そりゃないぜ、セニョリータ ~わずか5分で30万円を失った僕の大失敗~
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記事:近藤泰志 (ライティングゼミ平日コース)
「なんてこった、パンナコッタ……」
スマホの画面を見るたびに絶望という言葉が浮かんだ。
「きっと悪い夢をみているんだ」
気を取り直してもう一度スマホの画面を確認する。表示は何も変わっていなかった。
「……そりゃないぜ、セニョリータ」
茫然自失。もう自分でも何を言っているのか理解出来なくなっていた。
話は5分前にさかのぼる。昨今のコロナウィルス騒動は株式市場にも黒い大きな影を落としており、僕を含めた多くのトレーダーはお手上げ状態になってしまった。どの株式も大きく下落しているため利益を出すことは奇跡に近く、いまはどれだけ損失を抑えることができるかということが重大な責務になっていた。
そんな負け戦のような状況の中、僕はとある企業に目を付けた。その会社はテレワークサービスを運用している会社で、在宅勤務が増えてきたこのご時世なら需要があり、株価もきっと上がっていくのではないかと思い、僕はこの会社の株を3000株購入した。
この非常事態を逆手にとって利益を出そうとしていることに罪悪感がないわけではない。しかし、『風が吹けば桶屋が儲かる』と昔から言うように、不利な情勢でも利益を出す会社は皮肉なことに出てくる。誰かが泣けばその裏で誰かが笑う……世の中はそういうものだと僕は株式投資を始めてから今日まで嫌というほど味わってきた。
早速、購入した株の株価をチェックする。株価は僕の期待に応えるかのようにどんどん上がっていく。出だしは好調で購入してから2分で早くも株価が数万円上がっていた。僕は自分の読みが正しかったと胸をなでおろした。そう、僕は勝ったんだと。
その刹那、悪魔が僕の耳元でそっとささやいた。
「これ……もう少し待てば株価がどんどん上がるんじゃない?」
勝っている時というのは怖いものだ。いつもなら耳を貸さないであろう甘い悪魔の囁きも心の隅々にまで響き渡ってくる。そしてそれは『油断』や、『過信』という魔物に姿を変えて、勝者を敗者の沼に音もなく引きずりこもうとしてくるのだ。
あの時の僕を例えるなら桶狭間の戦いで討ち取られた今川義元だ。いくつもの砦を攻め落とし、勢いのままに自軍の勝利を疑わなかった義元は油断と過信という魔物に飲み込まれ、桶狭間で命を落とした。僕も命こそ落とさなかったが、今思えば完全に油断して、自分の能力を過信していた。悪魔の囁きを女神の助言と思い込み、利益を確定させずに1分だけ待ってみることに決めた。
その1分後、悲劇が始まった。
おおよそ信じがたいことが起きた。先ほどまで数万円の利益を上げていた株価が、まるでナイアガラの滝のように急降下していくではないか。みるみるうちに株価はどんどんどんどん下がっていく。ここまで来たらもう誰にも止めることは出来ない。これが逆ならどんなにうれしいことか。僕のスマホはもはや逆打ち出の小槌状態だ。画面上の更新ボタンを押せば押すほど株価は下がっていく。スマホを持っているとお金が減っていくような気分になり、恐怖すら覚えた。そして株価の下落は5分後にようやく落ち着いた。
悪夢のような5分間だった。
悪魔の囁きに耳を貸し、「1分だけ待ってみよう」という甘い考えをもった僕は株式市場という名の戦場で大敗を喫してしまった。敗因は僕の油断と過信だ。それ以外の何物でもない。一瞬の油断が失敗につながることはもちろん知っていた。実際に自滅したトレーダー達を今までも嫌というほど見てきた。しかし他人の失敗を対岸の火事のように思い、自分には起こるわけがないと僕は高を括っていたんだと思う。
結果、僕はわずか5分で30万円を失った。
30万円というと吉野家の並盛牛丼(352円)ならなんと852杯, 王将の餃子(220円)なら1363皿も食べることができる。もっといえばちょっと贅沢なハワイ旅行に行けるぐらいの金額だ。そのぐらいの大金を僕は自分の軽率な判断で失った。これを愚かと言わずになんと言えばよいのだろうか。もう我ながら馬鹿すぎてしばらく言葉が出なかった。そしてこの5分間で株取引の怖さを嫌というほど思い知った。
「はぁ……ダメ人間だ」
僕はため息をつきながらスマホの画面を閉じた。そう、株式投資は全て自己責任。勝てば天国、負ければ地獄。そして今回の僕は天国行きの列車を自分で地獄行きに進路変更してしまったのだった。
見事な自滅だ。
もしこれから株取引を初めてみよう、または興味があるという方がいたらコロナウィルスが落ち着くまでじっと様子を見ているだけにして今は欲に溺れた哀れな僕を酒場や職場でネタにしてほしい。
「わずか5分で30万円を失った人がいるんだよ、株で。ほんと馬鹿だよねぇ……」
そう言って笑ってもらえれば僕も少しだけ救われるだろう。
そして僕自身もこの失敗を笑い話に変えられる日が来ることをいまは信じてやまない。
「まだだ、まだ終わらんよ」
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