ティラノサウルスは、覆される。
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記事:マツカ(ライティングゼミ・特講)
「これがね、モササウルスでこっちがエラスモサウルスで!」
「これはヴェロキラプトルでしょ、こっちがキノドン!なんでわかんないの?!」
5歳の息子の恐竜の知識量がおかしい。
ある日NHKスペシャル恐竜超世界という番組を見た彼は、
すっかりティラノサウルスとモササウルスに魅せられてしまった。
お絵描き帳に恐竜が増え、おもちゃが増え、
毎週のようにジュラシックパークシリーズの映画を流し、
口ずさむのはジュラシックパークのテーマ曲となってしまった。
そして、図鑑が増えてきた。
そこで最近の恐竜図鑑というものを読むようになったのだが、
違う。
わたしの知っているティラノサウルスじゃない。
羽が……生えている。
ティラノサウルスには羽毛が生えていたというのが、今の定説である。
わたしの頭の中に描くティラノサウルスといえば
ゴジラのように立ちあがった姿、
大きな口、
小さな手、
太い脚、
大きな尻尾は地面についていて、
それでバランスを取っている、という姿をしている。
この図鑑に載っているティラノサウルスは、
太い脚を中心に、頭部が前に伸び、後ろに尻尾が伸ばされている。
とさかのような毛や、たてがみのような背中の毛、
そして、2本のかぎ爪の根本に申し訳程度の羽が生えている。
昨今、科学が発展したおかげで、
何やらよくわからないが、いろんな分析方法で、
羽の生えた恐竜がいたことが証明されているらしい。
わたしの知っていたティラノサウルスは、科学によって覆されていた。
NHKのラジオで夏休みに「こども科学電話相談」というものがある。
こどもたちが日常で持った不思議な疑問を、
電話をかけると専門の学者や博士たち相談員が回答してくれるものである。
昔、子どもの頃に父親が聞いていて「勉強になるからお前も聞け」と言われていたが、
ピンとこなかった。
なるほど、今聞くととても勉強になるし、娘に「聞け」といったのも意味が分かる。
インターネット上でも夏休みになると、こども科学電話相談のハッシュタグで盛り上がる。
ここ2、3年、そういう世界を知って、ここに電話をかける子供たちはすごいなぁと思っていた。
その中に、聞いていてとても面白い専門家が出てくることがある。
「ダイナソー小林」である。
小林快次教授は、北海道大学総合博物館の教授である。
恐竜学者として1年中世界を飛び回り、発掘作業に携わったり、論文を書いている日本で有数の恐竜の専門家である。
この人が、夏休みに「こどもたちから質問されたくて」日本に帰ってくるそうだ。
このダイナソー小林に質問という戦いを挑む子供たちのことを「恐竜キッズ」と呼ぶ。
恐竜キッズたちは、この世にすでにいない恐竜のことを、
図鑑や博物館でこの世にいるかのように知っている。
どんな時代にいて、大きさはどれくらいで、どんなものを食べて、
そのうえでどんな生活をしていたかをよく知っている。
そのうえで、図鑑の上で把握できなかったことを、小林博士に聞きに来るのだ。
恐竜キッズたちの質問はすさまじく、最初に電話を受け取るNHKのアナウンサーが何の話をしているのかわからず、何度も
「え?」
「ごめんなさい、今なんと言ったのかしら?」
「な、なにサウルスですか?」
とタジタジになるような言語をぶつけてくるのだ。
電話を受けとった小林教授は
「じゃあ、まず、ラジオ聞いてる人たちに、その恐竜がどんな恐竜か説明してあげて?」
と、ジャブを放つ。
すかさず子供たちは、質問したい恐竜が、
何時代にいて、何メートルで、何を食べていて、どこに住んでいて、
特長はこんなだ、ということを伝えてくる。
そこで、小林教授は恐竜キッズが知識をどれくらい持っているかを把握するのだ。
ダイナソー小林は
「恐竜は現代にも生きている。それは、鳥である」
と主張している。
恐竜にも分類があり、
鳥盤類,竜盤類 獣脚類、竜…ナントカ類などいろんなカタチをしたものがある。
その竜盤類―獣脚類の先に鳥類がいるそうなのだが、
太古の昔の生き物で絶滅した種族だと思っていたものが
いまでは別のカタチになって生き続けているというのは
なるほどロマンがある。
余談だが、こども科学電話相談にはもう一人有名な
森林総合研究所主任研究員「バード川上」という鳥類学者がいて、
ダイナソー小林と二人そろってる日はふたりの掛け合いが面白い。
「鳥は恐竜です」「いや鳥は鳥です!!」
と言い合っている学者二人の熱いトークが聞ける。
アーカイブなどがあるので聞いてみてほしい。
二人が揃う日は神回だ。
自分が子どもの頃に身に着けた知識は、
完璧ではなかったのだ。
日夜、たくさんの研究者たちが、それぞれ専門分野で
新しいテクノロジーを駆使しながら、
謎や、未知や、仮定や、意味、理由を探り、そして一部は解明されていく。
いい時代にいるな、と思う。
そして、それを、直接教えてくれる研究者や、本がある。
研究者たちは、自分で解明できなかった残りを、次の子供たちに託すためにも、
電話相談などで話をしているんだろう。
息子の恐竜熱がいつまで続くかはわからないが、
続いているうちにダイナソー小林に相対する機会があれば、
彼の未来がひとつ開けるのかな、と思っている。
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