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公務員らしからぬ父


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記事:yokon(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
公務員、と聞けばどんなイメージだろうか。
マニュアル通り、真面目、安定、お堅い……。
 
私の父は、すべて真逆である。マニュアルなんてない。俺がルールだ、そんな感じ。
職場の方はさぞ大変だろう、私ならこんな上司まっぴらごめんだ。笑
 
そんな父も還暦を迎え、2020年3月、小田原市役所を定年退職する。
 
父は、旧石器を専門とする考古学者だ。小田原市では小田原城館長のイメージが強いが、市役所に採用されたときは、同じ歴史を扱うとはいえ大学までの専攻や興味とはかけ離れた分野に、毎日泣いていたそうだ。(ホントのことは100倍に盛って話す祖母談。)
 
神奈川県小田原市には、旧石器時代の遺跡は出ない。スペイン語を専攻してきたのに、ロシアに赴任するようなものだ。ピアノ専攻なのに、ギターを弾けと言われるようなものだ。
 
採用側のメリットは「吉野家の牛丼」だった、との昔話が常。
「早い」「安い」「うまい」
通勤時間も短く、若いから低賃金で、即戦力。(決して、早食い試験があったわけではないと思う。)
 
採用当初は、ずっと辞表を胸に小田原城跡の発掘調査をしていたそうだ。専門外のフィールドでひたすら土を掘る無念があったに違いない。やりたいことは他にある。旧石器の遺跡を、と。
 
それでも掘り続けたら、まったく何も出なかったわけではないみたい。
お堀方面の関東ローム層から、出ないと思っていた石器が出た。そこで、母まで「発掘」した。
 
旧石器時代の出る地域への転職希望はずっとあったかもしれない。それでも、小田原一本でやってきた。時には小田原城跡の発掘調査や文化財保護業務、時には小田原城にまつわる観光業務。
 
専門外に「好き」を見つけ、それをずっと続けることが、どんなにすごいことか。専門外を「本職」とし、置かれた場所で最大限に自分の力を発揮することが、どんなに奇跡的なことか。周りにも恵まれていたのだろうと思う。父と同じ公務員になった今ならわかる。
 
公私混同しない。公務員なら、わかっていなくてはならないラインがある。下手すれば新聞沙汰だ。しかし、父ほど、公私混同している公務員を私は他に知らない。プライベートなはずのSNSには、職務で知り得た公開できる情報と写真でいっぱいである。普通ならギリギリアウトだ。勤務時間なんて概念はない。家でも、勤務時間外でも仕事をし、仕事中に職務を超えたこともしているような気がする。小田原城天守閣リニューアル、SAMURAI館、NINJA館オープンと、各種イベント、美味しいラーメン店の情報まで。「俺」チャンネルを確立している。父は「Facebookも仕事のうち」と言い切るし、確かに効果はあるようだが、真面目な公務員である私は、ちょっとだけ心配している。
 
公務員らしからぬ公務員。良くも悪くも、枠にとらわれない。枠は自分で作る。ほかの業種なら、プロデューサー的な役回りだろうか。観光資源も歴史的背景も、すべては小田原城周辺プロデュースのために。NHKブラタモリを皮切りに、テレビ出演も増え、小田原城の取材に関してはだいぶテレビ慣れしてきたみたい。「専門外なので」そんなことは微塵も感じさせない、自信満々の顔。旧石器考古学という前輪と、城郭考古学という後輪で走っている。二輪合わせて今がある。一輪車よりも安定感がありそうだ。
 
家では仕事の話をしなかった。というか、家にいなかったのでわからない。そんな公私混同のプライベートでは、私含め4人の子どもを養ってくれた。曾祖母、祖父母、父母、子どもの最大9人家族。父を抜いて8人が座るだけで食卓はぎゅうぎゅう詰めだった。父は常に家にいなかった。いないのが当たり前だった。いないおかげで残り全員座れた。
 
だけど、確かに存在感はあった。いつも家にいないくせに、とてつもなく父の存在はデカかった。家族のために働いていたに違いない。だけど、お給料のためだけに仕事をしているわけじゃないことは、子どもながらにわかっていた。家で、お金の話はしたことない。そもそも残業代なんてつかないのに、ひたすら職場に残っている。専門じゃないことを専門になるまで突き詰めて、専門もあきらめずに研究を続けていた。
 
いつのまにか、旧石器研究で名誉ある賞を取っていた。
いつのまにか、旧石器の分野で博士号を取っていた。
いつのまにか、旧石器考古学の本を出版していた。
 
ホワイトか、ブラックかで語れば、間違いなくブラックな働き方だ。
しかし、白か黒かと言われたら、父の仕事人生は白星だろう!
 
辞めずに続けることが必ずしも称賛される時代ではなくなった今だからこそ、辞めずに続ける中に「新たな専門」を作ってしまった人の勝ちなのだ。
 
公務員歴たった6年の私には、父の背中は眩しい。そして、とっても遠い。
 
旧石器の前輪と小田原城の後輪で、これからも走行距離を延ばすだろうか。スピードを上げるだろうか。そろそろ身体を労わってほしいと思うと同時に、まだまだ光り輝いてほしいと願う。
 
公務員らしからぬ父が退職する。
37年9ヶ月、私が産まれるずっと前から今まで。
本当にお疲れさまでした。
育ててくれてありがとう。
 
 
 
 
***
 
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2020-03-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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