向かって言った。メガネの子は「え?」という顔をした。きっとこれまで、そのポケモンボールはここにはいない誰かの落とし物で、ゴミに近いだろうか雑に遊んでいいと思っていたのだろう。でも、その持ち主が、近くにいるのだ。そりゃ焦るわ。
ポケモンボールを持って水道に走った。砂だらけで汚くなっているのを洗い落として、きれいにするようである。自分が遊んでいた証跡をなくすためでもあろう。一連の様子を見ていて、彼らはまともだと思った。
水道で洗い終わったので、うちの子に返すのだろうと思った。そうしたら、メガネの子は他の2人にポケモンボールを預けて、公園から立ち去ってしまったのだ。「え! 逃げた!」と思って笑ってしまったのだ。恥ずかしかったのか、申し訳なかったのか、悪く事をしたと思ったのか、とにかく姿を消したのだ。なんと子どもらしいのだろう。
残された2人は「どうするよ」という顔を見合わせていた。しばらくして決心したのか、周りを見回して、うちの息子を探しているようだった。息子を見つけて、2人で近づいていった。これで一件落着だと思っていた次の瞬間。1人の子が、太い木の根元にボールを置こうとしたのだ。「落ちてたことにするの!」
直接返してしまうと、今まで遊んでいたことがバレてしまう。傷が付いてるなんて言われたら、面倒なことになると思ったかもしれない。落ちていたことにして、息子がいつか見つけてくれれば、誰も不幸なことにならないと考えたのかもしれない。私は見ていて、「その手があったか」とその想像力に感心したのである。
でも、もう1人の子がさっと取り上げて、「そんなこと止めろ」というそぶりをした。そして、うちの息子に手わして返してくれたのである。「ありがとう」息子は、小学生に感謝を伝えて私のもとに笑顔で近づいてきた。これで一件落着したのである。ボールにいる傷なんて全く気にしていなかった。
様子を見ていて思ったのは、子どもたちだけで、問題は解決できると思ったのである。
最近だとモンスターペアレントに代表されるように、子どもの世界に大人が入っていって、余計な話がややこしくなっているのでは?と思ってしまうことがある。たしかに、子どもたちだけでは解決できない問題が起きることはあるだろうが、それはまれで、今回のように、みんなで力を合わせれば、解決できることはたくさんあると思ったのである。
子どもたちだけで問題を解決しようと思えば、失敗することもある。恐くてその場から逃げ出したり、落ちていたことにしたりして、問題に正直に向き合えないこともあるだろう。でも、そんなことは成長するなかで誰しも経験する苦い思い出である。そういう失敗を通して子どもは成長するものだと思う。大人が入っていくことで、子どものうちにすべき失敗の経験を奪っているかもしれないと思ったである。
子供たちの心温まる、成長する様子を見ていて、ひとりの親として嬉しかった。
***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
http://tenro-in.com/event/103274
天狼院書店「東京天狼院」 〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F 東京天狼院への行き方詳細はこちら
天狼院書店「福岡天狼院」 〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN 〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
【天狼院書店へのお問い合わせ】
【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。