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チーズはひとりで楽しむもの


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:綾乃(ライティング・ゼミ平日コース)
 
「なんで、そんな臭いものが好きなのかしらね」
 
子供の頃から、家族にそう嫌がられつつ、こそこそと食べ続けているものがあります。
チーズです。
私にとっては極上のあの香りも、家族にとっては顔をしかめる対象なのです。
 
最たるものは「チーズかけごはん」と勝手に称している、白いご飯に粉チーズを掛けたもの。
パルメザンチーズのコクと塩気が、炭水化物で引き立つ、味わい深い一皿なのですが、あたたかいご飯に乗せた粉チーズが、通常の倍以上のにおいを放つと言うのです。
 
ですから、最近は、チーズを食べる時はいつもひとりです。
別にさみしいとは思いません。
それどころかむしろ、チーズはひとりで食べるのに向いていると思っています。
 
チーズの香りは、食べる前に、濃厚な味を予感させる、映画の予告編のようなものです。
なので、否定されるのは、
「その映画は面白くなさそうなのに、見るの?」と要らぬ横やりを入れられるのと同じ。
それを聞かずに済むので、ひとりでこっそり、隠れて食べるのに尽きます。
 
ただ、多様性が叫ばれる昨今です。私も大人ですので、チーズの香りを毛嫌いする人たちの気持ちも慮らないでもありません。
そこで、なぜチーズは、彼らが嫌うようなにおいを放つのか、ちょっと考えてみました。
 
チーズは、製造の過程で発酵させたり、カビを使うので、においがきつくなるそうです。これは事実。
 
でも、チーズが独特な芳香を持つのは、そんな科学的な根拠ではなく、私には、
「美味しすぎるから、たくさん食べられて、絶滅してしまわないように、においを出して敵を遠ざけている」
そんなように見えます。
スカンクが、敵から身を守るために、肛門腺からニオイがある分泌液を噴射するのと同じです。
 
だから、チーズのにおいに攪乱させられた人は、チーズを食べなくていいし、嫌がって逃げてくれていいのです。
身動きできないチーズが、敵に対して唯一とれる自衛策なのです。
チーズがとてもけなげに見えてくるではありませんか。
 
それに、チーズは値段が高いので、その意味でもひとりで食べるのに向いていす。
 
ロングセラーのチーズタッカルビ。
話題のラクレット。
期待の新星パネチキン。
 
外食すると、どれも大体1,200~1,500円程度(安いもので1,000円程度のものもありますが、わざわざお店を探すのは大変です)。
 
せっかくこの値段を払うのであれば、誰に遠慮することなく、心ゆくまで味わいたいものです。つまり、独り占めしたいものです。
無駄にシェアをして、大してチーズに興味も敬意ない人間に横取りされたくないものです(特に、普段からにおいを嫌がっている家人には)。
 
しかし、飲食店によっては、二人からしかオーダーできないところもあります。
 
となると、家でひとりで食べるに限ります。
 
「ひとりでは困るチーズ料理もあるのでは?」
とご心配の声が聞こえてきそうです。
 
たしかにあります。
チーズフォンデュはそのいい例です。
分類的には鍋料理ですし、誰かが常にまぜていないと固まってしまうので、常勤の鍋奉行が必要な料理です。
ひとりごはんには、とうてい向きません。
 
でも、まぜ続ける手間もなく、しかも本格的な味になるチーズフォンデュを簡単に作ることができます。
チーズ、白ワイン、にんにく(チューブのものでOK)といういつもの材料に、ヨーグルトを加えるのです。それもけっこうたっぷりと。
 
どんぶり型の耐熱皿に、これらの材料を入れて、ラップを掛けて、電子レンジで温めます。
ひとり分なら、500ワットで1~1分30秒程度。
 
おしゃれなレシピを見ていますと、「ココット皿を使用」などと書いてありますが、正直、あのような小皿では足りません。ここはどんぶりに登場してもらいたいものです。
 
レンジから取り出したら、チーズとヨーグルトが分かれていますので、2~3回まぜ合わせます。
まぜる作業はここだけです。
 
湯気とともにチーズが放つ風味豊かな香りがたちのぼります。
純白なヨーグルトとまぜ合わせると、やさしい黄金色になります。
 
絵本の中のおいしそうな食べ物は、いつもこの色をしています。
「ちびくろサンボ」の虎バター、「ぐりとぐら」のカステラ……。
みんな、太陽の光の色です。
 
子供の頃から、美食の色をすり込まれている私たちに、チーズのこのあたたかな色が、美味しそうに見えるのも当たり前です。
 
とろりとした見た目と感触は、そのまま味見と称して、スプーンのまま舐め尽くしてしまいたい衝動に駆られます。
それもひとりチーズごはんなら、構わないことです。
自分の欲するままに生きていいのだと、チーズは教えてくれます。
 
ともかく、これで固まりにくくて冷めにくい、ひとりチーズフォンデュの完成です。
 
これに、焼いた食パンをちぎりながら絡ませて頂きます。

チーズの塩味と油脂が、ヨーグルトで少しだけおさえられ、まろやかな風味です。
でもコクがあるところは、通常のチーズフォンデュとかわりありません。
とんがっていて、格好いいのに、私の前でだけ甘えてくれるような、そんな親しみを覚える味です。

パンは脇役、チーズが主役。
パン1に対して、2倍近い量のチーズをこんもりと掬い取って、誰に遠慮することなく堪能できるのが、ひとりチーズのいいところです。
 
外食するよりは安上がりなひとりチーズフォンデュも、やはりチーズ自体の値段は庶民には高く、他の食事よりエンゲル係数が高くなりがちです。
外国産のグリュイエルチーズやエメンタルチーズを使おうものなら、和牛ステーキ肉が買えそうなお値段に匹敵します。
溶かしてしまうなんてもったいない限りです。
 
願わくは、日米貿易協定でも、EPA(EUとの経済連携協定)でもTPP11(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)でも、何でもいいので、外国産チーズにかかる関税の早期撤廃を実現してほしいものです。
もしくは、日本産のナチュラルチーズがもっと大量に製造され、流通すればいいのですが……。
 
外食でのチーズブームが続き、定着しそうな昨今。
もっともっと、手軽に、そして独り占めなどとセコいことを言わずに済むように、チーズを堪能できるようになることを祈らずにはいらせません。
 
 
 
 
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2020-01-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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