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メディアグランプリ

バックパッカーひとり旅は、心のストレッチである。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:さかの(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「バックパッカーして人生変わった!」
「旅での異文化経験は最高の財産」
 
この手の話をする人に、私はいつも冷ややかな視線を送っていた。
海外でのハプニング、行った国の数、如何に節約したか、そこで得た学びや価値観…。
こちらが聞いていなくても嬉々として教えてくれる。彼らにとってそれはとても有益な情報で、話さずにはいられないのだろう。独自の使命感に似た何かを感じる。
嫌味な書き方をしてしまったが、お察し通り、私は斜に構えた性格である。
こういう類の話をされると、海外経験でマウントをとられている気持ちになり、素直に耳を傾けることができない。相手に悟られないように「すごい! 私も行ってみたいなあ」などと言いながら、心の中では(この海外かぶれめ……)と静かに舌打ちしていた。
 
そんな私が、ひょんなことから海外一人旅をすることになる。
2019年12月4日。私はタイのドムアン空港にいた。
 
遡ることその1ヶ月前。私は新卒から3年勤めた会社を辞めた。理由は割愛するが、とにかく当時の私は無気力だった。幸い貯金はいくらかあったので、1ヶ月ほどはただただぼーっと過ごしていた。最初は、仕事のストレスから解放されとても快適だったが、だんだん何もしない生活にも飽きてきた。そうは言っても、きちんと仕事をしている友人達に会うのはなんとなく気が引けたし、かと言って就職活動やアルバイトをする気持ちにもなれない。私が働いていないことを聞きつけた親戚からのおせっかいな連絡やアドバイスにもうんざりしていた。
 
そんな私の生活を見かねて、同居中の彼氏からこんなことを言われた。
「旅行でもしたら? 働いたら長い休み取れることなんて滅多にないし。世間体が面倒なら、物理的に離れるのが手っ取り早いよ。生活のことはいずれ嫌になるぐらい考えるだろうから、まずは思い切ってリフレッシュした方がいい」
彼の言葉はとても理にかなっていた。後から聞いた話だが、当時私があまりにも重苦しい空気を放っていたため、一度旅行にでも行ってもらって、部屋の空気を入れ替えたかったらしい。(聞かなきゃ良かった)
 
そういうわけで、早速私は旅に出ることにした。「安い・暖かい・直行便」この3つを条件に候補地を絞り、決めた行き先がタイだった。
 
12月のタイは、極寒の日本とは打って変わって、茹だるような暑さだった。初日の夕方、一人異国の地に降りたった私は、重いバックパックを背負いながら地下鉄と国鉄を乗り継いで、Airbnb(地元の人の家を借りて泊まる民泊サイト)で予約していた部屋へと向かった。首都バンコクの外れにあるウィークリーマンションの16階。窓の大きい部屋だった。その日はだいぶ疲れていたので、近くのコンビニで適当なものを買って食べて、観光らしいことは何もせずとりあえず寝た。
 
翌日から、タイひとり旅の洗礼を受けることになる。
数え上げたらきりがないが、
・屋台で香辛料たっぷりの春雨サラダを注文してしまいお腹を壊す
・ナイトマーケットで定価の2倍近くの茶葉を買う(地元スーパーで正規の値段を知る)
・タクシーの運転手に英語が通じなくてよくわからない場所で降ろされる
・日本語で親しげに話しかけられて謎のガイドツアーに勧誘される
・虫除け対策を怠り20箇所近く蚊に刺される
・野犬に吠えられる
・熱中症になる
ざっと思い出せるだけでこれだけある。なるほど、これだけ色々あると、確かに誰かに話したくもなる。日本に帰れば笑い話だが、現地でたった一人でこれらの出来事が起こると、かなり深刻な不安に襲われる。帰国したバックパッカーたちは、「自慢話」としてこれらの話をしていたのではなく、話すことでその体験を「笑い話」に昇華していたのだろう。そう思うと、なんともかわいい話である。
 
日本で普段生活していると、日常の中で何か全く想定できないような大失敗をすることは、ほとんどない。何せこちらは日本歴25年超のベテランである。大抵のことは予想がつくし、例え失敗しても、どう対処すれば良いのか、あるいは誰を頼れば良いのかは大体わかる。しかし、外国へ行くと日本で積み上げた経験が通用しない。その国仕様にリセットされる。見るもの・触れるもの全てが初めてで、子供の頃に戻ったような感覚になる。それがとても新鮮だった。
 
バンコク滞在は2日程度の予定だったが、16階の部屋から見える夕焼けがとても気に入ったので、次の宿泊客の予約があるギリギリまで滞在し、結局7日間同じ部屋に泊まった。ゆっくりと沈んでいく夕陽を見るのが毎日の楽しみだった。「夕陽を見る」なんて、別にタイでなくても出来るけれど、時間をたっぷりとってただ夕陽だけに没頭するのは、旅ならではの贅沢な時間だった。
 
その後、アユタヤ、チェンマイなどの主要都市を巡って、私のタイひとり旅は終了した。
人生が変わるような運命的な出会いも、価値観が180度も変わるような大きな事件もなかった。ただ、日々の小さな失敗と、日々の小さな楽しみを繰り返すことで、凝り固まっていた心が大分ほぐれた。バックパッカーひとり旅は、心のストレッチだ。緊張したり、緩んだり、それを繰り返すことで、徐々に心が柔軟になっていく。帰国した私は、以前より幾分か心が軽やかになっていた。これから先、新しい仕事のことなど考えるべきことは沢山あるが、今ならきっと柔軟に挑戦して行けそうだと感じている。
(ちなみに、暑い中よく歩いたおかげで、体は−3キロ軽やかになっていた)
 
 
 
 
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2020-03-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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