「書けない」180日奮闘記
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:ミヤザキノリコ(ライティング・ゼミ日曜コース)
「なんで、そんなに書きたいの?」
元大手出版社の編集者のHさんは、紹興酒をグイッと飲み干して私に向かって言った。
それまでこれこれついて書きたいと恥ずかしいほど熱弁を奮っていた私は、不意を突かれて絶句した。
「なんで書きたいのだろう?」熱く語った私の言葉の中に、自分で自分を騙している嘘を見抜かれた気がした。
そもそもHさんには、半年前に契約した自費出版について相談していた。自費出版は絶対にしないと決めてお断りしたのだが、当時自信喪失していた私の心を営業の人は癒し、「あなたの言葉を読者は待っている」と持ち上げられ、遂に豚が木に登ってしまったのだ。
担当編集者さんからは「完全原稿をお待ちしております」のみ。顔合わせもない。一体何について書くか具体的に決まっていない。
元々絵本原稿(文章のみ)を息子の子どもの時に書いた詩を1時間でリライトして、そのお粗末な文章をワードでもなくメールで送ったことがきっかけだった。それで営業の人から電話がかかってきたのだ。「子育てに悩んでいるお母さんに向けて書いてください」という言葉に「書けません」と断りながらも契約してしまった。
キングコングの西野さんは2万部買い取りで、それをクラウドファンディングで売っているから、自費出版といっても新しいビジネスモデルであると言われた。ならばと西野さんを見習う?と研究すればするほど、訳わかんなくなり迷宮入りしてしまった。
売れない、誰も読まない本を書くのか、自分の葬式の時に配るのか。一体どうすればいいのか。友人からは「作家さんは皆血反吐を吐くように書いているのよ!書きなさいよ」
と言われ、もうどうしていいかわからなかった。
近所に「松子の店」という幼稚園のバザーで売られているような手芸品を売る店ができた。品のいい奥様が店に座っている。いつも誰もお客さんはいないが資金力があるのか、いつ閉店するのかと思いきやまだ続いている。マツコデラックスのマツコならわかるが松子の店で客は来ないだろうと思っていた。しかし私は自費出版という「ノリコの店」を開いてしまったのではないかとその店の前を通るたびに胸がギュッと締め付けられるような気がしていた。
「そんなに書きたいなら、自分で書いた本をコミケで売ればいいじゃん。お母さんみたいなおばさんやおじさんもいっぱいいるよ。同人誌ってヤツ」息子が呆れた顔でいう。もう路上で電子ピアノでも弾き語って詩集でも売るか?という気分になっていった。
第一何を書くかがわからないのに、完全原稿を6万字を編集者との打ち合わせもなく、1人で書かなければならない。私は相当なバカである。
子育てで悩んでいた頃に毎日1200字から2000字を毎日書いていた。書くうちに主婦友達から作家さん、あらゆる職種の方に取材して記事を雑誌に書くようになり、小さなセミナーから1000人規模までのセミナーを企画し主催するようになった。一介のただの主婦が著名人に手紙を送り、講演してもらったり、取材させてもらったりした。
その後エンピツという日記サイトで趣味程度に文章を書いていたが、当時の2ちゃんねるのある祭りで晒されてから表で書くことはやめた。それから15年近くきちっと書くということは避けてきた。Facebookでも食べ物の写真ばかりで、ブログもやっていない。そんな書いていない私が一冊の本を書くのだ。24時間マラソンに突然当日参加するようなものだ。愛は地球を救うどころか、自滅するだけだ。
困り果てたある日曜日の夜、ひと気もまばらな池袋の道を歩いていた。そして天狼院書店というコタツのある不思議な空間に足を踏み入れていた。「ライティング・ゼミ」という武者修行の場に身を置くことにした。毎週2000字の記事を書くという課題が出る。どこかで「書く」ことは筋トレと同じだと思っている。日々書かなければ書けなくなることはわかっている。私が書けないと言っているのは、ソファーに寝そべってポテチを食べながら「ビリーズブートキャンプ」のDVDを見て、弛んだお腹を摩りながら「なんで痩せないのかしら?」と言っているようなものだ。
こうして書いているうちに、次第に書きたいことが見えてくる。取材も始め、なんとなく書きたいことが見えてきた。それは思わず熱弁して語ってしまうほどになった。でもそれは自己満足の域であることはわかっている。
自費出版は契約解除することにした。180日間、悩みに悩んだ決断だった。だが、私は出版社にとても感謝している。それはもう一度書くことを私に勧めてくれたから。
自費出版の相談に乗ってくれた元編集者の人の問い、「なんで、そんなに書きたいの?」
今なら言える。書くことは人生が変わることを私が知っているから。今私は人生を変えたいのだ。
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