深夜1時のチキン南蛮
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:sayaka(ライティングゼミ・平日コース)
「ほんとに大丈夫なの?」
結婚が決まった私に母が心配そうに聞いた。
心配されているのは結婚相手の年齢や素性ではない。
私の料理の腕だ。
26年間ずっと実家暮らし。
自炊はほぼしたことがない。
毎日何をしなくても
「ごはんだよ!」の声で台所に行けば
温かくて美味しいごはんが出てくる。
料理上手な父と
栄養士の資格を持った母がいる。
自炊しなくても困らない環境が揃っていた。
私が作れる料理と言えば
両親がいない休日の昼に仕方なく作る
「麺つゆをかけただけのパスタ」くらいだった。
(具は一切なし。麺つゆは濃縮タイプをストレートでかける)
お腹が満たされることを優先しているから
料理へのこだわりも何もないし
作ることに楽しさを見出すこともなかった。
そんな娘の姿をずっと見てきたのだから、
母が心配するのも無理はない。
私が母の立場だったら絶対に同じことを言うだろう。
「ほんとに(結婚して)大丈夫なの?」と。
そんな私ももう結婚して10年以上になる。
10年の月日が私を大きく変えた。
今は大の料理好き。
でもそれまでには色々あった。
新婚当初、ごはんを作るにあたって心配だったのは味つけだった。
塩少々ってどのくらいなんだろう。
甘辛い味って何と何を組み合わせているのだろう。
料理上手の人がよく言う「味つけは適当だよ」なんて絶対に信じられない。
もっと正確な数値がほしい。
そんな私の救世主になったのはレシピ検索アプリだ。
私がやることは作りたいメニューを入れて検索するだけ。
それは、電車の乗り換え検索に似ているかもしれない。
行きたい駅を入れたら、
乗り換え方法がパッと分かるみたいに、
作りたいものを入れたら
何をどれだけ買って、どう作ればいいか丁寧に教えてくれる。
しかも作った感想や人気のレシピまで分かるとは
なんて至れり尽くせりなのか。
「これさえあればもう大丈夫!」
最初の不安はどこかに消えていった。
唐揚げ、ハンバーグ、カレーライス、
コロッケ、グラタン、春巻き。
歩き方を覚えて世界が広がった子どものように
作れるメニューが増えていくのがとにかく楽しかった。
毎日はりきって作って仕事から帰った夫に食べてもらう。
深夜1時に。
だって、レシピには作り方は書いてあるけど
寝る直前に食べるには高カロリーだよ、
翌日お腹がもたれるよ、とかまでは書いてなかったから!
(当たり前だけど)
だから、温かいごはんを食べてほしいというよりも
作れるようになった料理を食べてほしい!
そんな思いで夜中に高カロリーな料理を作り続けた。
今でも覚えているのは
大きな鶏モモ肉を油の中に入れて作ったチキン南蛮。
(もちろん作るのは深夜1時)
残念ながら、夫が美味しそうに食べていたかまでは覚えていない。
そして当たり前ように、夫の体重はどんどん増えていった。
そんな日々に転機が訪れる。
「子どもに何を食べさせたらいいのかな」
出産を機にそんなことが気になって参加した料理教室。
そこで出会ったのは
野菜をたっぷり使ったメニュー、
そして、「本当に食べたいものを食べる」という言葉だった。
先生は
「家族が食べたいものも作ってあげてくださいね」とも言っていた。
そういえば結婚してから
本当に食べたいものを作った日はどのくらいあっただろう。
夫が食べたいものを作った日はどのくらいあっただろうか。
夜中にチキン南蛮を作ったのは
本当に食べたいからでも夫にリクエストされたからでもなく
「作れるようになりたかったから」だ。
自分の手持ちのカードを増やしたいがために
自分の気持ちも夫の気持ちも無視して作っていた。
本当に食べたいもの、か。
そこで、「どんなごはんが食べたい?」と夫に聞くと
「家では野菜が食べたい」と初めて聞く答えが返ってきた。
平日のランチや飲み会など、外食ではどうしても野菜が少なくなってしまう。
だから、家でのごはんは野菜を食べたくなる、と。
その日を機に我が家に野菜料理が増えたのは言うまでもない。
レシピ検索や乗り換え検索は
ゴールまでの方法は教えてくれるけど
前後の感情までは教えてくれない。
作ることに精一杯で気持ちは二の次だった料理に
「食べたいものを作る」という選択肢が増えた。
野菜が食べたい日、
カレーが作りたい日、
夫の食べたいもの、子どもの食べたいものを作る日。
その時々の気持ちを大切にして料理をする。
すると心の奥からじんわりと楽しさや嬉しさがこみあげてくる。
その気持ちを感じられるから私は料理が好きだ。
相変わらず夫の帰宅時間は遅いが、
以前に比べて楽しく食事をしてくれている気がする。
「家のごはんを食べると落ち着く」
「母ちゃんのごはんは美味しいね」
10年後にそう言ってもらえるよ、とあの時の母と私に言いたい。
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